BARに消える月


女は心の安らぎが欲しかった・・・


男は仕事への恐怖を隠したかった・・・



「君に一緒に来て欲しいんだ。」


(ブーン・ブーン)


「ごめん、仕事の電話だ。」


「お忙しそうですね。」


「彼はいつもこうなの・・・一緒の時も仕事が頭から離れない人なの。」


「彼が帰ってきたら最後にカクテルを1杯だしてあげてくれるかな?」


「アメリカは遠すぎるね・・・」


そう言い残し女は席を立った


「あれ?彼女は?」


「先にお帰りになられました。」


バーテンダーは最後のカクテルを差し出した


「先ほどの女性からです。」


「青い月って見たことありますか?」


「いや」


「カクテル名はブルームーン」


「由来はありえないこと、または出来ない相談・・・」





バーに咲く薔薇


男はどうしても最後の一口を飲み干せずにいた


「同じものをもう一杯、グラスはそのままで」


これで最後にしよう・・・そう思いながらも何度おかわりをしただろうか


「マスター、久しぶりに来たけど最後に来たのはいつだったかな?」


「いやあ、最近は毎日呑み過ぎで昨日のことも忘れがちで・・・」


バーテンダーは本当は憶えていた


彼が最後に来たのはちょうど一年前のこの日


「今年も集まってくれてありがとう。なんだかこの店で祝ってもらうのが恒例になったみたいで嬉しい」


いつしか彼女の誕生日には毎年他の常連さんが集まり


それぞれが彼女の好きな薔薇を一輪ずつ持ってくるようになっていた



フォアローゼスというバーボンウィスキーをご存知だろうか


求婚した相手に「承諾してくれるなら舞踏会の日に薔薇を一輪胸にさしてきて欲しい」


と言ったところ、四輪もの薔薇をさしてきてくれたことから


この名前がつけられたらしい



彼は出張で一年ほどこの街を離れていた


「ごちそうさま、また来ます」


「この酒のようには上手くいかないものだね、ちょっと欲張りすぎたかな?」


カウンターに残されたものは


空いたグラスと五輪の薔薇の花束・・・

最後の相談相手


バーテンダーとは最後の相談相手である


バーの物語ではよく出てくる昔話を紹介しよう


8月のある日 とある田舎のバー


例年にない猛暑の中、久しぶりの雨が降り客足も寂しく


本日二度目のボトル磨きをしている


「いらっしゃいませ」


やっと来てくれた1名様、少し様子がおかしい・・・


「水割りを1杯、安いのでお願いします」


そこへ続けて2名様、別々のようだ


それぞれがカウンターに座り揃ってうつむき加減で一口また一口


「みなさんお疲れのようですね」


すると1人が重い口を開けた


「商売が上手くいかなくて、そろそろ潮時かと・・・」


偶然にも3人共が同じような状況らしい


それぞれウォッカ、ジンジジャービアー(生姜の炭酸水)、銅のマグカップの行商らしい


「これも何かの縁ですからお辞めになる前にそれぞれの品を合わせてカクテルをお作りしましょう」


しかしながら作り上げたカクテルは何か物足りない・・・


そこでバーテンダーによりライムが加えられた


そして出来上がったカクテルが今も尚多くの人に愛飲されている


モスコミュール