ざっくりとした経緯

 

ジャーナリストで共産党中央委員会の安保外交部長を勤めた経歴もある、現役日本共産党員であった松竹伸幸氏が、本年1月19日に文春文庫より、党首公選制の導入や共産党の安保政策へ提言などを記した著書「シン・日本共産党宣言」を刊行したが、その内容やその経緯などが問題とされ、党員の処分としては一番重い「除名」処分を受けた。

 

松竹伸幸氏はこれを不服として、党規約に則った処分撤回を時期大会で求めることを宣言している。

 

本日2月23日までのところ、連日赤旗や共産党幹部から非常に激しい言葉や論調での松竹伸幸氏への批判が行われ、朝日・毎日新聞など大手メディアも巻き込んで、TwitterやFacebook などのSNSでも、共産党員なども加わって賛否両論の非常に熱い議論が交わされている。

 

こちらのサイトは、共産党側の主張、松竹氏や、松竹氏と分派行動をしたとされている鈴木元氏らの主張などを時系列にまとめてくれている。事実確認のために非常に参考にさせていただいているので厚く感謝したい。

 

ざっとした感想として、共産党の綱領や規約に反したことが松竹氏の「除名」の理由だとされているようだが、私たちのように外部の人間には、その論理、とりわけ「民主的中央集権制」と呼ばれる共産党独自の組織原則の詳細はなかなか理解できず、朝日や毎日などが指摘したように、共産党は内部での異論を許さない組織だとのイメージが大きく広がってしまったことは事実だろう。

 

そこで今回は、この問題に関連する日本共産党の規約がどうなっているのか?を見ていこうと思う。

 規約違反というが、どの規約条項なの?

 

まず、何が規約違反とされているのかを、最初に松竹氏の言動が規約違反だと批判した藤田論文の規約に関する指摘部分を抜粋した。なお綱領に関する部分の分析は、後日行う予定。

 

まず指摘しておかなければならないのは、松竹氏の行動が党のルールに反していることです。党規約では、党員は、「中央委員会にいたるどの機関にたいしても、質問し、意見をのべ、回答をもとめる」(第5条第6項)ことができるとしています。松竹氏も「党首公選制」を実施すべきだという意見があるなら、中央委員会に対しても幹部会や常任幹部会に対しても、そうした意見をのべる権利がありました。しかし、松竹氏が、そうした行動をとったことは、これまでただの一度もありません。異論があれば党内で意見をのべるということを一切しないまま、「公開されていない、透明でない」などと外からいきなり攻撃することは、「党の内部問題は、党内で解決する」(第5条第8項)という党の規約を踏み破るものです。

(中略)

日本共産党は、旧ソ連や中国の干渉によって党が分裂した「50年問題」という痛苦の体験を踏まえ、規約で、「党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める」「決定されたことは、みんなでその実行にあたる」「党内に派閥・分派はつくらない」という民主集中制を組織原則として明記(第3条)しており、「党首公選制」という主張は、規約のこの原則と相いれないものです。

 そして党規約には、次のように明記しています。

 「党の諸決定を自覚的に実行する。決定に同意できない場合は、自分の意見を保留することができる。その場合も、その決定を実行する。党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(第5条第5項)

 松竹氏の行動は、党の決定のなかでも綱領とならんで最も重い決定である党規約に反する意見を、党内で主張することもせず、勝手に発表したものであって、松竹氏自身も同意したはずの党規約に違反する行為です。

#問題とされている規約は赤字にしている。なお、日本共産党の規約はこちら

 

この藤田論文で違反として出されているのは、規約の3条と5条である。

 

第三条 党は、党員の自発的な意思によって結ばれた自由な結社であり、民主集中制を組織の原則とする。その基本は、つぎのとおりである。
 (一) 党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める。
 (二) 決定されたことは、みんなでその実行にあたる。行動の統一は、国民にたいする公党としての責任である。
 (三) すべての指導機関は、選挙によってつくられる。
 (四) 党内に派閥・分派はつくらない。
 (五) 意見がちがうことによって、組織的な排除をおこなってはならない。

 

第五条 党員の権利と義務は、つぎのとおりである。
 (一) 市民道徳と社会的道義をまもり、社会にたいする責任をはたす。
 (二) 党の統一と団結に努力し、党に敵対する行為はおこなわない。
 (三) 党内で選挙し、選挙される権利がある。
 (四) 党の会議で、党の政策、方針について討論し、提案することができる。
 (五) 党の諸決定を自覚的に実行する。決定に同意できない場合は、自分の意見を保留することができる。その場合も、その決定を実行する。党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない。
 (六) 党の会議で、党のいかなる組織や個人にたいしても批判することができる。また、中央委員会にいたるどの機関にたいしても、質問し、意見をのべ、回答をもとめることができる。
 (七) 党大会、中央委員会の決定をすみやかに読了し、党の綱領路線と科学的社会主義の理論の学習につとめる。
 (八) 党の内部問題は、党内で解決する。
 (九) 党歴や部署のいかんにかかわらず、党の規約をまもる。
 (十) 自分にたいして処分の決定がなされる場合には、その会議に出席し、意見をのべることができる。

 

藤田論文の指摘が正当であるかどうかの評価は後段に譲るとして、まずは、これらの規約の条文の意味を解説してみたい。なおこれは、現役党員(幹部も含む)や元党員などから学んだことをベースに解説しているので、間違いがあれば是非指摘して欲しい。

 

まず、3条で「民主集中制を組織の原則とする」と書かれていて、その内容が解説されているが、他の民主組織と大きく異なるのは、わざわざ「党内に派閥・分派はつくらない。」と規定されている点で、ここが民主集中制らしい点だろう。しかし、何をしたら「派閥や分派」になるのか?ここが実は大きな問題で、この問題でも松竹氏側と現共産幹部での解釈の違いが浮上している。

 

そもそも「民主集中制」とは、「民主的中央集権制」の略語で、その組織原則の基本はトップダウンの「中央集権制」であるが、その意思決定や代表者選定プロセスに、選挙などの一定の民主的制度を取り入れていることをもって「民主的」との枕詞がついている。しかし、どこまでこの民主的制度を組織運営に取り入れるのか?については、非常にバラエティがあり、日本共産党の「民主集中制」も、そのバラエティの一つと言える。

 

規約5条では、党員の権利と義務について規定されているが、実はこの「民主集中制」の3条規定と密接に関連している点も理解を難しくしている点だと思う。

 

個々の党員からの意見を方針に反映させるための民主的な条項は、5条のこれらで規定されている。

 

 (四) 党の会議で、党の政策、方針について討論し、提案することができる。
 (六) 党の会議で、党のいかなる組織や個人にたいしても批判することができる。また、中央委員会にいたるどの機関にたいしても、質問し、意見をのべ、回答をもとめることができる。

 

私も教えてもらうまで気が付かなかったのだが、どちらの条文も枕に「党の会議で」との条件設定がある。これは端的に言えば、「党の会議で」のみこれらが可能であって、それ以外の場ではしてはいけないという意味である。

 

つまり、支部会議から党大会までの、各機関が招集し、その会議に参加資格を持って参加した党員のみが、それらの事をしてもよい。つまりこれは、「党の会議」以外で知り合いの党員同士が集まり「党の政策、方針について討論」や「組織や個人にたいしても批判」などをしてはいけないという意味で、これが3条で禁止されている「分派行動」と見做されて処分対象となるのである。

 

一般的に「派閥・分派」といえば、組織内で別グループを作ることを意味するのだろうが、日本共産党の分派禁止規定の実態はそれにとどまらず、内部で党中央とは異なる持論の賛同を広げようとする行為も「分派」として禁止している。

まさにそれを担保するのが、5条の四と六で規定されている「党の会議」以外での自由な議論を規制する条項で、これらはセットとなっている。

 

このように、共産党の党内民主主義は、内部での自由な討論を認めているかのような誤解は実態に反する。そして「党の会議」以外では自由な討論禁止を補完する党員の権利として定められているのが、六の後段部分、「また、中央委員会にいたるどの機関にたいしても、質問し、意見をのべ、回答をもとめることができる。」である。

 

しかし党員から上げられる質問や意見をどう扱うのかは、上部機関の胸先三寸次第であるし、回答の義務すらも規定されていない。実際、何の回答も得られなかったとSNSなどで告白してる党員は多数いるようだ。

 異論の拡散を嫌う「民主集中制」

 

以上見たように、共産党の組織原則である「民主集中制」は、党中央の権威=「中央集権制」を守るために、党内ですら党中央とは異なる意見が拡がることを極端に嫌い、その可能性の排除を担保するために、組織横断的な党内議論すらをも制限する規約になっていることが理解できるだろう。

 

元党員によると、中央委員会の決定や方針案に異論を持った党員が、規約に従って多数の賛同を得て方針に反映することは以下のような高いハードルを全て越える必要があって事実上不可能だとのことだった。

 

1. 支部会議で異論を説明し、支部内では賛同を得て地区党会議の代議員となる。

2. 地区党会議で発言通告を提出し、運よく10分程度の発言機会を得て代議員多数の賛同を得る。同時に県党会議の代議員に立候補し選ばれる。

3. 県党会議で発言通告を提出し、運よく10分程度の発言機会を得て代議員多数の賛同を得る。同時に党大会の代議員に立候補し選ばれる。

4. 党大会で発言通告を提出し、運よく10分程度の発言機会を得て訴え、代議員多数の賛同を得て大会決議に盛り込む。

 

これをみる限り、運が良くても2までで終わるだろうと思われる。

他の代議員などに事前に自分の意見を説明し、賛同を得る行為が「分派行為」として禁止されているのだから当然であろう。

そして、このそもそも成功するはずもない挑戦に敗れた党員ができることは、どう扱われるかも定かでない「意見書」を提出するか、「決定に同意できない場合は、自分の意見を保留することができる。その場合も、その決定を実行する。党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない。」に従うかのどちらかである。

 

このように、日本共産党の「民主集中制」は、異論が内部で広がることを抑え、中央委員会の権威を守り、トップダウンの「中央集権制」を維持するためには、非常に有効な組織原則と言えるだろう。

 

その一方で、どんなに優れた異論であっても、内部でそれを拡げる議論を制限された状態では、それを中央の方針や決定に反映させる方法は、基本的には存在しないのだ。

 

これが、日本共産党の「民主集中制」の本質であり、それを担保するための規約である点を、今回の松竹伸幸氏除名問題のベースとして理解しておく必要があるだろう。