【問】障害により通院用に自動車の保有を認められた場合も、通院以外の目的で自動車を利用できないのですか。

 

 私は 足の障害があり、通院のために公共交通機関の利用ができないので、自動車の保有を認められていますが、 福祉事務所からは、通院以外の目的で自動車を利用しないよう言われています。 しかし、足が不自由なため、買い物等にも支障があり、自動車の利用が必要です。

 どうしても通院以外の目的で自動車を利用してはいけないのでしょうか。

 

 

【答】

 厚生労働省は、令和4年5月10日付の「生活保護制度上の自動車保有の取扱いについて(注意喚起)」(事務連絡)において、「今般、ある自治体において、障害等を理由に通院のために自動車の保有を容認された者について、通院以外に日常生活に用いることが認められるような考えを示した事例が確認されたことから、改めて実施要領における自動車の保有の取扱いについてご留意いただき、自動車の保有について適切な指導をお願いいたします。」という内容の通知を出しました。

 

 しかし、厚生労働省は、令和6年12月25日に「『生活保護問答集について』の一部改正について」(事務連絡)を出し、「生活保護手帳 別冊問答集」において、「問3-20-2 保有が認められた自動車の他用途への利用」新設し、その中で、「障害(児)者の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合には、日常生活に不可欠な買い物等に行く場合についても、社会通念上やむを得ないものとして、原則として自動車の利用を認めて差し支えない。」とするとともに、「公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合は、地域の交通事情や世帯の状況等を勘案して、低所得世帯との均衡を失しないと保護の実施機関が認める場合には、自動車の利用を認めて差し支えない。」とし、従来の取り扱いを改めました

 なお、残念ながら、事業用自動車の場合については、上記の取り扱いは認められませんでした。

 

 そもそも、平成25年4月19日の大阪地裁判決(大阪府枚方事件)において、身体障害者である原告に対し、自動車保有要件を満たさないことを理由として行われた生活保護廃止処分 及び その後の生活保護申請に対する却下処分について、原告が 上記各処分当時、自動車保有要件を満たしていたとして、却下処分を取り消した上、各処分の国家賠償法上の違法性 及び 福祉事務所長の過失を認めて 、原告の国家賠償請求が一部認容され。被告の枚方市は、控訴しなかったため、原告勝訴で 判決は確定しました。 また、同判決において、「生活保護を利用する身体障害者がその保有する自動車を 通院等以外の日常生活上の目的のために利用することは、被保護者の自立助長 及び その保有する資産の活用という観点から、むしろ当然に認められる。」とされました。

 

 しかし、馬鹿な三重県鈴鹿市は、障害のある二男の自動車の保有を認めたにもかかわらず、同居する母も高齢かつ病気を患い歩行が困難でありながら、障害のある二男の通院用に限定し、日々の走行距離や 行き先を報告する運転記録票の提出の求め(通院用以外の目的に自動車を使用していないか否かを調べるのための 鈴鹿市の独自運用に応じなかったことを理由として、令和4年9月に生活保護を停止しました。 この停止処分に対して、保護停止処分取消訴訟が提起され、 津地裁は、令和6年3月21日保護停止処分を取り消した上で、鈴鹿市に慰謝料等の損害賠償を命じる判決を言い渡し、 名古屋高裁も、令和6年10月30日に 地裁の判断を維持し 市側の控訴を棄却する判決を言い渡しました。

 

 鈴鹿市福祉事務所は、上記の平成25年4月19日の大阪地裁判決(大阪府枚方事件)を知らなかったのでしょうか。 知っていたら、保護停止処分など行わなかったでしょう。 明らかに勉強不足です。 仮に この判決を知って保護停止処分を行っていたのであるならば、どのような理由付けで 裁判に勝てると思ったのでしょうか。 馬鹿な保護停止処分をして、訴訟等で 無駄な時間を費やしたものです。

 ところが、愚かな鈴鹿市は、ようやく日々の走行距離や 行き先を報告する運転記録票の提出の求めること(鈴鹿市の独自運用)辞めたものの、津地裁や名古屋高裁で敗訴したにもかかわらず、最高裁に上告しました。

 そのような状況の下で、厚生労働省は、令和6年12月25日に上記の事務連絡を出したわけです。

 鈴鹿市は、まるで厚生労働省から梯子を外されたようなものです。 鈴鹿市は、早く上告を取り下げて、恥の上塗りを辞めるべきでしょう。 鈴鹿市の当該保護受給者の方は、愚かな福祉事務所の判断のせいで、いい迷惑です(結局、最高裁は、令和7年5月12日に 予想されていたとおり 市の上告を不受理とする決定を出しましたので、原告勝訴とする名古屋高裁の判決が確定し、市の保護停止処分の取消しが確定しました。)。

 

 なお、このブログ令和5年6月6日の記事「生活保護と自動車の保有」 令和5年6月8日の記事「生活保護と自動車の運転」も、合わせて参考にご覧ください。

 

 

 

(参考)

〇別冊問答集

 問3-20-2 保有が認められた自動車の他用途への利用(R6.12.25 新設)

  通勤や通院等のために保有が認められた自動車の他用途への利用については、どのように取扱うべきか。

 

(答)

 自動車は最低限度の生活の維持のために活用すべき資産であり、また、維持費を継続的に必要とすることから、原則として保有を認めていないが、障害(児)者や公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者等が通勤、通院等のために利用する場合で一定の要件を満たす場合に例外的に保有を認めている。

 この場合における保有が認められた目的以外の用途への自動車の利用については、以下により取り扱うこと。

 

1 障害(児)者の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合

 日常生活に不可欠な買い物等について、家族による買い物の支援や宅配サービス、移動販売、福祉サービスの活用などの代替手段が考えられるものの、障害(児)者が有する障害による一定の支障が想定される。

 このため、障害(児)者又はその家族若しくは常時介護者が障害(児)者のために 日常生活に不可欠な買い物等に行く場合についても、社会通念上やむを得ないものとして、原則として自動車の利用を認めて差し支えない(新規追加)

 なお、最低生活を保障する生活保護制度の運用として国民一般の生活水準等を考慮すれば、通勤や通院等のために保有が認められた自動車について遊興のため度々使用することは、法第60条の趣旨に照らして望ましくないことはいうまでもない。

 

2 公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者等の通勤や通院等のために保有が認められた自動車の場合(当該地域に勤務地がある場合や深夜勤務等の業務に従事していることを理由として認められる場合を含む。)

 日常生活に不可欠な買い物等について、地域の交通事情や世帯の状況等により一定の支障がある場合が想定されるが、一方で宅配サービス、移動販売などの代替手段や 近隣に店舗があるなど、特段の支障がない場合も想定される。

 このため、日常生活に不可欠な買い物等について、地域の交通事情や世帯の状況等を勘案して、低所得世帯との均衡を失しないと保護の実施機関が認める場合には、自動車の利用を認めて差し支えない

 なお、遊興については前述のとおり。

 

3 事業用自動車の場合

 上記1又は2に該当する場合を除き、原則として保有が認められた事業用以外の利用は認められないこと。