「はあ」
「腕はひどいが、口がうまくて結構人気があった」
「まさに、兄貴じゃ」
「すごいのう」
歳三が、
「で、先生、一つ頼みがあるんですけど。わしの苗字《みようじ》つけて下さい。新選組に志願書出すとき、です」
「苗字?」
「わし、土方じゃけ、苗字がないんです」
「そうか。おまんは本百姓じゃないから苗字なかったんか。じゃ、土方にしとけ」
「えっ、土方ですか」
「土方と書いてひじかたと読むんじゃ」
「そんな。もうちょっと偉そうな名前つけて下さい」
「バカ。名前なんてなんだってええじゃろが。さんざんっぱら女抱いちょったんじゃから。このドスケベが」
「でも、土方なんて苗字にしたら、自分が土方出身ちゅうて言いふらしとるみたいなもんじゃないですか」
「生娘抱いといて贅沢言うな。いいじゃないか。土方出身でも恥ずかしいことはないという時代を作ろうと考えりゃいいじゃろ。そう考えると、志の高い名前じゃ。まったく、このドスケベが」
そして龍馬は真顔で留吉に向かい、
「おうカメラ屋、吉原でひとつ写してもらいたいもんがあるんじゃ」
「吉原?」
「米国総領事タウンゼント・ハリスが来るんじゃ」
「何を撮るんですか」
龍馬は意味ありげにニヤリとすると、
「アートじゃ。男と女の、くんずほぐれつのアートじゃ」
「はあ?」
「写真を撮ったら、わしが紹介状書いといてやるから、しばらく下田《しもだ》でアメリカ人の生態ば観察しとけ。これからのフォトグラファーには大切なことじゃ」
「わしらは、今すぐにでも京都に行きたいんです」
「そのレッスンに下田に行くんじゃ。おまんはアートのメッカ、マンハッタンブロンクスのことを知りとうないのか。な、五助、やがておまえも外国人の髪をカットせないかんときが来るじゃろが」
「はい」