そして食卓を見て、ビックリする。

目の前にあるのは、カレイの煮付けにひじきの煮物、

温野菜のサラダに、冷奴に味噌汁。


「わぁ……! これ……全部、和人さんが!?」


驚いて見上げると、自家製の梅干の入った小鉢を差し出された。


和人「これも美味いから、食ってみろ」


(すごい……梅干まで。栄養のバランスがちゃんと考えられてる)


「はい! じゃあ、遠慮なくいただきます」


私はお箸を手に取ると……。


選択でーす。


A:カレイの煮つけを食べる

B:お茶を飲む

C:梅干を試す


まずは小鉢の梅干を食べてみた。


「わっ、酸っぱい……」


思わずキュッと目をつむる。

けれどこの感覚が懐かしくて、日本に帰ってきたのだと実感する。


和人「かなりくるだろ?」


「はい。でも、ちょうどいい好みの酸っぱさです。自家製でこの味ってすごいな」


私は感心しながら、色鮮やかな梅干を箸で掲げた。


和人「ほら、もっと食えよ」


「はい!」


次々、他のものも試してみる。

どれも驚くほど、美味しかった。


(……久しぶりの日本食。なんか、お母さんの味を思い出す……)


箸も休めずにどんどん食べていると、和人さんがそれを見て目を細める。


料理できる男の人ってホントいいよね:*:・( ̄∀ ̄)・:*:

この自分が好きでやってるってかんじがまたたまらんです。


和人「俺の飯は美味いだろ?」


「はい……! すごく美味しいです」


(……って、自分で言っちゃってるのに、和人さんが言うと全然、嫌味じゃないんだな)


そんなことを感じながら、いつの間にか、リラックスしている自分がいた。

もしかしたらこの家にきて、初めてホッとできた時間かもしれない……。

熱いお茶を飲みながら、そう、心から思ったのだった。






その夜―。

私は何度もベッドで寝返りを打っていた。


(……眠れない)


慣れない新生活に新しい部署、あまりにもめまぐるしく変わる環境に、

身体がなかなかついていかないのかもしれない。


「あぁ、もう……」


私はムクッと起き上がると、ベッドを下りた。






(……冷たい水でも飲もうかな)


ヒタヒタと深夜の廊下を歩く。

すると廊下に面した中庭に、人影が見えたような気がして足を止めた。


(こんな真夜中に……誰かいるのかな?)


目を凝らすと、庭の真ん中辺りに設置されているライトが点いているのがわかる。

そこに巻き毛がちらっと覗く。

私は何となくそちらに向かい、中庭へ出るガラス窓を開けた。






木々の間を抜けて灯りの下に出てみると、巻き毛の正体は文太さんだった。


(……こんなところで、何やってるんだろう)


文太さんは四角い紙を並べては、目を細めて手に取っている。

私は思わず、声をかけていた。


「こんな夜中に、なに……見てるんですか?」


文太さんはスッと顔を上げると、私を見て少しだけ目を見開き、

また視線をその紙に戻した。


「写真……?」


近づくと、テーブルの上にたくさんの写真バラバラに置かれているのがわかる。

そのどの写真にも、綺麗なモデルが写っていた。


「わ……キレイ。見てもいいですか?」


文太「別にいいけど」



私は一枚一枚手に取ると、こちらに視線を向けてポーズを取るモデルの写真を眺めた。


「この表情、ステキ……あ、こっちのはモノクロでとってもお洒落……」


モードっぽい雰囲気で、ファッション雑誌か何かのポートレイトなのだと思った。


「これってプロのモデルさんですよね? たまに雑誌で見かけることあります」


文太「あぁ……その写真は先月のヤツ

確か新しい雑誌の創刊号だったと思う」



「えっ! っていうことは、文太さんはプロのカメラマン!? ……すごい」


私が驚いて文太さんを見ると、彼は気にする風もなく写真の整理を続けていた。

そしてフッと顔を上げ、こちらをジッと見る。


文太「写真がそんなに珍しい?」


「いえ……でも、どれもすごくいい写真なので……」


文太「……」


一瞬の間が開くと、文太さんは話を変えるように言った。


文太「もしかして、眠れないの?」


「え?」


文太「こんな夜中にって最初に聞いたけど……そっちだって夜中にウロウロしてる」


「あ、はい……実はそうなんです」


私は正直にそう答えた。

すると文太さんは写真をバッグに入れて、完全にしまい終わると私に向き直る。


文太「じゃあさ、そこのハンモックに乗ってみなよ」


「え……ハンモックがあるんですか?」


文太「うん、こっちに」


そう言って、大きな木立がある方に誘導された。


「わ、本当にあった!」


文太「ここに横になれば3秒で眠れるから」


「3秒って……ハンモックなんて、私、乗ったこと……」


文太「押さえててあげるから」


そう言ってくれるので、私はハンモックに乗ってみることにした。

ハンモックは思っていたよりも、意外に乗り心地が良かった。


文太「星、すごいでしょ」


「はい……! この中庭、建物の中にあって吹き抜けになってるから

星空だけ切り取ったみたいでなんだかポストカードみたい」


文太さんはゆらゆらとハンモックを揺らしてくれる。

その心地よい揺れの中で見る、夜空に輝く無数の星。


(……そういえば、しばらく星なんて見てなかったなぁ)


ついこの間まではNYにいて、時々、夜空を見上げては日本のことを思い浮かべていた。

けれど今は、その日本に帰ってきている。

ゆらゆらと揺れるハンモック……。


(……なんか、すごく心地いい)


キラキラ、ゆらゆら、キラキラ、ゆらゆら……。

煌く星空がいつしかぼんやりと視界から消え、私は知らないうちに深い眠りへと落ちていった。






ふと目を覚ますと、目の前には見たこともない天井。


(ん……星空がない。確かハンモックに乗ってたんだけど……)


と、その時、温かいなにかに抱きしめられた。


(ん……?)


半分寝ぼけた頭で、私もそのなにかを抱きしめ返す。

すると視界が鮮明になった先には、柔らかな巻き毛が目に入る。


(巻き毛……と、この抱き心地……)


思わず、パッと目を開けた。

抱きしめていた相手は、文太さんだった。


(うわっ)


ビックリして起き上がる。


(はっ……ここって、どこ!?)


「え……布団」


よく見るとベッドに寝かされていたようで、きちんとお布団がかけられていた。


(……私、本当に寝ちゃったんだ。3秒で……ってことは、この部屋は文太の部屋……?)


辺りを見回すと、近くのローソファーのブランケットが剥がれ、

どうやら文太さんはそこで寝ていたようだった。


「あっ、私……!」


焦って自分の身体を見下ろすと、ちゃんと服は着ている。

思わず安堵の息を吐くと、私は目の前に眠っている文太さんを見つめた。


(……寝ぼけていつものベッドまで入ってきちゃったってことか)


文太さんはまったく起きる気配はなく、気持ちよさそうに寝息をたてている。


(……どうしよう)


選択です!


A:起こす

B:黙って出て行く

C:もう一度布団に入る


"黙って"っていうのがちょっと引っかかるけどCでいこっかな(笑)


(……よく寝てるみたいだし……起こさないでそっと出て行こう)


そう思って私はそっと、かけられていたお布団をはがした。

音を立てないように、ゆっくりと動く。

文太さんは身動きもせずに、よく眠っている。


(こうして見てみると……無邪気な寝顔というか……

起きてるときのそっけない感じとは全然、違うんだな)


ついその寝顔に、魅入られるように見つめてしまった。


(……とにかく部屋に戻ろう……

このことを知られたら、誤解されかねない)


そっとベッドから下りると、足をつけた途端、ヒヤッと床の冷たさを感じた。


「え……靴下」


素足の自分の足を見下ろす。

よく見ると、床に丁寧に畳まれたわたしの靴下が、ちょこんと隅に置かれてあった。


(靴下だけ、脱がされた……)


細やかな気遣い( ´艸`)笑


「……」


私はその靴下を拾うと、音を立てないようにドアへ向かった。

もう一度、振り向いて文太さんの方を見る。


(なんか文太さんって……不思議な人かも……)


私はそう思いながら、そっと部屋を出た。






文太さんの部屋を出て、静かにドアを閉める。


(……ふう。さて、誰にも見つからないように、自分の部屋へと……)


靴下を手に持ちながら、抜き足差し足の体勢で向きを変える。

と、目の前に……。


??「……」


「……」


たびたび出会っている、金髪の人が立っていた。


(しまった……見つかった。っていうか、この人、今、帰ってきたの?)


目の前の金髪の人は、首を傾げ……。


??「文太さんの彼女?」


(えっ)


??「……そっか」


ひとりで納得をすると、行ってしまった。


何この人ー(笑)

好き!(笑)←


そのまま、同じ体勢で止まっている私。


(ち、違うんだって……誤解だから……!

あっ、でも同じお布団で寝て抱きしめられちゃったし……)


そう思うと、引っ越してきて間もないのに、なんてことをしてしまったのかと思う。


「いや、やっぱ違……う」


弁解しようとしたときには、もう、金髪の人の姿は見えなくなっていたのだった……。



To be Continued






From:宝来和人

Title:『飯の心配は要らない』


コンビに弁当は身体によくないぞ。

飯は俺が準備するから遠慮するなよ。















ヒロインの名前は△△○○です。

お話中に出てくるペットの名前はホリーです。(私は黒猫で設定していますが、実際のゲームでは6種類のペットから選べます)

個人的な感想あり。ネタバレあり。

注意してください。



Common Route


Episode2 私に起こるハプニング




取引先の人とひと通り挨拶を終えると、打ち合わせが始まった。

目の前の清田さんは、まるで知らない人のように仕事の話を進めていく。


(……ふうん、清田さんって設計士だったんだ。仕事中は別人みたいなんだな)


スマートに振る舞う様子を見て、つい、その姿に見入ってしまった。

と、いきなり視線を上げた清田さんと、バチッと目が合う。


(あっ)


清田「……」


けれどあからさまに顔をしかめ、ふいっと思い切り目をそらされた。


(か、感じ悪い……)


上司「そういえば村上さんはNYから戻ってきたばかりなんだってね」


清田さんの上司の人が、私に話しを振る。


「はい、そうです。昨日、成田に着いて、今日からこの部署に配属になりました」


上司「ほう、そういえばうちの清田も仕事でシアトルまで行って

昨日、成田に着いたばかりなんだよ。なぁ?」


清田「そうですね

あ、そういや到着ロビーに、泥棒がいました。あれ……?」


そう言って清田さんは、私の顔を見てなにか言いかける。

私はテーブルの下で、思いっきり清田さんの足を踏みつけた。


おぉ(笑)ヒロインちゃんやりおる(笑)


清田「……ッテ!」


変な声を発した清田さんを不思議そうに見ながら、今度は砂原部長が私に尋ねてくる。


砂原「昨日の今日で出勤も大変だったな

住む家、もう決まったんだっけ?」


「あ……はい。代官山なんですけど……」


上司「代官山? 確か清田も代官山だったよな。なぁ?」


その瞬間、今度は私が足を踏みつけられた。


なっ!(笑)女子の足になんてことを!(笑)

でもなかなかいいコンビだよねこの2人。



(……イタッ!)


清田「まぁ、代官山っていっても広いですし」


そう澄まして書類をめくる。

私は黙って清田さんを睨みつけると、そっとヒールの足をさすった。






砂原「では、また来週も同じ時間ということで、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


打ち合わせが終わり、清田さんとその上司の人を見送った。


(こんな調子で大丈夫かな……)


廊下の向こうに小さくなっていく、清田さんの後姿を見て軽く息を吐いた。

と、こちらを見ている砂原部長の視線に気がつく。


砂原「やっぱり初日だから緊張してるのか? 笑顔が引きつってるぞ」


「す、すみません」


私は慌てて頬に手を当てると、軽くパンパンッと叩いた。






「なんだかドッと疲れたなぁ……」


その日は初日ということも在り、17時に退社となった。

まだ明るい道を歩きながら、慣れない小鳥遊邸までの道を歩く。


(夕飯、どうしよ……)


思わず、前方に見えるコンビニに目を留める。






(結局、カップ麺にしちゃった)


コンビニのビニールを片手に、小鳥遊邸の門をくぐり抜け玄関の扉を開けた。

中はまだ誰も帰っていないのか、シンとしている。

そう思った矢先、どこからともなく聞こえてくる、ピアノの音に気づいた。


「ピアノ……?」


(どこから聞こえてくるんだろう……)


耳を澄ますと、どうやら外の方だというのがわかる。


「……」


思わずその音色に吸い寄せられるように、私は入りかけた玄関の扉を閉めると、

建物の裏手の方へ回ってみた。


家の裏手にまわると、離れのように古びた洋館ともうひとつの建物が建っている。

母屋とはそれぞれが廊下で繋がれているようで、

外から見てこういう構造になっているのだと始めて知った。


(二棟あるけど……こっちは昨日案内されたお風呂だよね

じゃぁ、あっちの建物はなんだろう?)


ピアノの音は、どうやらその建物の中から漏れてきているようだった。




「おじゃまします……」


私はその古びた建物の玄関扉を、恐る恐る空けた。

ギィッ―と軋む音がしたと思ったら、途端にピアノの音が大きく耳に飛び込んでくる。


(やっぱり、ここからだ……何だろう? この建物。古民家みたいでちょっとステキ……)


玄関からそっとあがって、廊下を進む。

すると手前の、ドアが開きっぱなしになっている部屋が目に入った。


(ここからだ……)


そっと顔を覗かせると、私は息を飲んだ。

目の前の光景にそのまま立ち尽くしてしまう。


「……」


窓から差し込む夕日を浴びて、ひとりの男性がピアノを弾いている。

長い指から創りだされる旋律は、あまりにも繊細で美しかった。


(すごい……いったい誰が……)


すると逆行でわからなかったその人の顔が鮮明になる。


(菊原さん……?)


菊原さん?まじで!?惚れる!!←

いいよねピアノ男子!

大学の同級生の子たちともよく「ピアノ弾ける男子ってかっこよく見えるよね~」って話してるの(笑)

手がおっきくてキレイなんだ~キラキラ(音もパワフルですてき!)

でも弾き終わった途端、そこで幻想終了なんだよね(笑)(菊原さんはそんなことないけど)

まさに音大マジック(←男子が少ないからフツメンでもかっこよく見えるというマジック)ならぬ、ピアノマジック!(笑)



思わず目を見開くと、うつむいて鍵盤に集中している、菊原さんの整った顔から目を離せなくなった。

夕日に照らされて、オレンジ色に染まるその瞳。

感情を入れながら時おり身体を揺すると、サラッと髪の毛が光に反射する。


(綺麗……)


その光景に、知らず知らずのうちに私は見惚れ、いつの間にか部屋の入口に足を踏み入れていた。


??「もう、帰ってたのか」


突然、後ろから話しかけられてビクッとなる。

振り向くと、くわえ煙草をしている和人さんが、いつの間にか真横に立っていた。


「わ、ビックリした……」


和人「早かったな。仕事はもう終わり?」


「あ、はい……」


答えながらも、やはりピアノを弾いている菊原さんに視線がいってしまう。


和人「すごいだろ? 千尋のピアノ」


和人さんは紫煙をくゆらせながら、ホリーのごはん皿を片手にそう呟いた。


「はい……驚きました。とても普通の腕ではないと……」


和人「そりゃあな……なんといっても、菊原千尋だから……」


そう言いながら少し自慢げに目を細める。


(え……どういうこと?)

そこで私は、その聞き覚えのある名前にハッとなった。


「えっ! 菊原千尋って……あの、菊原千尋!?」


そう、菊原千尋とは、全国的に有名なピアニストの名前だ。

クラシックにそんなに詳しくない、私でさえ知っている。


(あの菊原千尋が……目の前でピアノを弾いているってこと……だよね)


気づくといつの間にか、ピアノの音が止んでいた。


(あ……)


私たちの話し声に気づいたようで、菊原さんはこちらを見ている。


菊原「ホリーなら、上にいましたよ」


和人さんの持つごはん皿を指差しながら、ちらっと私に視線を送る。


和人「そうか……」


和人さんはそう答えると、すぐに菊原さんに尋ねた。


和人「もうすぐ晩飯だけど、千尋も食うか?」


菊原「俺、今日出ちゃうんで」


菊原さんはそれだけを答えると、またピアノに向き直る。

そして再び、メロディを奏で始めた。


和人「○○、それ……」


「え……?」


和人さんは、私の提げているコンビニの袋を顎でしゃくると、


和人「夕飯くらい、作るから」


そう言ってフッと笑い、その部屋を出ると階段に向かった。


(……2階? ホリーもいるなら、ちょっと見ていこうかな)






和人「ほら、落ち着いて食えよ」


ホリーの背中を、和人さんの大きな手が優しく撫でる。


「ふふ……可愛い」


思わずそう呟くと、改めて周りをぐるっと見渡した。


2階もいくつかの部屋があるようで、扉が開けっ放しになっていたり閉まっていたりする。


「あの、この建物は……」


和人「あぁ、ここはアトリエ。まだちゃんと見せてなかったっけ?」


「はい。昨日はバタバタしていたので……」


和人「そうだったな。ここでは他のヤツラが、ピアノ弾いたり

まぁ、ピアノは千尋なんだけど……あとは絵を描いたり、写真を現像したり……」


「写真……に、絵ですか……この部屋で?」


和人「まぁ、要するに名の通りアトリエってことだ

写真の部屋は暗室に使ってるし、和室には絵を置いてある。誰でも自由に使えるってこと

もちろん○○も、空いてる部屋を使ってもらって構わないからな」


ホリーが食べ終えたごはん皿をぺろぺろと舐めるのを待ってから、和人さんは容器を取って立ち上がった。


和人「もう、メシだから。荷物置いてリビングへおいで

今日は俺と2人っきりだ」


そう言うと微笑んで見せて、階段を下りた。


私も和人さんに続き、玄関へ向かう。

その際、開いた扉から、ピアノを弾き続けている菊原さんが見えた。


「……菊原千尋、か」


私は音を立てないようにアトリエの玄関を閉めると、菊原さんのピアノの音色を聞きながら、

自分の部屋へと向かった。




着替えてからダイニングへ行くと、すでにいい匂いが立ち込めている。


(わ、美味しそうな匂い……)


思わずスゥと深く息を吸うと、和人さんがヒョイッとキッチンから顔を出した。


和人「お、来たな

もう用意できてるぞ。そこ、座ってな」


ピアノ男子もいいけど、料理男子もいいよね(笑)

あと、「座ってな」っていう言い方も好き(笑)


「はい!」


私は言われたとおり、さっそく、自分の席に着いた。




前のやつの続きです。

今回は超長いよー( ̄▽+ ̄)






「ヨイショ……」


キャリーバッグを抱えながら、私は自分の部屋の前につくと息を吐いた。

そっと床に荷物を下ろすと、ドアノブに手をかける。

そして静かに扉を開けた。


(ここが私の部屋……)


目の前に飛び込んできた光景は、がらんとしているけれども清潔に保たれているのがすぐにわかる室内。


(あ、キレイ……)


ようやくひと息つけると、足を踏み入れようとしたときだった。


桜庭「じゃあ、みんなでやっちゃいますか」


(えっ)


その声に振り向くと、桜庭さんが引っ越しの箱を抱えてみんなに号令をかけ、後ろから渋々といった感じで清田さんが続く。


清田「自分の荷物くらい、自分で運べばいいのに」


桜庭「だってひとりじゃ運べないでしょ? ほら、ちーちゃんも手伝って」


ちーちゃんと呼ばれた人は、不機嫌そうに顔をしかめる。


??「その呼び方はやめろ」


桜庭「あ、この人は菊原千尋。通称ちーちゃんね」


(菊原さんか……えっ、ちーちゃん……?)


いいじゃん。ちーちゃん♪( ´艸`)


菊原「……そもそも、裕介しかそう呼んでないだろう」


桜庭「はいはい。千尋も手伝ってね」


裕介さんはさりげなく去ろうとしていた、菊原さんまでも巻き込む。


「あの……いいですから。自分でやりま……あっ……」


ドア付近にいた私をさっさと通り越す形で、桜庭さんは段ボール箱を部屋へと運び入れてしまった。


桜庭「いいからいいから。みんなでやったほうが早いでしょ? ほら創ちゃんもどんどん運んでよ」


結局はその3人がほとんどトラックから荷物を運んでしまい、あっという間に引っ越しは終了となった。




「……本当にありがとうございました。あとは自分でできますから」


ペコリと頭を下げてお礼を言うと、桜庭さんはニッと笑う。


桜庭「また何かわからないことがあったら言ってね」


清田「やれやれ……」


菊原「……」


それぞれが出て行って、自分の部屋へと引き上げていく。

バタン、バタンと時間差でドアが閉まる音が聞こえたので、みんな同じ階の住人なのだなと思った。


(ふう……)


ひとりになって息をつくと、改めて部屋を眺める。

備え付けの家具と隅っこに積み上げられた段ボール。


「さて……まずはカーテンから付けないと」


私はそう呟くと、カーテンを手に窓に近づいた。

が、すぐに動きを止めて上を見上げる。


「……届かない」


(……かといって、また頼むのも悪いしな……)


キョロキョロと周りを見ても踏み台になりそうなものはなかったので、私は精いっぱい手を伸ばしながらジャンプしてみた。


「えいっ……!」


すると廊下で、誰かが開いたドアの隙間からこちらを見つめていた。

そひてスッと部屋に入って来て……。


??「貸して」


(え……)


私の手からカーテンを掴むと、サッと簡単にレールに通してしまった。


こういうのサッとできる人いいよねラブラブ


(あ……この人、菊原さん……)


ついその手際のよさに見惚れていることに気づき、私は慌ててお礼を言った。


「ありがとうございま……」


その瞬間―。


開いた窓からふわっと春風が舞い込み、カーテンがはためく。

そして大きく膨らむと、私と菊原さんをすっぽりと包み込んだ。


「……」


菊原「……」


何が起きたのかわからずに固まる私。

そして綺麗な顔でこちらに視線を向ける菊原さん。

その距離、わずか数センチ。


(わ……)


お互いの息がかかったことで我に返った私は、ドキッと胸が鳴った。

と、その時、カーテンの向こうから突然、声が聞こえる。


桜庭「おーい。夜は歓迎会やるか……ら」


「あっ、は、はい……」


慌ててカーテンをどけると、廊下からポカンとした顔の桜庭さんと、様子を見に来た宝来さんがこちらを見ていた。


和人「……お前ら……何、やってんだ?」


「い、いえ……これはカーテンを付けていただいて……」


菊原「……」


(……っていうか、この人、黙ってないで何か言ってくれてもいいのに)


私が必死に弁解している間に、菊原さんは何事もなかったかのように部屋を出ていく。


桜庭「へぇ~。あやしいな~」


「だ、だからですね……」


その後もしばらく私の必死な弁解は続いた。






桜庭「じゃあ、○○ちゃんがこの小鳥邸にやって来たことに……」


「ちょ、ちょっと待ってください。ことり邸……?」


桜庭「ああ、みんなこの家に来たときは、小鳥が遊ぶって書いてタカナシって読めなくて小鳥邸って呼び始めたんだよね

可愛いでしょ?」


「なるほど……」


清田「言いだしっぺは裕介さんだけどな」


桜庭「創ちゃんだって呼んでるじゃん。ってそんなことより、みんなグラス持って

じゃあ、乾杯~!」


『乾杯』という声と共に、みんながグラスを掲げた。

リビングでは、私の歓迎会が行われている。

テーブルには宝来さん、桜庭さん、清田さん、さっきの菊原さん、そして文太さんがいる。


(……わざわざやってくれるのはありがたいんだけど……1ヵ月後にはもう出ていく予定なんだけどな)


大家さんの『次の部屋が見つかるまで』という条件が頭をかすめる。


桜庭「あれ? ○○ちゃん、お酒飲めないの?」


「いや、そういうわけじゃ……」


(……名前……いつの間にか○○ちゃんって)


桜庭「だったらさっかくだし、飲もうよ。○○ちゃん」


「はあ……」


桜庭「ん? ○○ちゃんで良かったよね? 名前」


(……最低でも1ヶ月はお世話になるんだし、やっぱり挨拶はきちんとしておこう)


「そうです……△△○○と言います。改めてよろしくお願いします」


私はペコリと頭を下げた。


和人「よろしくな、○○」


「え……」


(今、○○って……)


和人「あぁ、ここに住んでるヤツはみんな呼び捨てだ。みんな家族同然だからな。俺のこともそれでいいぞ」


「あ、はい……じゃあ、和人さん」


和人「そういうこと。ほら、遠慮せずに飲め」


「はい。ありがとうございます」


裕介「ってことで、オレも裕介って呼んでね」


(……いや、呼び捨てはさすがに)


「では……裕介、さん」


そう呼ぶと、裕介さんはニコニコしながら私にいくつかのお酒を差し出してくる。


裕介「はい。じゃあ、どれにする?」


私はそれらのお酒を前に迷う。


(……どれにしよう?)


初選択ー!どれにしよう?(笑)



A:カクテル系のお酒

B:缶チューハイ

C:赤ワイン



とりあえず、Cは……ないかな。

AかB……。

カクテルでかわいくいくか、缶チューハイで気取らなさをアピるか(笑)


「じゃあ、これを……」


(やっぱり、こういう時、女の子はこういうの選ぶよね)


お、ちょっとこれはヤバイ気がする……(笑)

Bにチェンジ!


(……こういう時、女の子は可愛らしくカクテル系にいくもんだよね……)


っていうか、カクテルの方が美味しい(笑)

けして狙ってるとかじゃなく!(笑)←

まぁ、万年ソフトドリンクの私には、どっちがいいかなんてぶっちゃけよくわかりませんけどね┐( ̄∀ ̄)┌


「……」


けれど私はしばし葛藤すると、パッと缶チューハイを受けとる。


(……どうせすぐにここの人ともお別れだし、可愛こぶっても仕方ない)


そしてそれをクッと口にする。


清田「すげー、女のくせに結構、いける口かよ」


実際は梅酒ソーダ割りコップ半分+カクテル3口(←友人に分けてもらった)で千鳥ですが( ̄▽+ ̄)


菊原「お酒、強いんだ?」


裕介「和にい、ビールまだあったっけ?

あ、○○ちゃんもどんどん飲んでね?」


和人「冷蔵庫にたくさん冷えてるから、勝手に取れ

ほれ、文太。ぼーっとしてないで食わないとすぐになくなるぞ」


文太「……うん」


みんなが好き勝手な会話をするのを、ぼんやりと眺める。


(……本当に男の人ばっかり……

私、今日から男の人に囲まれて暮らすんだな)


しかもイケメンぞろい( ̄▽+ ̄)


騒がしい部屋の中、私はみんなにわからないようにそっとため息を吐いた。






しばらくすると、菊原さんと文太さんは部屋に戻り、清田さんと裕介さんは、まだ何やら盛り上がっている。


和人「○○、先に風呂入っていいぞ」


「はい。じゃあ、そうさせてもらいます」


立ち上がると、和人さんが先に立って歩き出す。


和人「風呂の場所、教えてやる」


私はリビングを出ていく和人さんに続いた。






和人「この廊下を真っ直ぐ行って、突き当たると扉がある」


「そこですか?」


「別棟……」


(……すごい、迷子になりそう)


私はお礼を言うと、部屋に戻って着替えなどを取りに行くことにする。






お風呂でたっぷりと温まったあと、私はバスタオルを巻いて脱衣所の扉を開けた。


「はあ……これでどうにか今日一日の疲れも取れ……」


そこまで言いかけて、目が点になる。


(へっ……?)


目の前に、文太さんがいる。


「……」


私は一拍遅れて、『キャーッ!』と、悲鳴を上げた。

けれど文太さんはまったく動じず、キョトンとした顔で言う。


文太「ん? 誰だっけ?」


(誰だっけって……)


「あの……だから今日からお世話になる……」


バスタオルをたくし上げながら、隅っこで答える。


文太「あ、お風呂もう空いた?」


文太さんは私の答えはどうでもいいように、眠そうに目をこすった。


「あ、はい。今、出ます……」


つい答えてしまうと、


文太「あ、ちなみに、全然見てないから」


文太さんはそう言い放ち、何でもないことのように洗面所を出て行った。


「……」


そこで私は我に返り、バスタオル姿の自分を見下ろす。


(わぁ!)


パニックになりながら、急いで着替えると慌ただしく洗面所をあとにした。






(……それにしてもさっきの文太さんっていう人……なんて失礼なんだろう!)


「人のこと覚えてないだけじゃなく……ゆ、湯上りの私の身体を……」


思わず濡れた髪も乾かさずに、牛乳をぐびっと飲んだ。


「あぁ……一刻も早くここを出て行かなくちゃ」


(……1ヶ月とはいえ、私……辛抱できるのかな)


「こうなったら不動産屋のおじさんにもう一度電話して

もっと早く次の物件を探してもらうように言わなくちゃ……!」


そう言いながらも、パソコンを起動する。


(自分でも、いい物件がないから探してみよう)


ムキになって、キーを叩く。

私は第一日目にして、ここに住まなくてはならなくなったことを既に後悔していたのだった。






そして翌朝―。


「わぁ! 大変!」


私はガバッと布団から飛び起きる。






急いで着替えるとバタバタと慌てながら、玄関に向かった。


(まずい! どうしよう……これじゃ、30分前に出勤できないよ)


ヒールを出してかかとを入れていると、リビングからヒョイッと和人さんが顔を出した。


和人「あれ? ○○、朝メシは?」


「あ、ごめんなさい。遅刻しそうなので……!」


そう断って玄関の扉に手をかける。


和人「あ、そうなのか? ……でも、六本木だろ? ここからそんなに時間かからないと思うけど……」


すると裕介さんが和人さんの横を通り抜け、


裕介「じゃ、オレも行こーっと」


そう言うと、私と並んで歩き始めた。


「え? 一緒に行くんですか?」


裕介「そ、だってどうせ途中までは一緒だし、いいでしょ?」


「まぁ……」


するとその時、昨日、会った金髪の男の人が、門を開けて入って来るのが見えた。


(あっ、この人……)


裕介「おかえり」


(えっ?)


驚いて裕介さんを見上げると、自然な笑顔でその人を見ている。


??「……ただいま」


と、すれ違いかけたその人が、ピタッと足を止めて私をじっと見つめ……。


??「あぁ、裕介さんのカノジョ……」


そう呟くと玄関のドアを開けて、家の中へと消えた。


「ちょ、ちょっと裕介さん……勘違いされちゃいましたけど、いいんですか?」


すると裕介さんは爽やかな笑顔で、ニッと笑う。


裕介「じゃあ、本当に付き合っちゃう?」


「え……」


裕介「なーんて、ウソウソ」



(もう……)


ドキッとするような冗談をサラッと口にされながら、結局、駅まで一緒に行った。






「じゃぁあ、私、こっちなので」


駅に到着すると、私は改札の前で裕介さんにペコリと頭を下げて歩き出す。

するとサッと再び隣に並ばれた。


裕介「オレも今日からこっちの経路で行こうっと」


そう言いながら、ホームまで付いてくる。


(こっちの経路って、いいのかな)






電車の中は朝のラッシュで、かなり混んでいた。


「すごいですね……毎朝、こうなのかな」


ぎゅうぎゅうと押されながら、何とか自分の位置を確保する。


裕介「まぁね、この時期は特になんじゃない?」


その時、電車は急カーブで曲がると、どっと人がこちらに押し寄せてきた。


「わぁ……!」


ハッと気づくと、裕介さんと密着する形になっている。


私は思わず……。


選択!



A:目をそらす

B:真っ赤になる

C:つかまらせてもらう



どうしようかな、つかまらせてもらおうかな( ̄▽+ ̄)


裕介さんの肩に手を置いた。


「つ、つかまらせてもらってもいいですか?」


(そうしないと、完全に密着しちゃうよ……)


裕介「俺でよければいつでもどうぞ。なんなら身体ごとでもいいけど?」


「いえ、それはちょっと……」


赤くなりながら下を向いていると、急にフッとからだが楽になった。


「え……?」


裕介さんは私の盾になり、人がこちらに押し寄せてこないようにしてくれている。


こういうのさりげなく出来る人っていいよねラブラブ


(あ……普段は軽い子と言ってても、こういうところもあるんだ……)


裕介さんの、少し意外な面を見たような気がした。






(さて……いよいよ今日から初出勤だ!)


新しい部署のため、緊張しながらそわそわと自分の机に座る。

NY留学をしていたため、回りは当然、知らない人ばかり。

と、そこでひとりの男の人に目を留めた。

切れ長の目に、サラサラの髪の毛、お洒落な着こなし……。


……え、これ、お洒落なの?(笑)←こら


(わっ、ステキな人……王子様みたい。彼と一緒に働けるんだ……)


と、あまり見過ぎていたせいか、その人がバッとこちらを向いた。


(あっ……目が合っちゃった)


するとなぜかその人は、ずんずんとこちらに向かって来て……。

気がついたら、私の目の前にスッと顔を近づけた。


??「アナタ……今日から入った子よね?」

「は、はい」


(……よね?)


??「私は椿アキオ。アキちゃんって呼んでちょうだいね」


「わ、わかりました」


(……アキ、ちゃん? って、もしかして……?)


アキオ「わからないことがあったら、何でも私に聞いてね?」


アキちゃんはそう言って、ニッコリと笑顔を向けた。






その後アキちゃんは、私を給湯室に連れていき、文房具の管理場所に案内してくれて、ざっとその部署のだいたいのことを教えてくれた。


「ありがとうございました。何もわからないので、助かりました」


アキオ「あらっ、このくらい全然いいのよ~。それよりももっとリラックスしなきゃ、ね?」


「はい……」


(なんだかアキちゃんって、すごく頼れて話しやすい。仲良くなれそうかも……

……でも、せっかく、王子様が現れたって思ったけど……)


少しだけ残念な気もする。

そんなことを考えていると、朝礼の号令の合図がかかった。






目の前には、この部署の部長でもある砂原部長。

そして同じ部の社員たちがずらり。


(わ……砂原部長とは初対面だし、この緊張感……)


ドキドキしていると、さっそく砂原部長に前に出るよう命じられた。


砂原「今日からこの部署に入った△△だ」


「△△○○です。よろしくお願いします……!」


砂原「△△は1年間NYに留学している。その経験がきっと大いに役に立つだろう

みんなも村上に、ビシッと仕事を教えてやるつもりで接してくれ。頼むぞ」


あちこちから『はい!』『わかりました!』と声が返ってきた。


(砂原部長が話し始めると、空気が締まる……)


部下に信頼されているのが、とても伝わってきた。

以前いた部署でも、その評判は耳にしたことがある。


(……なんかこの部署で働くのが、楽しみになってきたな、頑張ろう……!)


私は心の中で、そう誓ったのだった。






朝礼が終わり、机に戻ろうとしたら砂原部長に呼び止められた。


砂原「△△」


「はい!」


砂原「今日はこれから、大事な取引先の設計事務所の方が来ることになっている」


「そうなんですね」


砂原「あぁ、それで△△にもその際、挨拶をしてほしい」


「わかりました」


私は砂原部長に向かって、そう返事をした。






そして時間になり、私は砂原部長と設計事務所の人を待っていた。

『お見えになりました』と、女性社員がドアを開ける。


(いよいよだ……)


サッと立ち上がって待つと、そこに現れたのは……。


(えっ!)


思わず声を上げそうになって、急いで口を覆う。


(な、なんで……!)


そう、そこに立っていたのは……。


清田「うわ、お前……」


同じ小鳥遊邸、同居人の清田さんだったのだ。

呆然と見合う私と清田さん。

だが、清田さんと一緒にやって来た上司の人が、何も知らずに席につき始める。


清田「ゴホンッ……」


清田さんは咳払いをすると、何事もなかったように目をそらした。


(うわ……清田さんが取引先だなんて、最悪だ……)


思わず下を向いてため息をつくと、砂原部長に尋ねられた。


砂原「どうした? 知り合いか?」


「いや、まさか……! そんなことあるわけないじゃないですか」


(と、とにかく落ち着こう……)


「初めまして、△△と申します」


私はにこやかな笑顔を作ると、そう挨拶をした。


清田「……初めまして」


すると一瞬、ムッとした表情を見せたものの、清田さんも名刺を取り出す。

私と清田さんはこうして知らんぷりを決め込んで、お互いに初対面の挨拶をしてみせたのだった―。




To Be Continued






From:椿アキオ

Title:『よろしくね!』


会社のことで分らないことがあったらなんでも聞いてね。

もちろん恋の相談もOKよ!




ヒロインの名前は△△○○です。

お話中に出てくるペットの名前はホリーです。(私は黒猫で設定していますが、実際のゲームでは6種類のペットから選べます)

個人的な感想あり。ネタバレあり。

注意してください。



Common Route 


Episode1 男だらけの同居人




ざわざわと行き交う人々の喧騒。

トランクを押しながら歩く人たち。

私は地上に降り立つと、思いきり息を吸った。


(……帰ってきた……1年ぶりの日本)


「うーん……懐かしいこの空気」


思わずそう呟くと、ついつい笑顔になる。

私、△△○○は、約1年間のNY留学を終えて帰国した。


いいなぁNY!行きたいっo(^▽^)o←GG(ゴシップガール)の影響


(仕事の皆勤賞でもらったご褒美留学だったけど、かなり勉強になったし…

…新しい部署でも頑張らなきゃ)


期待に胸を膨らませながら、荷物の受取所へ歩き出す。


「今日から住む新居もしっかり手配済みだし……万事順調だよね」


自然と足取りが軽くなる。






たくさんのキャリーバッグがベルトコンベアーから流れてくるのが目に入ると、

自分の荷物をすぐに見つけた。


「あ、きたきた」


ひょいっとキャリーバッグを持ち上げる。

そして不動産屋さんに連絡を入れるために、私は携帯を取り出した。

が、その手を誰かにグッと掴まれる。


(え……)


??「おい、泥棒!」

(ど、泥棒……? って、私のこと?)

ビックリして振り返る。

??「お前のことだ。何度も言わせんな……泥棒」

鋭い目つきの男の人が、うんざりした顔で私を見下ろしていた。

「……泥棒って……どういうことですか?」


思わずムッとして睨み返す。

??「俺、こんなだっせぇキーホルダー付けてねぇし」


そう言って差し出したのは、私の手にしているのと全く同じキャリーバッグ。


(え……)


見覚えのある、お気に入りのキーホルダーが付いている。


「あっ」


ようやく私は、同型のキャリーバッグを取り違えていたことに気づいた。

よく見ると、アルファベットで『SOUICHI KIYOTA』というネームプレートが付いているのが見える。


「す、す、すみませんっ!」


慌てて私は頭を下げる。

と、その男の人はジロッと睨んで、乱暴にキャリーバッグを交換し、


清田「ったく、浮かれた顔してねぇで、気を付けろよな」


そう吐き捨てるとスタスタと行ってしまった。


(何アレ、感じ悪い……確かに間違えた私が悪いとは思うけど……)


「……忘れよう!」


気を取り直して、不動産屋さんに電話をかける。


「あっ、もしもし! △△ですが、たった今帰国しました。それでこれから新居に……え?」


私は思わず言葉に詰まる。

おじさん「……実はね」


電話の向こうからは、不動産屋のおじさんの、とても暗い声が聞こえたのだった。






「えっ! 手違いってどういうことですか……!?」


不動産屋につくと、おじさんは目の前で申し訳なさそうな顔をした。


おじさん「ごめんね。ちょっとした時間差だったんだよ……」


訳を聞くと、私の決めたはずの物件が、他の人とブッキングしてしまったらしい。

何でもその人の方が契約が一足早く、すでに引っ越しも済ませてしまったということだった。


「そんな……」


しばらくショックを受けていると、言い訳をするようにおじさんが言う。


おじさん「何度も電話はしたんだよ? でも、海外のせいか、全然、繋がらなくてねぇ……」


(……最後の方は、帰国の準備に追われてろくにアパートメントに帰ってなかったからな……)


う言われてしまうと、怒る気にもなれない。


「どうしよう……NYから荷物も届いちゃってるのに……」


おじさん「と、とりあえず、すぐに住めるところを探してあげるから」


おじさんはそう言うなり、奥に引っ込んでしまった。


私は手元にある、住むはずであった物件のチラシを手にため息をつく。


「……私の新生活、憧れのカウンターキッチンが……」


(そうだ……今夜、泊まるところだけでもなんとかしないと)


私は都内のアパートに住む、短大時代の親友のなずなに電話をかけることにする。


「あっ、もしもし……なずな?」


なずな「わっ、○○! おかえり~! 日本に帰ってきたんだね」


「う、うん……ただいま。あのね、実は……」


私はことの顛末を手短に話した。


なずな「そうだったんだ? それは災難だね……」


なずなは同情してくれて、私はホッとして涙が出そうになる。

が、少しして、力なく声のトーンが落ちる。


「……うん。うん、わかった。それじゃ、仕方ないね……」


『力になれなくてごめんね』という言葉を最後に、電話は切れた。


(なずなもダメなんて……八方ふさがりだ)


たまたま実家に帰省中で、1週間は戻ってこないということ。

どうしたらいいかと、茫然とする。

と、その時、おじさんがニコニコとして戻ってきた。


おじさん「いいところが見つかったよ! お嬢さんの望みどおり、カウンターキッチン完備

本当はココ結構高いんだけど、今回はこっちのミスだし安くしてあげるよ」


「本当ですか……?」


おじさん「あぁ。さぁ、決まったからには今から見に行こう! 大家さんには連絡済みだからね

ええと……小鳥遊邸っていうところなんだ」


(タカナシ……邸?)


何となく古さを感じさせるその名前に違和感は覚えるけれど、

とにもかくにも住むところが見つかったのだ。


「ありがとうございます……!」


私はホッとして、キャリーバッグを抱えて立ち上がった。






(こ、ここ……?)


小鳥遊邸と書かれている表札。

目の前にはとても立派な、まるでお屋敷のような洋館が建っていた。


「ええと……ことり、ゆう?」


おじさん「あぁ、『小鳥が遊ぶ』と書いてこれで『タカナシ』と読むんだ

古くからある建物だけど、中はとても綺麗だからね」


おじさんはニコニコとしてそう言う。


「えっと……ここで間違いないんですよね

こんな豪華なアパート、現実にあるんですね……おまけに代官山なんて」


(……賃貸マンションなのに、一軒家みたい)


信じられない思いで立ち尽くしていると、なぜだかおじさんは目をそらす。


おじさん「ははは……そうだね」


(これなら前の物件と比べものにならないくらいオシャレだし……

こんなところに住めるなんて夢みたい)


思わず笑顔になって、建物を見上げると……。


(えっ)


??「あっ……」


バチッと男の人と目が合う。

その男の人は、今、まさにその豪邸の門をよじ登ろうとしているところだった。


(ウソ……引っ越しそうそう泥棒!?)


思わず身構えると、その男の人が爽やかにニカッと笑う。


??「あ、怪しいものじゃないからね」


(えっ?)


と、戸惑っていると、今度はその門がゆっくりと開いた。


??「おい、裕介……」


現れたその人は、少し渋めの雰囲気を持つ人だった。


??「また鍵、忘れたのか?」


(ゆ、裕介? 鍵? ……ってうか、この人は?)


裕介「あはは……バレたか」


事態が飲み込めずポカンとしていると、私の横を裕介と呼ばれた人がすり抜け

る。


おじさん「先ほど、お電話したあすなろ不動産屋です」


??「お待ちしておりました。大家の宝来和人です」


いつの間にか挨拶が始まって、私はまた驚いて目を見開いた。


(えっ、この人が大家さん。若い……どう見ても40前にしか見えないけど……)


裕介「あっ、オレは桜庭裕介です!」


和人「おい。なに、どさくさにまぎれて自己紹介してるんだ?」


桜庭「いいじゃん、別に~挨拶は大事でしょ! ね?」


桜庭さんはそう言うと、私の顔を見て無邪気に笑う。


「え……」


和人「ま、ここじゃ何ですし」

宝来さんはそう言うと、私たちを中へと招き入れた。


するとまたひとり、誰かが玄関の方から姿を見せ……。


(わ……金髪だ。まるでホストみたいだけど……)


ご近所さんになるかもしれないと、私はペコッと頭を下げた。


「こんにちは」


??「……ども」


ボソッとそれだけを言うと、その人は行ってしまった。






(な、なんか色んな人が入り乱れているような……)


戸惑いを隠せないまま、桜庭さんという人が勢いよく玄関を開ける。

と、中から小さな動物が駆け寄ってきた。


(あ、可愛い……ペットがいるんだ)


思わず顔がほころんで、柔らかな毛並みを撫でる。


桜庭「ホリー、お出迎えありがと」


すると次の瞬間、ひょいっと桜庭さんがそのペットを抱き上げ、こう言った。


桜庭「新しい同居人が来たよ!」


(へっ?)


桜庭「しかも女の子……!」


(同居人……?)


目を見開いたまま、不動産屋のおじさんと大家さんを交互に見る。


『同居人』という言葉に、かなりの敷地面積の豪邸―。


(まさか、これがちまたによく聞く……シェアハウス……)


すると中からまた誰かが2人、こちらに向かってやって来た。

ひとりは気怠そうにこちらを見る、綺麗な顔の男の人。


??「……なに? 同居人?」


そしてもうひとりは……。


清田「うるせーな。誰が来たって?

あっ、お前! 空港の泥棒」


(あっ……荷物の人)


桜庭「えっ、なに!? キミが本物の泥棒?」


桜庭さんが、ビックリした顔で私を見る。


「いえ、違います! あれは、荷物を間違えてしまっただけで……」


(って、空港で訂正したのに……

今はそんなことより)


「あの!」


私が大きな声を出すと、そこにいる全員が私を見た。

息を吸ってきっぱりと声にする。


「私、ルームシェアなんて聞いてません!」


シーンとする中、やがて宝来さんが口を開いた。


和人「それは困ったな……でも、そうしたら……どこに住むんだ?」


そう言って表の方を指差され、いつの間にかトラックが停まり、

引っ越しの荷物が届いたことがわかった。


(あ……)


すると気まずい空気を破るように、不動産屋のおじさんが言う。


おじさん「じゃあ、1ヶ月だけ我慢してよ? それまでに新しいところを探そう」


他に泊まれる場所はなく、表には引っ越し業者。

翌日には新しい部署に出勤しなければならない。


(はぁ……)


私は力なく頷いた。


桜庭「じゃ、そういうことで」


桜庭さんは笑顔になると、サッと私のキャリーバッグを持って中へと運び入れる。


「あの、荷物は私が……」


どんどん中へと入ってしまう桜庭さんを追いかけて、私はリビングへと足を踏み入れた。

と、ソファから長い足がにゅっと覗いている。


「わぁ!」


ビックリして飛びのくと、その足の主がのそっと起き上がった。


??「……」


(……こ、この人も同居人!?)


その人は目をこすり、寝ぼけた顔で私をジッと見る。


??「おかえり」


「あ……ただいま」

言いながら自分でハッとする。


(わ……つい返事してしまった……)


と、ポンッと肩を叩かれる。


桜庭「もう、すっかり俺たちの一員だね」


(……そんな爽やかな笑顔で言われても……こんなはずじゃなかったのに!)


桜庭「あ、こっちのは文太。栗巻文太っていうんだ」


そう言って今の男の人を指差すと、いつの間にか他の人たちも勢ぞろいしている。

見渡してみると、リビングの中は私以外……。


(男だらけ……?)


こうしてこの日から、私と見知らぬ男性たちとの共同生活が、突然、幕を開けたのだった……。




To be Continued











って本当はもうとっくに終わってたんだけど(笑)

そろそろ復活しちゃおうと思います(^O^)/

書きだめてるヤツちょいちょいUPしていくぞー♪いえー

ふっふっふ。がんばります!




まぁ、学生というか、音楽系学科の学生というか。

オペラの公演が差し迫っているため、毎日忙しい日々を送ってます。ハイ。←


もう、せっかくアメーバにブログ作ったのに全然更新できてないよー(ノДT)うあぁぁ←なにもアメーバに限ったことじゃないですがね(笑)ダメダメです(笑)


ふー。

でも、あと一週間……あと一週間でこの苦しみから解放されるんだ!

もうすぐ、床で寝落ちしたり、授業中にこっくりこっくりしたり、GREEのボルゲーイベントに乗り遅れたりする日々ともおさらばさ。


いや、オペラ好きなんだけどね。

練習楽しいんだけどね。

でも……、それ以上に……


超、疲れる(^ ^)


↑これ、(一部の)友人とか先輩とか先生とかに言ったら、確実にシメられるな(笑)


完レポです。ネタばれ注意。

管理人の個人的な感想アリ。(ご了承ください)




STAGE4 自慢の彼女



数分後――。

私達を乗せたプライベートジェットは、オリエンスに向けて飛び立った。

オリエンスに到着するまでの間、私達の手はしっかりと握られたままだった。


グレン王子「……疲れたなら、少し寝てろよ」


「ううん、平気だよ」


(オリエンスに戻ったら、ふたりだけのハロウィンをしよう。きっと、楽しく過ごせるはず……)


思い出に残るふたりきりのハロウィン。

そんな時間に思いを馳せたけど、私の予想は軽やかに裏切られてしまった――。



グレン王子「じゃあ、まずはベッドに座ってよ」


(ベッド……?)


グレン王子「……正座で」


「へ?」


グレン王子「アンタさ……いい加減自覚しろよな。隙だらけだってこと……。そもそも、ロベルト王子にちょっかい出されたら、きちんと断れよ……。あの人、マジでアンタのこと狙ってんだから」


確かに(笑)隙あらば!ってかんじだったよね(笑)


(あれ?本気でお説教?お説教だぞ!って言いつつ……甘い感じじゃなかったの?)


自分の考えの甘さに、遅ればせながら気付かされた。

私が愕然としている間も、彼のお説教は続いた。


(……どうしてこんなことに)


グレン王子「聞いてんの?」


「は、はい!」


私は背筋をピンッと伸ばした。


すると、グレン王子が唐突に私を抱きしめた。


(えっ……?)


グレン王子「ったく……あんま、俺をハラハラさせんなよ。アンタのことばっか考えすぎて、おかしくなるだろ?」


グレン王子は深く息を吐いて、私を抱きしめる手を強めた。


「これからは気をつけるよ。ごめんね……」


グレン王子「もういい。俺も悪かったから」


グレン王子は、はにかんだように笑って、微かに頬を赤らめた。

それから、私の顔を覗きこんで手の平を差し出した。


かわいいv


グレン王子「トリックオアトリート……ふたりでハロウィンをやり直そうぜ」


「……うん」


A:マフィンを渡す

B:ふたりで出かける


「はい、これ……グレンくんの」


私は真心こめて作ったマフィンをバスケットから取り出した。


グレン王子「これ、アンタの手作りなんだよな?」


「うん。グレンくんのは、特別にクリーム入りだよ。本当は……もっと早く渡したかったんだけど。色々、考えすぎちゃって……」


グレン王子「まぁ、それに関しては俺が悪かった……。勘違いさせるようなことを言っちまったからな」


グレン王子は苦笑いを浮かべて、私の隣に座り直した。

そして、マフィンを見つめながら、ぽつりぽつりと語り始めた。


グレン王子「人前で抱き合ったりとか、イチャイチャするのって……本当に苦手だった」


(あれは本心だったんだ……)


グレン王子「だってさ、自分を見失ってるみたいでみっともないだろ? そもそも……俺ってそういうキャラじゃねぇし」(照)


照れくさそうに言葉をつむぎ出すグレン王子。

その声はとても穏やかで、耳に優しく馴染んだ。


グレン王子「でも……アンタと付き合うようになってからは、ちょっと考えが変わった。手とか繋ぎたいって思うし、手作りのお菓子とか弁当作ってもらって……人に見せびらかしたいなんて思うようになった。だけどさ……素直になれなかったり、ガキっぽいって思われるんじゃないかって、考えちまうんだよなぁ。はぁぁ……」


彼の深いため息が、苦悩の全てを物語っているように思えた。

私の知らないところで頭を悩ませていたグレン王子。

そんな彼が愛しくて、私はグレンくんの手を優しくと握りしめた。


「グレンくんのこと、子供っぽいなんて思ったことないよ。……むしろ、私の方が子供っぽいかも。だって、その衣装……本当はペアなんだもん」


グレン王子「マジかよ? どうして着なかったんだよ?」


「グレンくんが嫌がるかと思って……」


彼の顔色を伺いつつ、クローゼットに仕舞った衣装を取り出した。

そしておずおずと衣装を羽織った。


「グレンくんの衣装は、フードに耳がついてて……私のはカチューシャタイプのネコ耳なの」


説明しながら頭にネコ耳を装備して見せた。

その途端、グレン王子が顔を真っ赤に染め上げた。


グレン王子「……くっ」(照)


「どうかした?」


グレン王子「その衣装……隠しておいて正解だったな」


「えっ? もしかして変だった?」


グレン王子「その逆。可愛いすぎだろそれ……それ。

ちょっと、待ってて。俺もネコ耳になるから……」


グレン王子はイタズラっぽく笑って、黒猫のフードをパッとかぶった。


もー何、このバカップル!(笑)


グレン王子「ほら、これでお揃い。……変じゃない?」


「すごく……似合ってるよ」


黒猫とグレン王子。

その組み合わせの破壊力は、私の想像を遥かに上回っていた。


(か、可愛い……)


グレン王子「なんつーか、俺達……完璧にバカップルだよな」(照)


ヒロインちゃん&「……間違いないね」


私達はお互いの顔を見て、同時に笑いあった。


グレン王子「でも、バカップルも悪くないな。ふたりで笑って過ごせるなら、こういうのもありだよな」


自分の言葉をかみしめるように、グレン王子はつぶやいた。

そして、満足そうにうなずいてマフィンを頬張った。


グレン王子「うん、美味い。○○も食えよ……」


グレン王子は、食べかけのマフィンを私に差し出した。


「ふたりでひとつのマフィンを食べるの?」


グレン王子「バカップルならとーぜんでしょ」


グレン王子は楽しげに笑って片目を閉じた。


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


私は少し緊張しながら、マフィンをパクッと頬張った。


(間接キスが……妙に恥ずかしい)


青い恋愛のような気恥ずかしさが体を駆け抜ける。

私がうつむいていると、彼の唇が私の頬に近付いてきた。


グレン王子「唇の端に……クリームついてる」


チュッと、愛らしい音を立てて触れる唇。

グレン王子は、私の頬についたクリームをペロッと食べてしまった。


「グレンくん……本当に猫みたい」


グレン王子「そりゃ……そうだろ。今の俺は、可愛いメス猫が気になってしょうがない、ただのオス猫だから」


猫のように手を招くグレン王子。

彼は妖艶に微笑むと、私をベッドに押し倒した。


グレン王子「ねぇ、可愛い声で鳴いてよ……俺が欲しいって」


うわわわわわわわ(/////)


キャッツアイのように煌くグレン王子の瞳。

揺らめく尻尾も本物のように思えた。

こうして、ハロウィンの夜は怪しく深まってゆくのだった。



それから数日が経過した頃。

私は、グレン王子にあるリクエストを依頼された。

それは――。


「本当に持っていくの……これ?」


グレン王子「持っていかなかったら意味がねぇだろ? あんたが折角作ってくれた弁当なんだから」


グレン王子のリクエスト。

それは、公務先で食べるお弁当を作って欲しいという内容だった。


「手作りだってバレバレだと思うけどいいの?」


グレン王子「いいんだよ。つーか、めっちゃ自慢する……」


「また……ロベルト王子にからかわれたりしてね」


グレン王子「……まぁな。でも、どーせバカップルになるなら、羨ましがられる方がいいだろ?それに、羨ましがられるぐらいバカップルになったら……それって怖いもんなしだよな」


グレン王子は少年のように笑って、大事そうにお弁当を抱えた。

そして、行って来ますのキスを捧げてくれた。


グレン王子「今日は夜までには帰る。帰ったら一緒に……風呂でも入るか?で、洗いっこでもする?」


「えっ!?」


もうすっかりバカップルね(笑)


グレン王子「……なんてな」


グレン王子は、本気とも冗談とも取れない顔で笑って、部屋のドアを開いた。


グレン王子「じゃあ、行ってくる」


「……うん、行ってらっしゃい」


新妻のように彼の背中を見送りながら、思いついた。

彼が帰ってきたらお帰りなさいのキスで迎えてみよう。


(どんな顔するかな? グレンくん)


私達のバカップルブームは、しばらくの間続きそうだった。






完レポです。ネタばれ注意。

管理人の個人的な感想アリ。(ご了承ください)




STAGE3 強がり禁止



怪しくも可愛いカボチャのランタンで彩られた、ハロウィンの夜。

大勢の人で賑わう街で、本日のメインイベントである仮装パレードがついに始まった。


アラン「姫ー! トリックオアトリートだぞー!」


「はい、どうぞ、お化けさん」


アラン「ありがとう、姫!

みんな! もっと、お菓子をもらいにいくぞー!」


子供A「アラン隊長! 向こうでもお菓子を配ってるよ!」


子供B「あっ! あっちはクッキーだ!」


アラン「よし、みんな! 突撃だー!」


グレン王子「アラン、転ばないように気をつけろよ」


アラン「た、隊長は転んだりしないぞ!」


私からマフィンを受け取ったアランくんは、子供たちを引き連れて駆け出した。元気にはしゃぐ小さな後姿。

私とグレンくんは顔を見合わせて、アランくんを見送った。


「お化けの仮装をしているから、王子だってことに誰も気付いてないんだね」


グレン王子「まぁ、たまにはこんな日もいいよな。王子とか王室とか……しがらみに縛られない日があってもさ」


「うん、そうだね」


私とグレン王子は、幻想的な街灯りに照らされながら笑顔をかわした。


グレン王子「さてと、俺たちはのんびりとパレードでも楽しむか。

ってかさ……後で俺にもマフィンくれよな。アンタの手作りなんだろ?」


「えっ? 知ってたの……?」


グレン王子「まぁな。ほら、行くぞ」


「うん……」


"やっとふたりきりになれた"

そう思った瞬間、仮装をした女性達がグレン王子を取り囲んだ。


(な、なに!?)


女性A「あの……一緒にお菓子を配りませんか?」


女性B「私達も黒猫の仮装なんですよ、猫同士楽しく過ごしましょうよ~」


気付けば、私達は猫の仮装をした女性達に取り囲まれていた。

猫撫で声で話しかけ、熱い視線を送る猫娘達。

たったひとりの魔女の私は、あっという間に群れから追い出されてしまった。


(魔女が猫に負けた……)


女性C「キミって、グレン王子にちょっと似てるよね」


グレン王子「そうかな……。気のせいでしょ」


女性D「ほんとだー! 後で写真撮ろうよー!」


(仮装してるから、王子だってバレてないんだ。こんなことなら、私も猫の仮装をすれば良かった……)


盛り上がる猫達を遠めに見つめて、私は肩を落とした。


「どうしよう、ひとりでパレードでも見ようかな……」


楽しいお祭りも、ひとりになった途端虚しくなる。


私が途方にくれていると、男の人の声が私を呼び止めた。


??「かーのじょ! ひとり?」


(……ナンパだ)


??「俺と一緒にトリックオアトリートしちゃわない?」


ぶっ!!(笑)


「ま、間に合ってます!」


手をバタバタと振りながら振り返る。

それとと同時に、楽しげな笑い声が聞こえてきた。


ロベルト王子「……くくっ。間に合ってますだって。○○ちゃんって、ほんとに可愛いね♪」


「……ロベルト王子」


やーん、ロブたんだー♪


ロベルト王子「今日は良く会うね、運命感じちゃうかも」


ねー!ほんとにねー!←こら


ロベルト王子「これはもう、ふたりでパレードを楽しむしかないよね」


悪魔の誘いだ……(笑)ロブたんの仮装は怪盗だけど(笑)ぷぷ


「でも……私は」


誘いを断るためにグレン王子を目で追った。

だけど、グレン王子は猫娘達に囲まれたままだった。


「えっと、じゃあ……グレン王子が戻るまでなら」


(ひとりでここにいるのは、ちょっと寂しいし……)


ロベルト王子「本当にいいの? グレンくんを猫の群れから、強引に連れ出した方がいいんじゃない? って……誘っておいて、こんなのこと言うのも変だよね」


「いいんです、そんなことしたら困らせるだけなんで」


ロベルト王子「もしかして、前に話してたこと気にしてる? バカップルっぽいのが好きじゃないって話」


「……それは」


ずぼしを当てられ、思わず言葉を失ってしまう。


ロベルト王子「グレたんはイチャイチャするの嫌いって言ってたけど、本当はすっごく好きだと思うよ。ためしてみたら?」


そうは言われても、実行に移すには相当の勇気が必要だった。


(拒絶されたら、やっぱり怖い……)


ロベルト王子「グレたんもだけど、○○ちゃんも……かなり奥手だよね。よし、こうなったら一肌脱ぐよ」


え、脱ぐ!?←違うから


「……ロベルト王子」


ロベルト王子「まぁ、原因は俺にもあるからさ」


ホントにね(笑)


「でも、何をするつもりなんですか?」


ロベルト王子「すぐ済むから、少しの間じっとしててね……」


ヒロイン&私(えっ?)(///∇//)


ロベルト王子は怪しげに笑って、私の肩を抱き寄せた。

そして、マントをひるがえして周囲を見渡した。


ロベルト王子「はーい、注目! ラブラブになれるマフィンの無料配布でーす! 俺と彼女みたいに相思相愛になりたいなら、是非食べてね♪」


星屑が弾けそうなウィンクを飛ばすロベルト王子。


くっ……かわいいな!(笑)


美声と甘い微笑みに誘われるように、道行く人達が私達に注目し始めた。


男性A「へぇ、面白そうだな」


女性E「もらってみようよ!」


ロベルト王子「よし、食いついてきた……。○○ちゃん、ほら、もっと俺に近付いて」


「やりすぎじゃないですか……?」


ロベルト王子「いいから、いいから」


いいから、いいから♪←


ロベルト王子「このぐらいの方が効き目が……」


ロベルト王子が耳元で囁いたその時、グレン王子が彼の肩をギュッとつかんだ。


グレン王子「誰と誰が相思相愛なんです?」


ロベルト王子「いやぁ、グレたんが猫同士仲良くやってたからさぁ。○○ちゃんのこと、もらっていいのかなと思って♪」


グレン王子「……別に仲良くなんてしてませんから。それと、俺が一緒にいたいのは……猫じゃなくて、この人だけなんで」


グレン王子はきっぱりと言い切って、私をロベルト王子から引き離した。


グレン王子「ほら、行くぞ」


そしてそのまま、広場から出て行ってしまった。



「待ってよ、グレンくん」


グレン王子「……」


衣装についている尻尾を、不機嫌そうに揺らして歩き続けるグレン王子。

私が何度呼びかけても、彼は振り返らなかった。


「グレンくんってば……」


(もう……どうしよう)


"イチャイチャするの、本当はすっごく好きだと思うよ。試してみたら?"

悩める私の背中を押すように、ロベルト王子の言葉が蘇る。


(よし、試してみよう)


お、レッツイチャイチャ?(笑)←by誓キス 佐伯孝正(笑)


A:後ろから抱きつく

B:尻尾を優しく握る


「怒ってないで、一緒に歩こうよ……」


私は、リズム良く揺れる尻尾をきゅっと握りしめた。


グレン王子「どこ握ってんの?」


「あっ……ごめん」


(……余計に怒らせちゃったかな)


私は指をほどいて、尻尾を離した。


グレン王子「別に謝ることじゃないんだろ……」


グレン王子はしきりに髪をかきあげ、唇を尖らせた。

そして、不機嫌そうなまま手を差し出した。


何この生き物、かわいい(笑)


グレン王子「んっ……」


「えっ?」


グレン王子「握るなら、こっち」


「手、握ってもいいの? 外だし……人も見てるよ」


グレン王子「……いいから」


背中を向けたまま、グレン王子は私の手を握ってくれた。

ツンとした口調とは裏腹に、彼の手は暖かくて柔らかかった。

そんな私達を見ている、怪しい人影がひとつ――。


ロベルト王子「見ーちゃった、見ーちゃった♪」


小学生か(笑)でも、そんなところも好き♪


グレン王子「……ロベルト王子! いつからいたんですか!?」


「全然……気付かなかった」


ロベルト王子「いつって、"待ってよ、グレンくん"の辺りかな?」


ヒロインちゃん&(結構、最初の方からだ……)


ロベルト王子「……それより。グレたんでも、カップルっぽいことしちゃうんだ?」


意地悪に笑いながら、ロベルト王子が私達の周囲をグルグルと練り歩く。


ロベルト王子「イチャイチャするの嫌いじゃなかったの?」


グレン王子「他の男にされるぐらいなら、自分がしますよ」


(……グレンくん)


ロベルト王子「あはっ♪ なら良かった。実はちょっと責任感じてたんだよね。俺のせいで、グレたんが意地っ張りになったらどうしようってさ」


悪びれる様子もなく、ロベルト王子はにっこり微笑んだ。

そんなロベルト王子を見て、グレン王子は顔を引きつらせた。


グレン王子「……自覚してるなら邪魔しないでくださいよ」


ロベルト王子「いや~、ついつい気になっちゃってさぁ。それと、邪魔っていうか……ある種の愛情表現?」


グレン王子「その愛情表現……次やったら怒りますよ」


ロベルト王子「は、はい」


グレン王子の静かな怒りが、ロベルト王子から笑顔を奪い去った。


あはははは(笑)


ロベルト王子「グレたん……昔はアラン王子のように可愛かったのに」


グレン王子「ロベルト王子? 怒られたいんですか?」


ロベルト王子「……そろそろ、アルタリアに帰ろっかな~」


ロベルト王子は額に汗をにじませ、その場から逃げ去ってしまった。


グレン王子「ったく、変な王子だな」


ホントにね(笑)


「本当にね……」


あ、ダブった(笑)


グレン王子「他人事みたいな顔してるけど、次……アンタの説教の番な」


「ええっ!? 私も?」


グレン王子「当たり前だろ? 俺をやきもきさせた罰は……しっかりと受けてもらうからな」


グレン王子は、私の手を引いて歩き出した。

その横顔はさっきと違ってどこか吹っ切れたように見えた。


(ようやく……いつものふたりに戻れたみたい)


グレン王子「さぁ、城に帰るぞ。ってか、アランはどこ行った? ……ったく、みんな自由すぎだろ。全員説教だな」


(笑)


「説教……」


城に戻ればお説教が待っている。

だけど、そんな時間も、今日だけは悪くないような気がした。

























完レポです。ネタばれ注意。

管理人の個人的な感想アリ。(ご了承ください)




STAGE2 バカップルはNG!?



翌日から、私は新たな衣装作りを開始した。

露出が少なく派手じゃない衣装。

私が選んだのは、無難でシンプルな魔女の衣装だった。


「衣装も出来上がったし……後は、仮装パレードで配るカボチャのマフィンをバスケットに入れたら準備完了かな」


仮装パレードの夜――。

私の部屋は焼きたてのマフィンの香りに包まれていた。


(アランくんや街の子達に配るマフィン……。それとは別に……グレンくんのために焼いた特別なマフィン)


いつもなら、グレン王子の喜ぶ顔が想像できた。

だけど、今回はなぜか……彼を困らせるのでは? という不安が過ぎった。


うう……めっちゃ気にしてんじゃん(ノ◇≦。)バカァ


(手作りのお菓子ってバカップルっぽい? ギリギリセーフ?)


「うーん……判断に迷う」


私はマフィンを眺めながら、答えの出ない問いに頭を悩ませた。

すると、ノックの音と共に、私を悩ませる主の声が飛び込んできた。


グレン王子「○○、ちょっといいか?」


(グレンくんだ……)


「はーい! ちょっと待ってね」


(マフィンは……翌日、様子を見ながら渡すかどうか決めよう)


私は急いで部屋を片付けて、グレン王子を部屋に招きいれた。


グレン王子「仕事でもしてたのか? ……忙しいなら後にするけど」


「ううん。明日の準備をしていただけだよ。それより、どうかしたの?」


グレン王子「ああ、えっと……。前にロベルト王子と話してたことなんだけど……」


そこまで話して、グレン王子は黙り込んだ。


(それって、バカップルの話のことかな?)


"少し言い過ぎた、あんまり気にするなよ"

そんな言葉が飛び出すかと期待したけど、沈黙は破られなかった。


(ちょっと探ってみようかな? よし、なんて切り出そう……)


A:バカップルはダメ

B:バカップルも悪くない


「バカップルっていいよね。平和そうで……」


グレン王子「それがアンタの本心?」


グレン王子は問いただすように、私に顔を近付けた。

その表情はあまりに真剣だったので、私は思わずひるんでしまった。


「で、でも……イチャイチャし過ぎたらダメだよね」


あぁぁ……


結局、私は聞きたいことも聞けないまま言葉を濁した。


グレン王子「だよな? 俺もそう思っててさ……」


「……気が合うね。はははっ」


グレン王子「お、おう。はははっ」


もーっヽ(`Д´)ノ何やってんのさ!?


私達の乾いた笑いが静かに重なった。


(ううっ……失敗した。もう一度、確かめてみよう)


そう考えたその時、グレン王子が机の上に置いておいた衣装ケースに触れた。

ペアの黒猫衣装が入っている衣装ケースに。


グレン王子「これ、仮装の衣装? 結局、アンタはどんな衣装にしたの?」


「ま、魔女だよ」


私は衣装ケースのふたを手で押さえ込んだ。


(バカップル問題が解決するまで……とてもじゃないけど見せられないよ)


グレン王子「なに慌ててんの?」


「まだ調整中なの! えっと、早く完成させなくちゃ……忙しい、忙しい」


グレン王子「さっきは準備だけって言ってたじゃん」


グレン王子がジト目で私を直視する。


(完全に疑われてる……)


「とにかく、準備をしないといけないの。えっと、おやすみなさ~い」


私は強引に腕を突き通して、グレン王子を廊下に追い出した。


グレン王子「ちょっと、待てって……。アンタ……嘘が下手すぎ」


「嘘なんてついてないから。あー、今日は徹夜コースかなー」


グレン王子「演技も下手すぎだろ……」


(し、失礼な……)


私は笑顔を引きつらせながら、ドアをパタンと閉じた。

そして、自分用の黒猫の衣装を、クローゼットの奥に仕舞い込んだ。



グレン王子「俺の用件、言えてねーし……」


部屋を追い出されたグレンは、呆然とした顔で廊下に立ち尽くしていた。


グレン王子「……ってか、普通、王子を追い出すか? すげー女だな。いや、問題はそこじゃないか」


グレン王子は頭を振って、天井を見上げた。


グレン王子「バカップルが嫌だって話……きちんとしたかったのに。俺の見栄っ張りも、たいがいだよな……」


そう思うなら早く誤解解いてやってo(;△;)o


誰もいない夜更けの廊下に、グレンのため息がこぼれ落ちた。

グレンは後悔を溜め込んだまま、○○の部屋に背を向けた。


なんというか……若さ故、ってかんじね(^_^;)←ハタチが何を言う



素直になれにふたりの夜は更け、ハロウィン当日となった。

仮装パレードに参加する、紳士淑女で埋め尽くされたノーブルミッシェル。

そこはまるで、ファンタジーの世界が溶け込んだように幻想的だった。


「グレンくんとアランくんはどこかな……」


魔女の衣装に身を包んだ私は、人で溢れかえるパーティー会場を見渡した。


(人が多すぎて……いきなりはぐれちゃった。えっと、みんなはどこにいったのかな?)


私は爪先立ちになって、グレン王子を探した。

すると、人込みの向こうで黒猫が女性達に囲まれているのが見えた。


貴婦人A「グレン様、トリックオアトリートですわよ」


グレン王子「そこ、どいてもらえませんか?ってか、俺……お菓子持ってないんですけど」


貴婦人A「だったら、イタズラでですわね」


貴婦人B「いやーん、黒猫王子様にいたずらしちゃいたーい」


グレン王子「はぁ……」


黒猫の仮装をしたグレン王子は、いつも以上に大人気だった。


(自分で作っておいてなんだけど、すごく……可愛い)


グレン王子「ったく、まいったな……」


周囲の反応とは裏腹に、少し不機嫌そうなグレン王子。

そんな彼を眺めていると、私の持つバスケットに誰かの手が伸びた。


(……ん? アランくん?)


私(……ん? ロベルト?)


ロベルト王子「これ、手作り? 俺もひとつもらってていい? 魔女子さん」


あ、やっぱりロブたんだっ♪


「……ロベルト王子」


ロベルト王子は、片目を閉じるとマフィンを手の平で転がした。


ロベルト王子「グレたんはいいなぁ~。こんな可愛い魔女っ子○○ちゃんに手作りのマフィンまでもらえるんだから。きっと、喜んでくれるんじゃない? グレたんも」


ロブたんのせいでそれどころじゃないけどね(笑)

まぁ、素直なれないグレンくんが悪いのだけど。


「そ、そうでしょうか?」


(だったら嬉しいなぁ)


ロベルト王子「はぁ……俺も好きな女の子とイチャイチャしたいなぁ」


きゃっ(/ω\)Σ\( ̄ー ̄;)


ロベルト王子は、くすぐるような視線を私に投げかけた。

その瞬間、あるキーワードが私の頭の中を駆け巡った。


"バカップルっぽいのが嫌い"


(危ない、危ない……油断してた)


「あの、ロベルト王子……。これは、街の子供達に配るお菓子ですよ。手作りお菓子をあげて……イチャイチャとかないですから」


ロベルト王子「そうなの?」


「……グレン王子は、バカップルっぽいのがあまり好きじゃないので」


私は自分に言い聞かせるように、きっぱりと言い切った。

なぜなら、浮かれそうになっている私を、グレン王子が遠くから見つめていたから。


グレン王子「……」


(これでいいんだよね?グレンくん……)


私は心の中で彼に問いかけた。

だけど当然、返ってくるはずも無かった。


グレン王子「○○のやつ……この前言ったこと、すげー気にしてるし……」


グレンは確かにバカップルっぽいのが苦手だった。

だけど、このままだと○○と、触れ合うこともままならなくなる。

そんな焦りが徐々に芽生えつつあった。


グレン王子「ああ……なんて言えばいいんだよ」


素直になればいいのよ。


グレンは無造作に髪をかきあげ、がっくりとうなだれた。










完レポです。ネタばれ注意。

管理人の個人的な感想アリ。(ご了承ください)




STEGE1 ヒミツの衣装



夜のしじまに微かに響く虫鳴き声。

すっかり秋めいた空気に包まれながら、私は純白の生地に針を走らせていた。


「アランくんのリクエストはお化けの仮装で……、ユウお兄ちゃんはヴァンパイアの衣装か……」


え、ユウ兄ちゃんヴァンパイア?(笑)キース王子とお揃いじゃない?(笑)


ノーブルミッシェルで行われる仮装パレード。

その際に着る衣装製作が、今回私に与えられた仕事。

私はアトリエにこもって、生地と格闘する毎日を送っていた。


(アランくん達は、着たい衣装が決まってるから楽だけど……)


「問題なのが……グレンくん」


(私に任せる。って言ってたけど、本当にリクエストは無いのかな? 仮装パレードを少しでも楽しんでもらいたいから……もう一度確認してみよう)


私はミシンを操る手を休め、グレン王子の部屋へと急いだ。



「グレンくん、ちょっといいかな?」


グレン王子「ちょ……待った」


きゃー(立ち絵が)半裸!←


ノックしてドアを開けるとそこにはあられもない格好をしたグレン王子がいた。

湯上り直後の彼は、慌てふためいた様子で体をバスローブで隠した。


「ご、ごめん!」


急いで背を向けると、照れ気味の声がか細く響いた。


グレン王子「いや……鍵閉め忘れてた俺が悪い。アンタは謝らなくていい。ほら、服着たし……もう平気」


「本当にごめんね」


グレン王子「もういいって。それより……」


グレン王子は唇に人差し指を立てて、ベッドを見やった。

ベッドの上では、アランくんが愛らしい寝息を立てていた。


アラン「スゥ……」


グレン王子「風呂に入れて寝かしつけたとこだから、静かにな」


(アランくんとお風呂に入ってたのか……)


グレン王子「で、何の用?」


「……そうだ。仮装パレードのことなんだけど」


私は声を潜めて話を切り出した。

「着たい衣装のリクエストって無いのかな?アランくんはね、お化けの衣装がいいんだって」


グレン王子「仮装の衣装か……」


グレン王子は、あごに手をおいて考えむような仕草を取った。

だけど衣装に関してはあまり興味が無さそうに見えた。



グレン王子「俺はなんでもいい。派手じゃないなら」


(やっぱり予想通りだった……)


グレン王子「あんたに任せるから、好きなようにやってよ」


「……うん」


グレン王子「それより、当日はあんたも参加しろよな。……アランが一緒に仮装したいって言ってたしさ」


ヒロイン&私「アランくんが?」( ̄▽+ ̄)ニヤリ


グレン王子「ああ……アランくんが。じゃなくて、アランが……」(照)


少し歯切れの悪い口調で話すグレン王子。

なぜか彼の視線は、落ち着きが内容にさ迷っていた。


グレン王子「とにかく、来いよな」


(もしかして、私を仮装パレードに誘ってくれているのかな?……だったら嬉しいな)


「じゃあ、私も仮装して参加するね」


グレン王子「……ああ。ただし、ひとつだけ注意点がある」


「注意点?」


グレン王子「派手な衣装は着るなよ」


「派手な衣装か……。例えばどんなの?」


グレン王子「それは、スカートが短かったり、背中出てたりとかだろ。とにかく、肌の露出の少ないヤツってこと。仮装パレードには、他国の王子も参加するから……。……あんま目立つ格好すんな」


グレン王子は早口で話してプイッと顔をそむけた。


可愛いっ(笑)


露出の多い服を着た私を、自分以外の誰かに見せたくない。

そんな彼のわがままが可愛くて、私も思わず笑みをこぼした。


(グレンくんって、素直じゃないなぁ。でも、そんなところも好きだったりするんだけど……)


グレン王子「何を笑ってんだよ」


「な、なんでもないです」


(それより、仮装の衣装がますます難しくなってきたかも)


意見を求めに来たのに、ゴールから遠ざかったような気がした。


(派手じゃない衣装か。そうだ! 動物の気ぐるみ風の衣装はどうかな? 

例えばグレンくんには……)



A:猫が似合いそう

B:犬が似合いそう


猫だよね☆予告でも見たし。




(グレンくんって、簡単に人に懐かないところが猫っぽいよね……。うん! 仮装の衣装は猫の着ぐるみで決定だな!)


私は、黒猫の仮装をしたグレン王子を思い浮かべた。


グレン王子「にやけた顔して……どうしたんだよ?」


「えっ?」


気がつけばすぐ目の前に、グレン王子の大きな瞳があった。


足音を立てず近づく彼。それはまさに猫といった感じだった。


「グ、グレンくん……近いよ」


(やっぱり猫で正解だ……。それで、私とお揃いの衣装にしよう。着ぐるみ風の衣装なら、露出も少ないか

らね)


グレン王子「また、笑った。衣装のことで何か閃いたのかよ?」


「えっ? それは……まだ内緒」


完成したお揃いの衣装を見せて彼を驚かせたい。

そんな想いが、私に小さなイタズラ心を芽生えさせた。


グレン王子「俺に隠し事なんて、いい度胸じゃん」



だけどそれは、彼の小悪魔スイッチを刺激してしまったようだ。


グレン王子「教えてよ、包み隠さず……」


言ってること普通なのになんかやーらしー( ̄▽ ̄)笑


「当日までのお楽しみのほうが良くない?」


グレン王子「俺が頼んでるのに、拒むんだ」


グレン王子の瞳が怪しく煌く。

私が後ずさると、その分彼が距離を詰める。

気付けば私は壁際に追い詰められていた。


(猫に襲われるネズミの気分ってこんな感じなのかな……)


グレン王子「これでも、答えないって言うの?」


私を壁に押し付けて、グレン王子が首筋に歯を立てる。


ひゃあああ(///Д//)


それと同時に、彼のしなやかな指が私の体をなぞり始めた。


きゃあああ(///Д//)


「グ、グレンくん……」


吐息の交じりの声が漏れてしまう。

それに反応するように、アランくんが寝言をこぼした。


アラン「姫も一緒に……お風呂に入るぞ」


(アランくんが起きちゃう……)


子供はおねんねしときな( ̄▽+ ̄)笑


「……ダメだよ。これ以上は」


グレン王子「何がダメなの? その口で……ちゃんと答えてよ。じゃないと、もっとダメなことするけど?」


きゃー鬼畜!(/////)


グレンくんの艶やかな唇が鎖骨や耳に触れて、体が痺れたように震える。


「グレンくん……イジワルしないで。……衣装のこと話すから」


グレン王子「大きい声……出すなよ。アランが起きる。それと、衣装のことは教えなくていいや。後は、○○の体に聞くから」


そう言って、グレン王子は私の唇を少し乱暴なキスでふさいだ。

私の中に滑り込む情熱的なキス。

体の奥を熱くする甘痒い刺激。

私は声を殺して、彼の服をぎゅっとつかんだ。


ぬわぁぁ……色気がががが(/////)もうダメ死ぬ……



そんな甘い夜から数日後――。


アラン「なぁ、姫。衣装はまだなのか?」


「もう出来たよ。はい、どうぞ」


私は完成したばかりの衣装を、アランくんにフワリとかぶせた。

アランくんはジタバタと手を動かして、衣装に袖を通した。


アラン「やったー! お化けだ! 似合うか? 姫」


「うん、とっても似合ってるよ」


アラン「よーし、グレン兄ちゃんにも見せてやろっと!」


アランくんは勇ましくポーズを決めると、勢いよく部屋から飛び出した。


「ちゃんと前を見ないと危ないよ、アランくん」


弾むように走るアラン君の背中に声をかける。

すると、すらりとした人影がアラン君を抱きとめた。


ロベルト王子「おっと、お化けかと思ったら……。アラン王子か♪」


「……ロベルト王子、来られていたんですか」


ロベルト王子「やっほー○○ちゃん。ちょっと仕事でね」


ロベルト王子は片目を閉じて、手をヒラヒラと振った。

そんなロベルト王子の服をアランくんが軽く引っ張る。


アラン「なぁ、似合ってるか? この衣装」


ロベルト王子「あっ、仮装パレードの衣装か。もちろん、すっごくカッコいいよ」


ロベルト王子は、アランくんの頭を撫でながら柔らかく微笑んだ。

それから、私に向き直った。


ロベルト王子「相変わらず、○○ちゃんのセンスは秀逸だね」


「そんな、まだまだ……未熟ですよ」


ロベルト王子「謙遜する必要は無いよ。俺の仮想用の衣装も作って欲しいぐらいだから♪そうだ。いっその

こと……俺とグレたんをふたまたしちゃう?」


なんとっ(゜□゜)


「ふたまた!?」


声を上ずらせる私を見て、ロベルト王子がクスクスと笑い出す。

次の瞬間、不機嫌そうな靴音が廊下に鳴り響いた。


グレン王子「急に居なくなったかと思ったら、油断も隙もない。人の城で堂々とナンパしないでください」


ロベルト王子「おっと、バレちゃったか」


ロベルト王子は残念そう肩をすくめて、私から距離を取った。

そんなふたりのやり取りを気にせず、アランくんがグレン王子に衣装を見せる。


アラン「グレン兄ちゃん、見てくれよ!カッコいいだろ?」


グレン王子「……ああグレン。良かったな」


ロベルト王子「ちなみに、グレンくんの衣装はどんな感じなの?」


グレン王子「俺のですか?」


アラン「俺も気になるぞ、姫」


「えっと、それは……」


(当日まで内緒にしておこうと思ったけど、しょうがないか)


「……黒猫の着ぐるみ風衣装です」


(お揃いだってことは、まだ秘密にしておこう……)


ロベルト王子「黒猫ね。どうしてそれにしたの?」

グレン王子「確かに、気になるな」


(うっ……みんなに見られていると答えづらい)


「グレン王子っぽいかなと思いまして……」


私は全員の視線を浴びながら、ぽつりと答えた。

そんな私を見て、ロベルト王子がニヤリと笑った。


ロベルト王子「なるほどね~。○○ちゃんの前では、ニャンニャン甘えてるってことか」


ヒロインちゃん&私(ニャンニャン!?)wwww


グレン王子「俺は別に、甘えてませんから……」(照)



ロベルト王子「そうなの?デートの時とか、手を繋いだり食べさせっことかしないの? あと……一緒に服を選んだり、人目も気にせずキスしたり」


(ロベルト王子は彼女とそんな風に過ごすタイプなんだ……)


グレン王子「……しませんし、するつもりもありません」


売り言葉に買い言葉といった感じで、グレン王子はキッパリと言い切った。


ヒロインちゃん(えっ!?)(´・△・`)


グレン王子「オリエンスとアルタリアでは、男女の交際の仕方が違いますから……。そもそも……俺は、場

カップルっぽいものが嫌いなんです」



(そうなんだ……知らなかった)


ロベルト王子「グレンくんって、若さが足りないよね若さが。ジョシュアくんも、ウィルりんも……妙に堅いん

だよね」


もっと言ってやってヽ(`Д´)ノ


ロベルト王子「そうだ! 今度、王子達を集めて恋愛合宿でもしない?」


何ソレ楽しそう!(笑)

あたしも混ぜて(笑)


グレン王子「お断りします……。俺には俺のやり方がありますんで」


ちぇー(。・ε・。)


クールな表情で恋愛感を淡々と語るグレン王子。

話を聞いているうちに、私はある問題に気付いた。


(お揃いの衣装にしようと思ってたけど、それって一番アウトなんじゃ……)


確かにね(;^_^A


(……急いで作り直さなくちゃ)


"バカップルっぽいのが嫌い"

彼の言葉がやけに気になって、頭から離れなかった。



STAGE2に続く…