初めて

満たされた気がした


愛によるつながりじゃなく


行為そのもので



快感じゃなく


心地良さで







あれから
学校が忙しくなり

週末だけにしかバイトがてきなくなって

彼にも会わなくなった




なぜあの時

わたしとセックスをしたのか

なぜあんなに

満たされたのか



愛なんて
確かになかったはずだから




あてのない考えに
彼を想う時間が日に日に長くなって






2週間ほど経ったとき

ふいに訪れた

顔色の悪いあのヒト





息がとまりそうだった


『おはようございます』

自動ドアを抜けた彼は

足早にレジの前を通り過ぎ

そっけなく会釈をして

事務所の奥に消えた




ーーびっくりした

来るなんて知らなかった




全身が脈打つのと同時に

解けた答え


わかった





スキなんだ


こんなにも

会いたかった





自覚すると
さらに想いは募った



しばらくして
競馬新聞を手に戻ってきた彼を呼び止め

また2人で会えないかと
尋ねた

目を見るのは怖かったから

派手にかかれた馬の名前らしき文字に視線を落として


『・・いいよ』


意外に早く帰ってきた返事に少し戸惑って
また連絡しますとだけしか言えなかったけど

それでも



彼は小さく笑ったから





もっと知りたいと思った


いろんな表情を

内側を






夕方から降り出した雨は

生暖かい風に煽られて







口ずさんだ

Singin' in the Rain
カーテンの隙間から
わたしを射る尖った光は

まるで

夢をみるコトなど許さないと
責めているようで

不快感に包まれて
目を覚ました




彼との行為から
季節はひとつ過ぎて

夏のはじまり特有の
新しい葉っぱの匂いが

鼻をつく





わたしはまた
ここに来ていた





疲れてるのか
隣には爆音でいびきをかく
彼がいて


眠るイメージなんてなかったから
それですら人間らしいと思えた



そばにいていいんだろうか


確かなモノなんて
ひとつもない


仕方ないからと言われるのだけは
嫌だ




また途方もない考えの中を泳いでいると

いつの間にか
彼はタバコをくわえていた



別に聞かなくてもいいコトなのかもしれない

ただセックスがしたいと思っただけなんだし




ーーでも




『なんで・・』


気づいたら声になってた



『なんで、何?』

まっすぐわたしを見る彼に
少しだけためらったけど





『どうしてセックスするんですか、わたしと』






言葉にしたら
間抜けなその想いは

壁という壁を跳ね返り


わたしの元へ還ってきた






意外にも

温かさを伴って





『可愛いかったから。素直に隣に来たいって言った君が。

そんな風に言える君を、好きだと思ったからーー』





軋む心は

彼の言葉に涙をながした



目を伏せたそのヒトに

押し付けにならないよう

『そばにいたい』と


自分なりの
精一杯を伝えて




これでいい


いつか

『一緒にいよう』と胸をはって言えるまで



今はまだ

このままで
彼となら

いろんなコトが楽しかった

何にでも興味を惹かれた


造られた海の中で必死に泳ぐ奇妙な生物にも

存在自体が無駄だと思っていたゲームセンターにさえも


夜景も
映画館でみる恋愛モノも



全てが


くだらないと思っていた
全てのものが


初めて見る世界のように
鮮やかだった




帰る時間が決まってるなら

それなら朝早くから会えばいい

22時に帰らなきゃいけないなら

6時には迎えにいくから



そう言って笑った彼に

信頼感で満たされた




相変わらず
光を嫌うあのヒトだったから

昼間に表に出るコトは
少なかったけど





それでも




幸せなんて
平たいコトバしか思いつかない程


2人でいる時間は愛おしかった


この想いを

何と呼ぼう



少し斜めから見る

彼との世界を