A)昔のことを思い出したんだ
B)なんだよ、
A)俺の中学の頃の話だ。冬休みの宿題で習字があったんだよ、で、みんな「謹賀新年」とか書いて教室の中に張り出すんだ。で、学年代表の習字をみんなで選挙で選んだんだ。
B)だれが上手に書けてるかみんなで選んだんだね。
A)そうだ、一位は育ちが良くて成績優秀スポーツ万能の女の宇野、二位は同じく優秀な男の河村、まあ両方クラスのエースだ、で、三位は、無口で、凶暴で、クラスの中で浮いた存在で、勉強もできない坂本っていうやつだったんだ
B)それがどうしたんだよ、習字がうまいベストスリーを決めたんだろうが、選挙で。
A)俺が四位だったんだよ、それで学年代表に選ばれなかったんだ。
B)お前が負けたんだろう、悔し紛れにこんなところで憂さを晴らすなよ
A)そうじゃあないんだ、どうみても俺のほうがうまかったんだよ、先生もフォローするように、俺のもうまく書けてますね、なんていってたんだよ。
B)じゃあ、お前の言うことを信じたとして、なんでその坂本が選ばれたんだ、しかも選挙なんだろ
A)そこなんだ。クラスのみんなは坂本が頭悪くて、スポーツもできない、孤立してるのを知ってるんだ。その坂本の唯一のとりえの字がうまい、っていう最後
のプライドを崩しては、彼を追い込んでしまうという。だからクラス全員で、暗黙の了解的に大人の対応をやった、ってことなんだよ、で、俺が犠牲になったん
だよ。
B)それ本当か?おまえの勝手な想像じゃないのか?被害妄想だろ。
A)じゃあそれはそれで勘弁してやる
B)偉そうに言うな
A)それはまあいいとしてなあ、坂本を含めて学年で三人バカで習字がうまい奴がいたんだ。よく、字は人柄を表す、なんていいますね。その三人は別に人柄がいいわけでもなかったんだよ。
B)育ちは良かったんじゃないのか?近所に習字教室があって親に通わされたとか
A)そうかもしれん。だけどな、字は人柄を表さないぞ、年賀状とか結婚式や葬式の時に、名前書くときに達筆だとか言われてよろこんでるだけの奴だって結構いるんだ。
B)あ、なるほどね、いたりしますね
A)しんにょうとか、なんとか「辺」を必要以上にはねる、とか伸ばす奴いるだろ、あれはかっこつけてるんだ。自分の字に惚れてる、かっこつけ野郎で、見かけ重視で中身が何にも無い、うわべだけの奴なんだ
B)そこまで言うなよ
A)俺の大学のときの岩河教授なんて、字はへたくそだったんだ。育ちもいいのに、
B)性格が悪かったのか?
A)そんなことあるかい。人柄も良かったよ、だから字と性格は関係ありません、あるとすれば、ミミズが這ったような字を書いて達筆だとか言って人が読めな
い字書いて喜んでる奴等だ、人に読んでもらうために書いてるのに、読めない字書いてどうするんだよ。自分本位で不親切で横柄なやな奴だよ
B)ま、あれは芸術だからねえ
A)年賀状でそれはないだろ
B)ま、読める字を書いていただきたいですね
A)下手だけど丁寧に書いてある字は信用できるね。親切で優しい性格だ。字が雑な奴は、せっかちなんだ。字を書くのも早く終わらせたいんだな、それはお前のことだよ、もう終わらせたいんだろうが
B)おまえ鋭い観察だな、よくわかったな、お前の愚痴を聞いてもらっているお客さんの気持ちになってるんだよ。はい、今日はここまでです