番長とはそれから他愛もない話をして別れた。
師匠との話も気になったが、あまり突っ込んだことは話さないような雰囲気が出ていた。
「番長は今も剣道やってるのか。すげえな」
今は大学で日本一を目指しながら師匠にマンツーマンで鍛えられているらしい。
俺はと言えば、高校まで続けたもののそれ以降は竹刀を握ってすらいなかった。今番長と試合をしようものなら瞬殺されるのが目に見えている。
しかし、番長と師匠がね・・・
どうにも面白くないが、理由はわからない。結婚が近いというなら祝福の言葉でも述べてやるのが筋なのだろうが。
それに、手首の痣。あれは明らかに”籠手”の位置だ。番長は転んだと言っていたが、もしも籠手を着けずに叩かれたのだとしたら・・・
「いやいや、俺が考えたって仕方ねぇよ。他人が口出しできる話じゃない」
そう、これは番長と師匠の問題なのだ。中学の頃につるんでいた程度のやつがどうこうできる問題ではないのだ。
俺は何とも言えないやるせなさを抱えて帰路に着いた。
2週間後、俺と番長は居酒屋へ来ていた。
「先週ようやく二十歳になってさー!これは飲むしかないでしょ!ってことで付き合って!」
昼過ぎにそんな電話が突然来て呼び出されたわけだ。
だが、
「俺、まだ未成年なんだけど・・・」
「そんなこと知らん。あんたはコーラでも飲んでな」
ぐっ・・・この情けなさと言ったら言葉にできねぇ・・・
番長が店員を呼んで注文している。
「生1つと、コーラ1つで」
ガクッ
この時ばかりは早生まれの自分を恨んだ。
「いいんだ!俺はコーラを愛しているんだ!酒なんていらねぇ!」
「おーいいね!あんたはその意気じゃなくちゃ!かんぱーい!」
「かんぱーい!」
ビールとコーラで乾杯するとお互いにグイッと飲み干した。
「お!さすが番長!やっぱ結構イケる口か?」
「あったり前だろ!お前にゃ負けん!」
追加を注文し飲んで、また追加し・・・そんなことを何度か繰り返しているうちに、番長の顔が赤くなっていることに気が付いた。
「おいおい、あんま飲みすぎんなよ?こっちはコーラなんだから張り合うなって」
「大丈夫大丈夫!私を舐めると痛い目見るぞ?」
「いや、舐めてないし・・・ってか既に酔ってるだろ?ちょっとペース落とせ」
「平気だっての!店員さーん、生とコーラ追加で!」
「おいおい!人の助言を聞けー!」
それから俺が止めどもビールを奪えども番長は酒を飲むことを止めず、遂には突っ伏して眠ってしまった。
「はぁ・・・どうしたんだ、こいつ」
赤い顔でスヤスヤ眠る番長を見ながら、ため息をついた。
なんだかいつも以上にテンションが高かったというか、暴走気味だった。あまりこんな姿を見たことがなかっただけに驚きを隠せない。
しかし、寝てしまうとやっかいだ。俺は番長の家など知らないので連れていくこともできない。
「おーい、起きろ。そろそろ帰るぞ」
肩をゆすってみる。服の上からでも鍛えられた引き締まった体であることがわかった。
って、俺は何を考えているんだー!
頭をぶんぶん振って邪念を振り払う。
第一、番長は師匠と結婚するんだからそういうのじゃないっての!ってかそういうのって何だし!
肩を掴んで体を起こす。
「ほら、いい加減起きろ!校庭走らすぞ!」
「うるさい!」
番長が腕を振り回したことで肩に置いていた手が払われる。
なんつーバカ力だよ…はぁ…
俺はため息をついて下を見た。
暴れたことで番長の服が乱れて、腰の辺りから素肌が見えている。
こんなんでもドキマキしてしまう思春期を許してください!あーもう!
乱れを直してやろうと思ってチラッと腰を見る。
すると、またしても青い痣があることに気がついた。
また…?しかも胴の部分に?
これは剣道をやっていて付いたとしか思えなかった。
だけど防具を着けていればこんなになることはないはず…まさか、防具を着けずに?
番長の顔をじっと見る。
よかった。顔には痣はなさそうだ。
俺はほっとして息を吐いた。
番長なんて呼ばれているが、顔つきはかなり整っていて美人なのだ。そうでなくとも女子の顔に痣なんてあってはならない。
だけど、手首と腰の痣はどうしたらいいものか…直接聞いてもまた転んだとか言ってはぐらかされるだけだろう。
俺がうんうん唸って考えていると
プルルル…プルルル…
番長のスマホが鳴り出した。