お腹が大きいわけじゃないし  ツワリ  があるわけでもない



タバコも吸えるし  妊娠した実感は  正直言って  無かった



ただただ  妊娠したには間違いなく  それを知って


たつやが出て行った事が  辛かった



腹がたってしかたなかった  発狂したい気分だったけど



気力がついていかない





電話にも出ないので  母親がさすがに 家に押しかけてきた



電話ぐらい出んかい





男は?



知らん




おろしに行け

待っても無駄 腹でかなったらどないも出来んぞ




・・・


あたしはな あんたを妊娠したときまだ17やった

好きでもない男の 子やったけど

女やからな  産もうとは 思ったよ 本能や

産むときは病院で一人きり  誰が見舞いに来るわけでもない

あんたはなかなか出てこんし

何十時間も冷たいベットに寝かされて

やっと産んだけど  育て方なんて知らんし

うまいこと育てる事さえ出来んかったは あんたには悪いけど

あたしだって好き好んであんたを殴ってた訳じゃない




初めてそんな話を聞いた


別に謝られたわけでもないが   少し  気が楽になった


初めて母親があたしに  自分の事を話してくれた


そんな事は一生ないのが当然と思っていたしあたしたち親子は


それが普通  の関係だと思っていたから



でも不思議なぐらい  ホッとした



ホッとしたら   気が張っていたのが途切れて


過呼吸になった   苦しい


窓を開けて落ち着いて深呼吸をする



すると母親が  背中をさすってくれた 




初めての事だった  優しくされている  という事が





だからって   テレビドラマみたいに




お母さん!!  なんて事にはならないけど



辞めてくれ  とは言わず  素直に  背中をさすって貰った




黙って




少し落ち着いた




翌日動き出した



たつやが良くたまっていた  一人のツレの家に


まゆみと一緒に乗り込んだ



おるやろ?



知らんわ



見たいな感じで




実際居なかったとは思うが



あること無い事言って たつやをおびき寄せるようにした




ヤクザが探してる とか  父親が切れてこっちへやってくる とか





案の定   その日の夜  



ムカつきすぎてベランダから


たつやの荷物を放り投げていると



たつやが歩いてくるのが見えた




一瞬上を見たけどすぐ顔をそらして  マンションへ入って来る




ドアを開けると疲れきったたつやが立って居た





優しくなんて出来るはずも無く  感情を抑える事はできず


掴みかかって  ギャーギャー言った  



たつやは何も言わない




どこにいたのか  誰といたのか  なぜ電話にでなかったのか



なんで逃げたのか  本当に自分の子じゃないと思っているのか



あたしの事好きじゃないの 騙したの 




聞きたい事を全部  聞くが  たつやが言ったのは



一言だけだった




悪い   おろしてくれ




返す言葉も無い   ただその後は  怒りをぶつけるだけ




汚い言葉でののしるぐらいしかない





たつやは 出て行った  最後だった




気が狂いそうだった  この世で一人ぼっちになった気分


外に出ても  もう誰も居ないんじゃないか



あたしだけ取り残された気分になった




意地で産もうとも  もう考えられなくなっていた



女としての  本能  みたいなものも



たつやのあの態度を見ると   無くなった




早く  終わらせたい  何もかも



忘れたい




産婦人科に電話して  手術の費用を聞いた


手術は  すでに  普通の手術ではなく



出産するのと同じ感じで  行われるらしい 



それを聞いても   もう  何も思わない  




母親にも  まゆみのも  誰にも連絡せず



2日後  病院へ  行った






終わった



4ヶ月  お腹出てくるよ・・・


けどその頃あたしは  摂食障害になっていて



ほとんど食べ物を口にしていなかった



1日に  スポーツドリンクを半分しか飲まないとか



パンを一口しか食べないとか  ざらだった



食べたくないとか食べないというより  忘れていた


マリファナを吸えば  お腹が空く  おいしく感じる  とか言うけど


そんな事も別に無い


関係なく   ほとんど食べない




やせ細ってしまい  とまでは言わないが  お腹なんて  ペチャンコ




でも そういえば  酒を飲むと  少しでも気持ち悪くなってはいたり



ふらついたりしてたのは確かだ  仕事も辞めたし


酒が弱くなった  とぐらいにしか思ってなかった





4ヶ月   もう普通の手術は  できないらしい



入院も必要だし  お金だってだいぶかかる



母親はそれでも   



産んでどないすんねや  あほ



産むとは言ってない  でもあんただって何の保障も無く

あんな男の子を産んだやろ




だから産むなって



・・・  納得した感じがした







とにかくたつやを探そう  探して話がしたい



パニクッて逃げただけ  帰ってくる  そう信じた



母親は  まーあんたの自由やけど  と言い残し



帰っていった



夜になっても  たつやは帰っては来ない  電話にも出ない



まゆみが家に来てくれた   




あたしは少し落ち着いていた



たつや帰ってくるやろ・・・




分からん



子供どーすんの?



ありきたりの会話




病院で貰った  エコー写真を見る



何にも感情は沸かない  でも   おろす



と直ぐに決めれるものでもない





とにかくたつやを探そう  ツレヤ周りに連絡をするが


誰も  知らない  連絡も取ってないと言う


言わされているだけか  本当なのかは分からないけど



ムカついて  関係ないのに  ツレたちに当り散らした



みんなあたしの性格は分かっているので  黙って電話を切られる





もー電話には出てくれない



結局その日 たつやは帰っては来なかった




2日経っていた  あたしはどうする事もできず


何もする気力も無くて  3日間何も食べずに家で  ぼーっとしていた



過呼吸に久しぶりになった   ふいに  ベランダの窓を開けて


外を眺める  外を眺めながら  おもいっきり深呼吸をする



何度か深呼吸をしたら  少し楽になった  でも



飛び降りたくなった   手すりを越えて  後ろでに手すりを持って



体を浮かせてみる    下で車のクラクションが鳴った



我に返って   部屋に飛び込んだ




眠れないし  食べれない  完全に頭が機能しなくなっていて



誰とも話したくない  電話が鳴っても  出られない




誰かがチャイムを鳴らすけど  ドアも開けられない





4日が経っていた








たつやとはお葬式が終わって数日して  やっと話す気になって電話した


なんとなく 会いたい気分にはならなくて会おうとは言わなかったし


たつやも  気を使ってか言わない



でも  急に  寂しくなった  あたしがって言うより


たつやの寂しさが  自分に乗り移った気分になって



すぐに会うことにした    車ですぐに迎えに来てくれた



元気があるふりを  完全にしている  変に明るい



けど  あたしに  ごめん と 言った




謝る気持ちは  考えると   さすがに  切なかった




久しぶりに会った感じがする  すぐに  ホテルに行って



父親の話はせず   いつものように過ごした





一緒に住めへんか  たつやが言う




あたしが一人暮らししてることは  知ってるし


そういう  事だと思う  



あたしもそうしたい気持ちはあったし

その日のうちに  えいじに連絡をして




明日から  お母さんが  家に少しの間来る事になったから



嘘をついて



たつやを初めて  家に入れた



えいじは 怪しんだと思うけど  何も言わず  分かった店には行くからと電話を切った




えいじとは4ヶ月  たつやとはそれでもまだ付き合ってから2ヶ月




いろいろな事がありすぎて 逆に  その時は完全に たつやにどっぷりはまっていた




えいじの事を考えなくなり  たつやとの  生活が始める





博打も辞めていたし  えいじとは何とか言い逃れながら店以外では



会わないようになった





携帯代と  家賃は振り込まれ続ける



悪いなんて気は無くて   すでに当たり前になっていたし




気持ちが無い分  どうでも良かった




たつやには  えいじの事は言っていない  



ばれる事も無く   1ヶ月




でも やっぱりたつやとの関係は   あたしの病的な執着心と



不安感のせいで  毎日が喧嘩   



暴力も振るわれる様になったしあたしだって  やり返さないわけは無い




えいじとは   突然に関係が終わる



たつやに手帳を見られた事で   関係がバレタ



たつやは少しグズグズ言った後


金を取ろう  と言い出した  嫁がいるから簡単やと




二人で計画を練って




えいじに  妊娠したと  嘘をついて




手術代と慰謝料として  50万円貰った



信じていたか  信じていなかったかは  分からない



けど  昼間に  家まで  封筒に入った金を持ってきた



ドアを少しだけ開けて   直ぐに閉めた



えいじと会ったのはそれが最後だ





その金で また博打をしたり 二人で  マリファナを 吸う



仕事も  嘘をついて辞めた



たつやも仕事を辞めて   朝から晩まで落ちた生活を続ける





さすがにえいじも家賃を払ってくれるほど人が良く無かったけど


携帯代は支払われているようだ


たつやは 仕事だと嘘をついて  パチンコに行くようになって



就職したとか 給料貰ってきたとか言って



明らかに  たつやの汚い字で書いた   偽者の給料明細とパチンコで勝った金を



持って帰ってきたり



そのたびに  殴り合いになって  パチンコ屋に乗り込んだことだってあった






たつやは酷く暴力を振るうようになる   あたしが泣きもしないし



痛いとも言わないから  余計にやられる



後頭部を  壁に思い切り  ぶつけられて   ある明け方


気分が悪くなって  さすがに焦ったたつやに 病院へ連れて行かれた





レントゲンを撮りますが  妊娠の可能性はないですか?


というような  質問をされて   ふと思った



生理はもう何ヶ月も来ていない





でもずっと   不順で  そんくらい来ない事はざらだったし  気にもしてなかった



でも急に  不安になって   レントゲンは辞めときますと言って



病院を出た  薬局が開いてから  検査薬を買いにいく




家に帰って  すぐにトイレで   検査薬をやった





おしっこをかけている途中で




はっきり  陽性の線






罰が当たった



一瞬で思ったこと




うれしいとか  どうしようとかじゃなくて




罰が当たった  と  思った




たつやに報告すると   驚くべき言葉が返ってくる




無理やろ  俺らまだ  そんなん無理



それに  俺の子か  分からんし




喧嘩の後だったし   その延長もあったのだろうと思う




たつやはそのまま  出て行ってしまい


一人の残されたあたしは  いらだっていらだちすぎて



 途方に暮れた




産むの?あたしが  子供を?  あたしが?




生めないよ    あたし一人で  十分



自分の血を受け継いだ子供なんて  要らない





誰に話せばいいのか  分からん



友達?親?誰に?




いちよう  仲の良かった  まゆみに  電話をした  朝早すぎて出てはくれない




高校の入学式の前の日 その為に地元から来ていた母親と初めて二人で  過ごした事があった




母親が近くに居る事が我慢できないぐらい  イライラする夜だったが



その頃から  母親という感覚ではなく



女として  少しづつでは あったが   話をするようになっていた




親と娘の関係ではなく  小さい頃の事は閉じ込めて




女同士として 少し話すようになっていた




昼ごろになってもたつやは帰ってこないし  電話にも出ない



とっさに  母親に電話をかけていた




妊娠した



え  あの嫁持ちの男の 子か?



違う  また別の 奴  4つ上の



あほちゃうか  あの男に生活させてもらっとったら良かったのに




男は?




どっか行った



あほかしょーもない男




自分で考えれ




電話を切られた



頼ったのが間違いだ  ババアに





でも  夕方に母親がいきなり家に来た




男は?  でんわせー  



出ん



あかん  探せ




とにかく 病院行くで




そのまま母親に連れられ産婦人科へ行った



診察室につくなり



先生  おろして下さい  すぐにでも



そう母親が言った



待ってよ



なんでじゃ  産むんか?




・・・・・  言葉が出ない



でもたつやが帰ってきて  何か言ってくれるのを待ちたい



すると先生が



お母さん  手術するには 父親の承諾もいりますから

話し合いをしてもう一度  来てください


でももう  あたしのお腹の中のあかちゃんは  4ヶ月目に入っていた