1月31日(土、491日目)
 私は、日本にいたころからあまり料理を作ったことがありません。正確に言うと、学生時代にさんざん自炊はしましたが、それは自分のためであって、失敗しても自分が食べればいいという気軽さがありました。こちらに来てからは、帰宅が夜の11時過ぎが多く、自炊はほとんどしていません。誰かのために料理するのにためらいがあり、仲間に日本料理を作って紹介できないのを残念に思ってきました。今回、ロンドンで餅が手に入ることを知り、これを中心にすれば楽だと思い、日本料理の会を研究室で提案しました。すると、なんと私を入れて8人も集まることになってしまいました。そんなに大勢の料理を作るなんて、それこそまったく経験のないこと。で、当日の朝6時に起きて人生初めての生姜焼きを作ってみたら、、、味も見た目もダメ!これは慌てました。日本に電話をかけてどうしたらいいか聞き、タレの調合、タレをかけるタイミングや焼く長さなどをかえて、どうにかOK。料理って本当に実験みたいですね。それからロンドンに行って買い出しをして戻ってきて、、、いやいや、大変でした。
 結果はみんな喜んでくれました。生姜焼きは、「生姜の量の加減が難しいと思うんだけれど、これはちょうどいい。どうやって作るのか教えてくれないか」などと言われ、もう嬉しくてしかたありませんでした。どんどん作った結果、多めに準備してきた肉(家で細かく切っておいたもの)は全部焼いて使い切りました。きっと人に料理を作ってほめられたときって、みんなこういう気持ちになるんでしょうね。

おもしろかったのは、好き嫌いがはっきり皿の残り方に出ていたことでした。

 ・餅:大好評。焼くのを彼らにやってもらったのが良かったみたい。膨らむのを見たり、どのタイミン
    グで裏返したり取り出すかを考える必要があるのも良いようで。きな粉の方が、砂糖醤油より人
    気でした。食感が心配でしたが、驚くほどあっという間になくなりました。
 ・生姜焼き:肉をけっこう小さめに分けました。これも予想外にあっという間に消えました。
 ・そば:つけ汁につけて食べてもらいましたが、これも高い人気。
 ・味噌汁:お麩がロンドンで手に入ったので、珍しいかと思い入れました。味噌汁の味って、受け入れ
      られやすいんですね。みんな喜んでいました。
 ・熱燗:好きな人はすごく気に入ってくれました。冷や酒と一緒に比べてもらったのも良かったかも。

 ・冷奴:けっこう残りました。後で聞いたら、あの食感が苦手な人も多いようで。
 ・納豆:わざと試してもらったのですが、みんな嫌がっていました。臭いではなく、食感がいやだそう
     です。
 ・梅干し:納豆に並ぶ嫌われ者かと思ったら、意外とみんな嫌がっていませんでした。ちょっと驚き。

これだけ?と思わないでください。料理に慣れていない人間が、短時間で8人分準備したんですから。「食感」が大切、というのはおもしろい発見でした。

今となると、こちらに来てからもっと早くやっておけば良かったなと思いました。そうしたら、2回目、3回目とできたのに。ずっと研究で成果を出すために追い詰められていて、そんな気持ちの余裕がなかったんだなぁ、とこれまでを振り返りました。でも、帰国前に自分を支えてくれた仲間たちに感謝の気持ちを表せた、そしてそのために努力し、それが実った。今回はそれでいいのかと思いました。