そして食卓を見て、ビックリする。
目の前にあるのは、カレイの煮付けにひじきの煮物、
温野菜のサラダに、冷奴に味噌汁。
「わぁ……! これ……全部、和人さんが!?」
驚いて見上げると、自家製の梅干の入った小鉢を差し出された。
和人「これも美味いから、食ってみろ」
(すごい……梅干まで。栄養のバランスがちゃんと考えられてる)
「はい! じゃあ、遠慮なくいただきます」
私はお箸を手に取ると……。
選択でーす。
A:カレイの煮つけを食べる
B:お茶を飲む
C:梅干を試す
まずは小鉢の梅干を食べてみた。
「わっ、酸っぱい……」
思わずキュッと目をつむる。
けれどこの感覚が懐かしくて、日本に帰ってきたのだと実感する。
和人「かなりくるだろ?」
「はい。でも、ちょうどいい好みの酸っぱさです。自家製でこの味ってすごいな」
私は感心しながら、色鮮やかな梅干を箸で掲げた。
和人「ほら、もっと食えよ」
「はい!」
次々、他のものも試してみる。
どれも驚くほど、美味しかった。
(……久しぶりの日本食。なんか、お母さんの味を思い出す……)
箸も休めずにどんどん食べていると、和人さんがそれを見て目を細める。
料理できる男の人ってホントいいよね:*:・( ̄∀ ̄)・:*:
この自分が好きでやってるってかんじがまたたまらんです。
和人「俺の飯は美味いだろ?」
「はい……! すごく美味しいです」
(……って、自分で言っちゃってるのに、和人さんが言うと全然、嫌味じゃないんだな)
そんなことを感じながら、いつの間にか、リラックスしている自分がいた。
もしかしたらこの家にきて、初めてホッとできた時間かもしれない……。
熱いお茶を飲みながら、そう、心から思ったのだった。
その夜―。
私は何度もベッドで寝返りを打っていた。
(……眠れない)
慣れない新生活に新しい部署、あまりにもめまぐるしく変わる環境に、
身体がなかなかついていかないのかもしれない。
「あぁ、もう……」
私はムクッと起き上がると、ベッドを下りた。
(……冷たい水でも飲もうかな)
ヒタヒタと深夜の廊下を歩く。
すると廊下に面した中庭に、人影が見えたような気がして足を止めた。
(こんな真夜中に……誰かいるのかな?)
目を凝らすと、庭の真ん中辺りに設置されているライトが点いているのがわかる。
そこに巻き毛がちらっと覗く。
私は何となくそちらに向かい、中庭へ出るガラス窓を開けた。
木々の間を抜けて灯りの下に出てみると、巻き毛の正体は文太さんだった。
(……こんなところで、何やってるんだろう)
文太さんは四角い紙を並べては、目を細めて手に取っている。
私は思わず、声をかけていた。
「こんな夜中に、なに……見てるんですか?」
文太さんはスッと顔を上げると、私を見て少しだけ目を見開き、
また視線をその紙に戻した。
「写真……?」
近づくと、テーブルの上にたくさんの写真バラバラに置かれているのがわかる。
そのどの写真にも、綺麗なモデルが写っていた。
「わ……キレイ。見てもいいですか?」
文太「別にいいけど」
私は一枚一枚手に取ると、こちらに視線を向けてポーズを取るモデルの写真を眺めた。
「この表情、ステキ……あ、こっちのはモノクロでとってもお洒落……」
モードっぽい雰囲気で、ファッション雑誌か何かのポートレイトなのだと思った。
「これってプロのモデルさんですよね? たまに雑誌で見かけることあります」
文太「あぁ……その写真は先月のヤツ
確か新しい雑誌の創刊号だったと思う」
「えっ! っていうことは、文太さんはプロのカメラマン!? ……すごい」
私が驚いて文太さんを見ると、彼は気にする風もなく写真の整理を続けていた。
そしてフッと顔を上げ、こちらをジッと見る。
文太「写真がそんなに珍しい?」
「いえ……でも、どれもすごくいい写真なので……」
文太「……」
一瞬の間が開くと、文太さんは話を変えるように言った。
文太「もしかして、眠れないの?」
「え?」
文太「こんな夜中にって最初に聞いたけど……そっちだって夜中にウロウロしてる」
「あ、はい……実はそうなんです」
私は正直にそう答えた。
すると文太さんは写真をバッグに入れて、完全にしまい終わると私に向き直る。
文太「じゃあさ、そこのハンモックに乗ってみなよ」
「え……ハンモックがあるんですか?」
文太「うん、こっちに」
そう言って、大きな木立がある方に誘導された。
「わ、本当にあった!」
文太「ここに横になれば3秒で眠れるから」
「3秒って……ハンモックなんて、私、乗ったこと……」
文太「押さえててあげるから」
そう言ってくれるので、私はハンモックに乗ってみることにした。
ハンモックは思っていたよりも、意外に乗り心地が良かった。
文太「星、すごいでしょ」
「はい……! この中庭、建物の中にあって吹き抜けになってるから
星空だけ切り取ったみたいでなんだかポストカードみたい」
文太さんはゆらゆらとハンモックを揺らしてくれる。
その心地よい揺れの中で見る、夜空に輝く無数の星。
(……そういえば、しばらく星なんて見てなかったなぁ)
ついこの間まではNYにいて、時々、夜空を見上げては日本のことを思い浮かべていた。
けれど今は、その日本に帰ってきている。
ゆらゆらと揺れるハンモック……。
(……なんか、すごく心地いい)
キラキラ、ゆらゆら、キラキラ、ゆらゆら……。
煌く星空がいつしかぼんやりと視界から消え、私は知らないうちに深い眠りへと落ちていった。
ふと目を覚ますと、目の前には見たこともない天井。
(ん……星空がない。確かハンモックに乗ってたんだけど……)
と、その時、温かいなにかに抱きしめられた。
(ん……?)
半分寝ぼけた頭で、私もそのなにかを抱きしめ返す。
すると視界が鮮明になった先には、柔らかな巻き毛が目に入る。
(巻き毛……と、この抱き心地……)
思わず、パッと目を開けた。
抱きしめていた相手は、文太さんだった。
(うわっ)
ビックリして起き上がる。
(はっ……ここって、どこ!?)
「え……布団」
よく見るとベッドに寝かされていたようで、きちんとお布団がかけられていた。
(……私、本当に寝ちゃったんだ。3秒で……ってことは、この部屋は文太の部屋……?)
辺りを見回すと、近くのローソファーのブランケットが剥がれ、
どうやら文太さんはそこで寝ていたようだった。
「あっ、私……!」
焦って自分の身体を見下ろすと、ちゃんと服は着ている。
思わず安堵の息を吐くと、私は目の前に眠っている文太さんを見つめた。
(……寝ぼけていつものベッドまで入ってきちゃったってことか)
文太さんはまったく起きる気配はなく、気持ちよさそうに寝息をたてている。
(……どうしよう)
選択です!
A:起こす
B:黙って出て行く
C:もう一度布団に入る
"黙って"っていうのがちょっと引っかかるけどCでいこっかな(笑)
(……よく寝てるみたいだし……起こさないでそっと出て行こう)
そう思って私はそっと、かけられていたお布団をはがした。
音を立てないように、ゆっくりと動く。
文太さんは身動きもせずに、よく眠っている。
(こうして見てみると……無邪気な寝顔というか……
起きてるときのそっけない感じとは全然、違うんだな)
ついその寝顔に、魅入られるように見つめてしまった。
(……とにかく部屋に戻ろう……
このことを知られたら、誤解されかねない)
そっとベッドから下りると、足をつけた途端、ヒヤッと床の冷たさを感じた。
「え……靴下」
素足の自分の足を見下ろす。
よく見ると、床に丁寧に畳まれたわたしの靴下が、ちょこんと隅に置かれてあった。
(靴下だけ、脱がされた……)
細やかな気遣い( ´艸`)笑
「……」
私はその靴下を拾うと、音を立てないようにドアへ向かった。
もう一度、振り向いて文太さんの方を見る。
(なんか文太さんって……不思議な人かも……)
私はそう思いながら、そっと部屋を出た。
文太さんの部屋を出て、静かにドアを閉める。
(……ふう。さて、誰にも見つからないように、自分の部屋へと……)
靴下を手に持ちながら、抜き足差し足の体勢で向きを変える。
と、目の前に……。
??「……」
「……」
たびたび出会っている、金髪の人が立っていた。
(しまった……見つかった。っていうか、この人、今、帰ってきたの?)
目の前の金髪の人は、首を傾げ……。
??「文太さんの彼女?」
(えっ)
??「……そっか」
ひとりで納得をすると、行ってしまった。
何この人ー(笑)
好き!(笑)←
そのまま、同じ体勢で止まっている私。
(ち、違うんだって……誤解だから……!
あっ、でも同じお布団で寝て抱きしめられちゃったし……)
そう思うと、引っ越してきて間もないのに、なんてことをしてしまったのかと思う。
「いや、やっぱ違……う」
弁解しようとしたときには、もう、金髪の人の姿は見えなくなっていたのだった……。
To be Continued
From:宝来和人
Title:『飯の心配は要らない』
コンビに弁当は身体によくないぞ。
飯は俺が準備するから遠慮するなよ。
(音もパワフルですてき!)