※この話はフィクションであり実在の人物・団体とは関係がありません。

俺のいとこに“こてっちゃん”という男がいる。
彼を一言で言い表すならば『空気が読めない男』『人見知りとは無縁の男』『ピュアな男』となる。
うん。一言といいながら三言でしたね・・・まあそういうこともある。
彼は陰キャの呪いに罹っている我が一族にありながら、その行動は陽キャのそれである。というか陽キャグループに混ざる陰キャなので何かと便利に使われることが多い。
だが彼はピュアなのだ。人を疑うということを知らない。そして『一度しゃべった相手は友人認定できる』という特殊能力保持者なのだ。喜んでグループのために尽くしているのだろう。
これでわずかでも空気さえ読めればめちゃくちゃ良い人なのだが、残念なことに壊滅的に空気は読めないのである。
・彼が20才になった時のこと。お祝いに居酒屋へ連れて行った。適当に飯と酒を食わせてカラオケ屋へ。
俺「好きに歌いなよー」
その後2時間。彼がマイクを手放すことはなかった。
・彼が20代の頃、彼女ができたと聞かされた。不思議なことに未だその彼女とは会ったことがないという。先日会う約束をしていたのだが彼女は入院してしまったのだそうだ。
その話を聞いた時。俺と姉の夫の何とも言えない空気を分かってもらえるだろうか?
俺「おい・・・それって出会い系のさくr・・・」
義兄『やめろ!それ以上言っちゃならねぇ!(ぶふぉっwww)』
いや、あんた笑ってんじゃん
必死に笑いをこらえる俺たちの前で、これからも出会うことのない彼女を本気で心配している彼は、本当に人を疑うということを知らないいい奴なのである。
そんなこてっちゃんと先日久々に会った。
こてっちゃん『こないだ東京へ行ってきたよ!』
彼は基本的に自分の話しかしない。俺は適当に『そーなんだー』と相槌を打ちながら話を聞いた。
こてっちゃん『お台場でガンダム見て来た!!』

彼の東京の土産話は一行で終わってしまった。なんかもっと・・・こう・・・無いの!?
俺「なんなら横浜まで行って動くガンダムも見てくりゃ良かったんに」
こてっちゃん『いや結構遠いから。あんまり金なかったし・・・泊まる宿もカプセルホテルに泊まったんよ。二日とも』
『何でカプセルホテルやねん!せめてビジホに泊まれや』と心の中で突っ込みながら、「ビジホも土日とかだと結構高いよな」と当たり前の返ししかできない俺。なんせ俺は東京という地に足を踏み入れたことがないのだ。なので俺から話を膨らませるのは不可能だ。
こてっちゃん『そうそう。カプセルホテルって外人しかおらんのよ。その外人と飯食ったけど・・・あ、肉焼けたよ』
・・・・・・ん?
俺「何て?今なんつった??」
こてっちゃん『いや肉が焼けたよって・・・』
「いやその前だわ。し、知り合いなのか!?」外人と飯を食う間柄なのかと思わず声が上ずる。
『???知らん人だけど?・・・肉焼けたよ』「肉はお前が食いな。あとその話を詳しく聞かせろ!」
そうしてこてっちゃんは語り始めた。

宿を取ったのはカプセルホテル。カプセルホテルはまんまウサギ小屋である。共用ではあるものの一通り設備は整っている。
なので安く泊まりたい外国人観光客はカプセルホテルをよく利用するらしい。
カーテンで仕切られているだけなので、カーテンの隙間から近くのベッドの様子がわかるらしい。
「イギリス人(女)のデカい尻が見えた!」と無邪気にはしゃぐこてっちゃん。すげー環境やな・・・てか男女で別れてねーんか?
カプセルホテルでの飲食は共用スペースのロビーで行うのがルールらしい。
近くのコンビニで食料を仕入れたこてっちゃんがロビーのソファーでカップラーメンをすすっていると。
夕べのイギリス人(女)とカナダ人(男)が同じように食料を広げ出した。
席の並びは左からイギリス人、こてっちゃん、カナダ人。
流暢な英語で会話をするイギリス人とカナダ人。それに挟まれるこてっちゃん。当然彼は英語などしゃべれやしない。
時折話しかけられるが何を言ってるのかよくわからない。適当にイエス!イエスと繰り返すBOTと化していた。
俺「ゴメン。話の腰を折ってすまんのだけど、ちょっといいかい?その・・・他に席はなかったのかい?」当然の疑問だと思う。
こてっちゃん『いやあったよ。何故か俺を挟んで座りやがったんだ』
俺「うん。(俺なら居たたまれなくなって席を変わるけど)・・・いや、まあいいんだ。続けてくれ」

『3人とも飯を食い終わり、その後ジェンガを始めたんだ』
「あー外人二人でね」
『いや3人で』
んん??3人?指折り数える。登場人物はここまでイギリス人とカナダ人とこてっちゃんしかいない。
「何で?」当然の疑問だと思う。
『いや何となく。結構盛り上がった』
(まあパーティゲームの定番だし、ゲーム性は世界共通だよね)論点がズレているのを自覚しつつも無理やり納得したことにし、続きを聞く。
ジェンガをやってたら今度はドイツ人が二人やってきたんだ。
ジェンガはここでお開きになったよ。5人に増えたからジェンガからトランプをすることになったんだ。
(まだ続くのかよ!ドイツ人もなぜ当然のように混ざるのか)
カードを配った後に順に大きい数字を出していく。というシンプルなゲームをしたんだ。リアクションがデカくてこれはこれで面白かった。
俺たちがカードゲームに興じていたらいつの間にか中国人が二人増えていたんだ。
彼らも誘ったんだけど遠巻きに見てるだけだった。
ババ抜きを始めたらその中国人もとい台湾人も混ざってくれたよ。
(バ、ババ抜きだと!?)

うん。俺が提案してやり方を説明した。と、こともなげに語るこてっちゃん。
「因みに何語で会話してたんだ?」
『さあ?たぶんそれぞれ母国語だと思うよ。明らかに英語以外の言語が飛び交ってたし。まあジェスチャーと簡単な英単語で割と通じたよ』
「楽しかった?」
『うん』
コミュ強ここに極まれり。
俺は産まれて初めてこいつに畏怖の念を抱いた。
俺には到底まねできねぇ。
てか旅の醍醐味とはこういうものなのかもしれない。
これまでの俺の旅行とは、『るるぶ』片手に計画を立てて予約をし、計画通りに実行するだけであった。小綺麗なホテルや旅館に泊まり、ご当地の名物を食べる。それはそれで楽しめるのだが、旅行に行くまでもなく全て『るるぶ』に書かれている。
そんな思い出は3行程度にまとめられるだろう。アクシデントや思いがけないことこそより深く思い出として残るに違いないのだ。
そして俺はこてっちゃんから学んだのだ。グローバルな体験は別に外国へ行かなくても十分行えるということを。
今や最も身近な外国は東京なのかもしれない。
そして俺は確信している。多分この先ずっと東京を訪れることはないだろうということを。
だってねぇ。そんな場所怖いじゃないですか。
俺がこてっちゃんを一言で言い表すとき、今後こう説明するでしょう。
メンタルお化けと。
