4丁目の煙草屋は

雨でも、ガラス戸を開けていた



三十路前後の綺麗な女がつまらない顔で座ってる

見たことない顔

きっとあそこの長男とこに

何時の間にやら嫁いで来たのだろう

年増の女に興味はないが

涙黒子が雨に似合う

物憂げな顔が少しいい

僕はあそこの長男とは仲がいい

明日借りてた本を返しついでに

あんたの嫁かと聞いてみよう








本日は曇りである

昨日の雨が上がった余韻を

雲間の太陽が割る寸前



煙草屋のガラス戸は今日も開いてて

彼女が雑誌をざつにめくった

彼女の暇潰しに僕が影をつくると

ぐるりと大きな目がこちらを見上げる

思わず胸がざわっとしたが

あんたの旦那を呼んでくれと告げると

一瞬きょとんとした顔で

あぁ、と長男を引っ張って来た



差し出す手には本を渡さず

口元を本で隠して

あれはアンタの嫁さんかいと小声で聞くと

長男はぶっと笑って

ありゃ妹だ、旦那と別れて出戻りだ

お前さんと同い年だと言う

同い年!?と驚き仰け反ると

今にも雲を割らんとしていた太陽が

突然頭上に落ちてきた

長男がおぉ、と空を仰ぐから

つられて見上げると

横から、わぁ!と同じ空を見上げて

無邪気に笑う知らない女

否、よく見れば嫁、改め、妹

笑った顔がなんとも愛くるしい

まるで別人

昨日の雨の女と同じとは思えない



別人のような彼女を

無言で食い入るように見つめれば

長男がにやついた顔で

なんだ、あれが好みか、紹介しようかと言うから

僕は、握った本を彼の腹に突き刺して

ぐえっと言ってる間に走って逃げた



僕は煙草は吸わない

こうなったら本を借りに

毎日来るしかない