私は思い切って田中さんに確かめてみた。
「確か… さっき母が、私が本当の子供だとか何とか言ってましたよね。」
すると田中さんは間髪入れずに、
「さあ、よく聞こえなかったから。」
私の言葉尻と重なるくらいの速さで
それに答えた。
しかし、あの母の大声なら
きっとどこに居ても聞こえたはず。
彼の私に対する、せめてもの優しさなのだろうか。
でも今の私には、そんな優しさなど要らない。
私が必要としているのは、真実と確実な答え。
誰かに真実を答えて欲しかった。
それが田中さんじゃないことに、幻滅さえ感じていた。
この家には私に真実を教えてくれる者は居ないのか。
誰一人、その場を誤魔化す人たちばかりだ。
自分たちの空間を自分たちだけで演じている。
まるでパントマイムのように感じられた。
背後のずっと遠くから、轟音を立てながら少しずつ"怒り"という突拍子もないようなエネルギーの塊が転がり迫ってきて、
私の心を捉えて離さなかった。
それは、生きてきて初めて感じる
切ない"怒り"でもあった。
〜 次回へ続く 〜