一昨日、緊急出勤という名の労働を終えた足で、私は道具屋へ走った。

新しいドリルを買いに、である。 

昨日。今度こそは、と万端の準備を整え、凍てつく海へと向かった。

しかし、道中で気がつく。 「GoProを忘れた……」

結局、私の準備が完璧に揃うことなど、この宇宙の歴史上、一度も無いのである。 

そんなわけで、どこか欠けた装備のまま、私は現場へと降り立った。

新しいドリル。こいつが、なかなかに調子がいい。 

景気よく氷を噛み、ガリガリと穴を開けていく。

思い返せば、最初は「穴さえ開けば何でもいい」と高を括っていた。

30ユーロほどの安物を適当に買ったのだが、

これが泣きたくなるほどの代物であった。

穴を3つも開ければバッテリーが尽き、挙句の果てには氷の中で沈黙。

まるで使い物にならなかったのだ。

次に150ユーロのドリルと予備バッテリーを投入した。 

少しはマシになったが、それでもパワー不足という、

心の奥底に沈殿するような不満は拭えなかった。

 

かといって、プロ仕様の超高級機を導入するほどの財力は、今の私にはない。 

だが、私は穴を掘りたいのだ。掘りまくりたいのだ。

 そこで今回、少しだけ背伸びをした機種を購入した。幸いにもセール中。

200ユーロが160ユーロ。これはもう、買うしかなかったのである。

 

昨日は、実に見事な快晴であった。 

氷の上には、のんびりと散歩を楽しむ人々が溢れている。

 

そんな平和な光景の中、私は一人、

とんでもない騒音と氷飛沫を撒き散らしながら、

次々氷に穴を開けて行く。 

穴を開けてはメジャーを突っ込み、水深を計り、底の様子を伺う。

端から見れば、不審極まりない氷の穴掘り男である。

 

すると、時折声をかけられる。 「氷の厚さはどれくらいだい?」

アイスフィッシング界の「あるある」だ。

散歩中の人やノルディックスキーを楽しんでいる連中は、

決まってこの穴掘り男に氷の厚さを尋ねてくる。

 

「1メートル近くありますよ。カッチカチだ」

答える私の背中には、どこか得意げな響きがあったかもしれない。 

それにしても、このぶ厚い氷。一体いつになったら溶けるのやら。

 
シーズンイン予定日まであと55日