晩飯喰って風呂入って上がると、きちんと前足を揃えて
待っている。いつも。煙草を一本二本。急かされる。
じゃあ行こうか。寝室に向かう階段を先に上がっては駄目。
バージンロードのように歩調をあわせて。タイミングが
むずかしい。寝室に入ってもベッドに先に寝ては駄目。絶対
自分からは乗ってこない。自分が先か抱き上げてもらうか。
羽交い締めにしたり、おなかの柔毛に顔を埋めてたり…
たった二日前まで飽きもせず繰り返された日常。
一昨晩遅く、野太い声で啼いてる。後ろ足がまるで動かない。
前足だけでずるずると。ついさっき一緒に階段を上がった。
夜間動物病院へ。ちょっと痺れたか、悪くて脱臼とかだよきっと。
「心筋症による血栓です。治る猫もいますが…稀です」だと。
嫌な予感しかしない。注射を打って明朝かかりつけの病院へ。
微睡んだり啼きつづけたり。息が荒い。飯食べない。水を
コットンに含ませて口の端から湿らせてやる。でもきっと大丈夫。
よくベラにカラスが来ると会話してたので、YouTubeでカラスの
鳴き声を聞かせてやると眼に光が戻り「カーカ?」とあたりを
覗う。一晩明けてまあまあの小康状態。おしっこもうんちも出たし。
ペットシーツを敷き詰めたダンボールに入れてベッドサイドで
並んで寝よう。か細く啼きつづけてる。おやすみ。突然指を咬む。
雄叫びを上げながらベッドによじ登ろうとしてる。吠えてる。
遠吠えてる。抱き上げて腕まくらでひしと抱きしめてやる。
オレのことが好きで好きでしようがないのではと前から思っていたが
やっぱりオレのことが好きで好きでしようがないのだな。そのまま
ゆっくりと呼吸が止まり愛の交歓は永遠に終わり。
オグ。オグ。オグ。

たった二日前には予感すらなかった嘘のような二日後。
腕の中で硬く冷たくなった綿菓子のような愛し猫。ずっと一緒だと
疑いもしなかった。何をどう綴っても陳腐な自己憐憫だ。書くまいとも
思ったがオレはオレの好きなものを好きなように綴りつづけるんだぜ。
超楽しかった。オグ。オグっち。オグリ。