The Prince of Broadwayについて、思うところをつらつらと。
まだ観てない方をはじめ、見たくない方はみないでください。ビジネスサイドから記事を書きます。


























今回の日本公演は、いわゆるTryoutと呼ばれる試演です。ブロードウェイを目指す舞台は、通常、
Workshop(投資家向けの最初のお披露目)→Tryout(地方での試演)→Broadway Preview→Broadway Opening Night→Long Runningとなります。そのTryoutが、今回特別に日本に来たということだったんです。(普通は、トロント、サンフランシスコ、ボストン、ヒューストンなど、演劇が盛んなアメリカ近郊の地方都市で行います。)

なぜ日本に来たかというと、それには長いストーリーがあります。所々間違ってるかもしれないですが、
①27年前からこの公演の準備を始めていた製作陣(特に演出のハロルドプリンス)は、本当は2012年にブロードウェイに持っていきたかった。
②でも、投資家が集まらず、延期になっていた。
③株式会社梅田芸術劇場(というよりは、完全親会社の阪急阪神ホールディングス)が出資していて、ハロルドに直接日本公演の話を持ちかけた。
④2013年秋、2015年の日本公演と2016年春のブロードウェイ公演が決定。
というわけなのです。

ここで肝になるのが、「投資家が集まらず延期になっていた」ということ。
ブロードウェイの興行演劇では、投資家を募る形でショーを作っていきます。作品そのものが、スタートアップのベンチャー企業みたいな感じと言えば分かりやすいかもしれません。製作費の相場は、近年だと$10 million~$20 million。10~20億円にも上るのです。因みにThe Prince of Broadwayは$13 millionだったそうです。これを、投資家から募ります。
(一昔前は数億円の世界だったため、個人投資家でも大丈夫でしたが、今は、企業がメインの投資家になっているみたいです。)
それでもブロードウェイの個人投資家は重要な存在。ハロルドプリンスという、ブロードウェイの大巨匠の舞台とだけあって、コネが強く効くブロードウェイの投資家も出資するのかと思いきや…しないのです。彼らの言葉をNY Timesなどから引用すると、
「彼の作品の最近の動向を見る限り、チケットが売れるとは思えない、ましてや利益が出るとは到底思えない」
「若者はハロルドの作品をあまり知らないから受けないのでは」
これが、いわゆる投資家受けが悪い、ということなのです。


私は、ここまでビジネスサイドを勉強した上で実際に舞台を観に行きました。今回の観劇の目的は、超一流の俳優陣を見に行くということと、このビジネスサイドを考察しに行くというこの2つだったのです。

そして、見て、理解しました。確かにこれは出資したくないかも、と。
ハロルドが伝えたいと思われる「自分のキャリアでいかに運が作用したか、運がいかに大切か」というメッセージが、そもそも伝わってこなかった。何をこのショーで伝えたいのかがよく分からないのです。

舞台の構成は、ハロルドによる語り(ショーのプロデュースの舞台裏など)が入りながら、オムニバス形式で、いくつものショーのハイライト(演技・歌・衣装・セットの再現)が上演されていくというものです。出てくるショーの間に、特にストーリー上の関連性はない。だから、セリフや歌詞が聞き取れなくても、全く問題ないのです。劇中劇ともちょっと違う、なんとも不思議な構成。ミュージカル、というよりは、芝居と衣装とセット付きのコンサートと言った方がしっくりくる。私の印象はそうでした。だから、逆に、「ハロルドプリンスのガラコンサート」としては最高だったと思います。アンサンブルも超一流、衣装と演技とセット付きだから、その作品を知っていれば、束の間その世界に浸れるのだから。
実際、隣に座っていた人も、「演奏」が素晴らしいね、と幕間に感想を言っていました。私も途中から「コンサート」として見始めたら、まあ楽しくて楽しくて仕方がなかったです笑。

メッセージが伝わってこないのは、やはりシーンの間に相関がないのが理由な気がします。もっというと、「登場人物」が存在しないこと、役者が、役者本人として舞台に立つように演出されていることが問題な気がしたのです。
普通ミュージカルというのは、メッセージが直接ストレートに言葉で語られることはありません。フィクションである登場人物の言葉や生きざまを借りてこそ観客に伝わるのです。まあこれは芸術作品全般としてそうでしょう。
それなのに、この作品の場合、演出家ハロルドが語りとしてストレートにメッセージを伝えている。更に、「ハロルドプリンスの演出」ということを(宣伝でも)伝えられているため、ハロルドの語りを、非現実世界のものとして聞くことができず、どうしてもコンサートのMCのように現実に引き戻されてしまう。だからこそ、ハロルドの自己満で舞台を作っているように見えてしまう。このあたりに、The Prince of Broadwayの根本的な問題がある気がします。

ハロルドの60年に渡るキャリアを祝っての作品だと言うことは重々理解しています。トニー賞21回もとったハロルドが、自分のキャリアのオムニバスを作りたかったというのも、心理としてはわかります。でも、どうせやるなら、ジュークボックスミュージカル(マンマミーアなど)やドラマのGleeやSmashのように、ストーリーの中に曲を散りばめて欲しかった。あるいは、ガラコンサートとして銘打ってほしかった。どれもこれも、中途半端なハイライトだった(何度も言いますが、役者が中途半端なわけではない)。それが率直な感想です。


というわけで、今後どうやってチケットを売って成功させようとしているのか、ブロードウェイで果たして受けるのか…気になるところですが、作品の中身を変えない場合、私だったらこうするという考察を少々。
①全体的なマーケティング戦略的から。まず、観客に「ミュージカル」という期待はさせないことが最も重要な気がします。ミュージカルは劇である、と消費者が認識しているのならば(ただ、消費者がミュージカルを本当に劇の一形態と認識しているのかは、私にはわからない)、これは劇とは認識してもらえないと思うから。

②ブロードウェイでの戦略について。ブロードウェイでは、役者がいいから、では作品は売れません。これは、ブロードウェイの客層のためでしょう。今やブロードウェイの売上の6割は観光客だから、役者はあまり分からない。観光客でない観客は目が肥えており、役者の良さでは作品を判断しない。日本公演がある程度人気を博しているのは、間違いなく元宝塚の柚希礼音さんが出ているおかげだと思いますが、これがブロードウェイでは通用しないのです。
とすればどうするか。まず、ターゲットを、ミュージカルが昔から好きなファンに定めます。つまり、若い層はあまりターゲットにしないということです(若い人が見ても、出てくる作品を知らず、その世界に浸ることすらできなくなるから)。国籍はあまりこだわらなくても良い気もします。ストーリーを理解する必要が特にないためです。その上で、往年のミュージカルファン(50代以降、かなあ)に、親子や旧友と楽しむ(この作品を見ていたときの思い出語りができるから)と銘打ってキャンペーンなどやればおもしろいかもしれません。あくまでも、古き良き時代を全面に打ち出すのが良いのかなと。
日本でトライアル(試演=市場実験)をやるということは、ブロードウェイに来るアジアの観光客を射程に入れているということなのかなと思ったりするので、アジア向けに考えるといいのかもしれませんね。

③アメリカ以外の国での戦略。これは、日本公演で取ったような戦略を取るのが吉かと。その国のスターを混ぜることで固定ファンを取り込み、同時に、ブロードウェイの一流キャストを出すことでプレミアム感を持たせる。ただ、世界初演という謳い文句はもう使えないし、ブロードウェイの一流キャストはブロードウェイで主に活動したいことが多いようなので、ツアー公演に出てくれるかというと微妙でしょうね。


長くなりましたが…今後The Prince of Broadwayがどうなっていくのか、注目し続けたいと思います。