casthitaskbust1984のブログ

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contents  『いじめの教室』

『いじめの教室 第一部』


 浅村綾が始めてこのクラスに入ったとき、それは二年生に進級した初日だったのだが、少女はさらざらとした嫌な感覚を得た。
 新しい環境に移動するたびに、元来、勘のいい少女の元には、ある種の予感が訪れる。それはほぼ百発百中の可能性で当たり、彼女に未来について確かな明暗を告げるのだった。
 もしも、彼女が大人で競馬や株の上下が予知できるならば、いっそのこと、それは幸福といえるだろう。しかし、彼女は大人ではなく、競馬や株の値が読めるわけでもない。ただ、これから1年間の幸不幸がだいたい分かるというていどで、自分の運命をコントロールできるわけではない。
 だから、不快なイメージが少女の脳裏を掠めたとき、自分の能力を呪ったものだ。せめて、期待することすら許されないのか、と。 


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 『いじめの教室 第二部』


 ゴールデンウィークが終わっても、浅村綾と飯田由佳は、まだ一度も口を聞いていない。それどころか目を合わせたことすらほとんどない。
 二人の間に築かれる裂きがたい絆。
 それは少し先のことになる。だが、その過程までの約一ヶ月、二人は見えない世界で意思を互いに交換していたのかもしれない。
 そうは言うものの、今のところ、二人は互いを深く知る術を持っていない。
 一つの色に染まった教室は紅衛兵が闊歩した、文革時代の中国に似ているかもしれない。
 女子は言うまでもないが、男子までが永和子の色に染まった2年3組の教室。
 そのような場所で別の色を主張するのは、二人だけだった。
 もっとも、二者のうち、前者は密かに、そして、後者はそう主張せざるを得なかったのである。何故ならば、いじめられっ子という役割を無理矢理に背負わされ、彼女に選択の余地はなかったからである。
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 『いじめの教室 第3部』

 浅村綾と飯田由佳は無意識の世界で互いに通じ合っていた。それは真新しい導線のようなもので、電気が通ったことは一度としてない。
 こういうことはご存知だろうか。
 電気製品が中古か新品かの両者を分けるのは、回路に電気が通ったことがあるか否からしい。
 いちど、通ってしまえば、中古品になってしまう。言い換えれば、もはや、後には引けないということになる。
 綾と由佳の間に引かれた導線に電気が流れるに当たっては、とある象徴的なオブジェクトが必要だった。
 駅前にすくっと建っている白い大きな建物。
 彼女たちが住んでいる地方都市では一番大きな総合病院だった。

 両者が一堂に会するに当たってはそれなりの経緯の説明が必要になる。
 
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 『いじめの教室 第4部』

 病室のドアがバタンと閉まる音。
 それは、ある意味ひとつのシーンが終わることを告げていた。しかし、次にどんなシーンが幕を開けるのか、ふたりのうち、どちらにも予見できなかった。
 浅村綾と飯田由佳。
 二人の少女はさながら人形だった。それも、人形師にとっくに忘れ去られ、工房の隅に立て掛けられた哀れな木偶にすぎない。
 それでも、少女たちを辛うじて立たせ、歩かせていた力は何だったのだろうか。その力は、良くて惰性であり、悪ければ、この病院に巣くう魑魅魍魎の一種としか思えなかった。場所が場所なれば人死にがなかったとは、誰にも言わせない。
 綾にはその自信が確かにあった。
  
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 『いじめの教室 第5部』

 村綾と飯田由佳がどのように教室の中を漂流していたのか。
 記録は彼女たちの日記を含めてほとんど残っていない。だから、関係者から類推する他はない。
 由佳に対するいじめがエスカレートしつつあったこの時期、ちょうど中間テストまで数日を残すだけとなっていたが、綾は自分も泥沼に腰まで浸るような気分を味わっていたことは、数々の証言から裏付けられる。

 今、萩田教諭が担当する国語の授業中である。
 中学生と言えば、成長期まっただ中だろう。それも、三限目となれば胃液が消化するものが無くなって自分じしんをも融かしはじめるころである。
 だが、綾にとってそんな余裕はない。

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 『いじめの教室 第6部』

 鍾乳洞が何処までも連なっている。白い壁面が織りなす空間は美しいが、そこに流れる空気は何故か冷たい。ネズミのように白服の男女がその間をチマチマと走り回っている。
 ここは、由佳の母親が入院している病院。
 いつものように二人で見舞いをした、その帰りである。そして、恒例のように同じ場所へと向かうとしている。
「ママのお腹、また大きくなったね」
「うん・・・・・」
 綾は友人に不審を覚えた。異常な明るさが不気味に映る。それは教室での彼女を知っているからこそ思う、一種の被害妄想だろうか。
「どうしたの?綾ちゃん」
「ううん、違うの、ただ・・・・・・」
 綾は友人にみなまで発言させなかった。
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  『いじめの教室 第7部(1)

 浅村綾は飯田由佳とのつながりを未だ残していた。いや、より正確を期すならば、由佳の父親である託児によってお零れ的にそれを保つことができたのである、そう表現した方が適当だ。
 
 雨の日、親友を振り切るように病院を後にしようとした。
 そこに託児が運転する車が急ブレーキを切った。
 それを目撃した赤毛の少女は、まるで自動人形のようにメモを託した。
「由佳、デジタルで連絡を取り合うのはもう無理。板東さん、ウチにも来るようになったの。だから、携帯、PC、どちらにしろ、メールは無理。だから、ごくアナログ的な方法で連絡を取り合おう。住所、書いておくね。手紙、ちょうだい。こちらからも出すから。私たち、しばらくはこんな関係がいいと思う。でないと、互いにつぶれちゃう」
 父親からメモを受け取った由佳は、黙ったまま受け取って、自室に閉じこもった。しばらくすると押し殺すような泣き声が聞こえてきたが、それを聞いたのは飼い猫のミーちゃんだけだった。託児は往診のために家を後にしていたのである。
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『いじめの教室 第7部(2)

 
 萩田教諭は、予め芝居の台本があってそれに従っているかのように携帯を開くと、これまた芝居じみた手の動きでメールをチェックし始めた。
 身を引き裂かれるような戦慄が由佳を串刺しにする。
 予定通りの経過に満足そうに微笑む永和子。
 そして、悪魔の計画に荷担しようとしていることに、自責の念を憶える綾。
 教室きってのエンターティナー、板東永和子がどのようなショーを見せてくれるのか、今か今かと待ち望んでいるクラスメートたち。彼らの担任である萩田でさえ、永和子の駒にすぎないのだ。
 この教室に集う男女はその立場によって十人十色に分けられていた。
 由佳以外のほぼ全員の視線が、平凡な萩田の手と表情に集中する。表情と感情に乏しいウリ顔がやがて、怒りによって崩れていくのが、誰の目にも明らかだった。
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『いじめの教室 第7部(3)
 板東永和子にスポットライトのすべてが当たっている。しかし、自分だけが独占することにはさすがに罪悪感を抱くらしい。誰かにお裾分けしたくなった。彼女が選んだのは言うまでもなく、飯田由佳、その人である。
「ウウ・・・」
「何で、泣くの?私は、同級生同士で、しかも、親友同士なのに敬語を使うのはおかしいって言っているだけなのに」
 教室のあちらこちらから苦笑が起きる。いじめのリーダーもそれに応じる。

 牛の体内で食糧が複数の胃を行ったり来たりして消化することを反芻というが、ちょうどこの教室はそれに尽きるのだ。
 永和子の残酷な言葉は、日本人形めいた美少女に突きささる一方、クラスメートがそれを嘲笑によって増幅させ、彼女を攻撃する。少女は二重に傷つくのだ。クラスメートたちはけっして、いじめの観客ではない。サッカーのサポーターのように自ら参加する。もっとも、本場のサッカーで言えば、ピッチに侵入してボールを蹴るような行為が認められる、よりひろい意味でのサポーターではある。
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『いじめの教室 第7部(4)


 昼休みまでの時間は、浅村綾にとってまさに地獄だった。
 彼女にしても、じっさい、携帯電話というものの存在をこれほど恨んだことはない。もしも、それがなければこれほどの苦しみを味わうことはなかっただろう。
 常に何処にいても、知人とコンタクトが取れる。数十年前ならばSFの世界のみに存在した夢の機械だった。
 だが、いさ、実現してしまえば、便利さゆえの障害に苦しみということもありうる。
 綾の両親が青春を過ごした時代ならば、そんな弊害とは無縁だった。だが、現在は両親がかつて棲んだ時代ではなくて、情報化社会が極度に進んだ21世そ紀である。
「いじめも情報化の波から逃れることはできなかった」などと、教育評論家の間の抜けた文章が頭を過ぎる。
 これは現実逃避にすぎない。
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『いじめの教室 第8部

 聞き慣れた声は、浅村綾ともうひとりは・・・・?!
 なんと、板東永和子の声だった。全身が恐怖で凍りつく。綾の声が近づいたとき、テレビなんて壊れてもいいから、彼女に縋り付きたい思いに囚われた。だが、そんな思いを一瞬で粉砕してしまったのが、地獄の底から響いてくるような、永和子の怖ろしい声だったのだ。
「飯田さん、聞こえるかしら?」
「ぐぐぐ・・!?」
 きっと、体重をかけているにちがいない。鋼鉄のような重量が全身にのし掛かってくる。彼女の悪意がそのまま迫ってくるようだ。
 真っ暗で狭い空間に閉じ込められた少女は、外部を想像するしかない。だが、それ故に恐怖感は増幅していく。
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『いじめの教室 第9部

 「綾ちゃんだって?」
「エリ?」
 綾は、友人が発する冷たい声に動揺した。難しい数学の問題を解いているような気分になったのである。
 内田エリ、浅村綾、そして、飯田由佳、この3人の間には複雑な構図が存在する。
 かつて、経験したことのない複雑な空気をどうしていいかわからず、佇むことしかできない。何か言葉を発さねばならないと思っても、何も思い浮かばない。投げられたボールをどう返したらいいのか、もじもじしていると、エリの方から畳み掛けてきた。
 それは彼女の方からの助け船だったのだろうか?
「そうよね、綾ちゃんは迷惑しているんだよね、この人から友だち扱いされてさ」
「そ、そうよ・・・・」
 思わず、気軽に答えてしまった。3人の間に発生した三角形の緊張に耐えられなくなったのだ。
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『いじめの教室 第10部

 これ以上触れたら火傷をする。綾は、親友を抱き留めながらそんな非現実的な空想を思い浮かべた。それほどまでに彼女は高熱に浮かされていたのである。低温火傷を負いながらも、赤毛の少女は由佳から離れられない。
「保健室に行こうか、それとも家族の人を呼ぶ?」
「そ、それだけはいや!や・・ぁ、ハア、ハア」
 苦しい胸の下で、少女は必死に懇願する。
「ゆ、由佳ちゃん・・・」
「か、帰る・・・」
 
 由佳の考えていることは、手に取るように読める。

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『いじめの教室 第11部

 由佳が熱を出して、早くも一週間が経った。しかし、当然のことだが、携帯には何の音沙汰もない。二人の間でそのように約束し合ったのだから、メールを出すこともなく、また、出すはずのないメールに返事があるはずもない。
 しかし、夜の街が唄う静かな音楽を聞きながら、綾はベッドの闇の中に沈んでいた。食後の一時、電灯も点けずに自らの膝を抱いている。その右手には携帯が握られている。こんな様子はどう少なく見積もっても、誰もが異常だと見なすにちがいない。
 だが、少女の精神は正常に作動していた。ある悲壮な決意のために、束の間、母の子宮への回帰を志向したのだろう。
 その決意とは、ある人間に電話を掛けることである。

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『いじめの教室 第12部

 高級デパートにあるようなエレベーターの中で、綾は永和子と知らないおばさんとの会話を聞いている。二人の間では他でもない、彼女が親友と認める唯一の少女、飯田由佳のことが話題になっているのだ。
 何処と言って特徴のない40歳くらいの女性、板東永和子にとっては馴染みの人物らしい。「永和子ちゃん」と呼び習わしているということは、かなり幼いころから知り合っていると見なしていいだろう。
 さきほど、ケーキ店、ザッハトルテの店主と三歳ころから知り合っている、永和子の口から聞いたが、このおばさんとも同じような関係なのだろうか。
 そのおばさんは25階で降りると、自室に戻っていった。あたかも、本当の母娘のように和やかに語り合っていた。その内容は、学校生活はどうとか、ピアノはどうとか、それらのようなごくたわいない話だったが、端で見ていると互いの親密さが透けて見えた。
 ところが、おばさんがいなくなると途端に、永和子はクラスのリーダーの顔に戻ってしまっていた。
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『いじめの教室 第13部


 浅村綾はぎょっとした。永和子の方から、重要案件を切り出してきたからである。一瞬、耳を疑ったが、じっさいにその美しい唇が動き、彼女の声が聞こえてくるのだから、あえて自分の五感に疑いの目を向ける必要性を感じなかった。
「よく、この近所で遊んだのよ、初めて出会ったのは幼稚園とか小学校じゃないのよ、これが」
「・・・・・・・・」
遠い目の少女は、あたかも現在でも話の内容の人物が自分の親しい友人でもあるかのような口調で語り続ける。
「産後まもなくの、授乳ベッドの中っていうから驚きよね」
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『いじめの教室 第14部

 永和子に肩を貸してもらいながら、やっと、マンションの彼女の自宅に戻ることができた。その間、胸が高鳴って、時間感覚がかなりあいまいになってしまった。せいぜいで、数分にすぎないであろうに、数時間を要したような気がする。
 「・・・・・・・」
「どうしたの?永遠子さん」
 時計を見ると、午前1時を回っていた。さすがに眠くなったのか、深夜の町を見る目も何処か虚ろに見える。
 クラスのリーダーは、何か言いたげに言葉によらないメッセージを出している。
 こんな時に、赤毛の少女は持って回った表現が苦手だ。思わず、直接的に相手の望むところをついてしまう。過去の体験からか、目の前の人物が望むところに非常に敏感な体質になってしまっている。
「私に何か聞きたいことがあるの?」
「・・・・・・わかっているはずよ」
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