烟る種



六月にパッサリ切った前髪も
夏の名残を隠す様に
今では目に掛かるまで伸びていた


残暑もわずか
短くなった日の暮れに僕は思う
あなたは消えたら戻らぬ花火
今となっては後の祭り
ただ振り返ることしか出来ない僕は
まだ子供だったんだね
夏の夜空くらい青かった


蚊取り線香が燃え尽きるまでは
一緒にいたいと何度も願った
縁側で夏の庭に想いを咲かせた
今は記憶の種になったけれど
まだ埋められない




記憶を追憶と呼べる程
疵は未だ浅くなくて
思い出なんて美しい言葉じゃ飾れない


蝉の鳴き声が
ふたりの間を保たせていた頃
まだ名前では呼べなくて
それがいつの間にこうなったの
“終わる夏”始めてしまった
火を点けた蚊取り線香
ゆっくりと、けど止まらない


巡ることない恋だと知ってて
それでも止められない想いがあったね
打ち上がる花火の儚さに
悲しい顔をしたあなたは
花火に行く先重ねてた
大人故に




思い返す夏が何度来るだろう
あの夏は二度と来ないのに




蚊取り線香が燃え尽きるまでは
一緒にいたいと何度も願った
夜風に柔らかく揺れる煙の形を
目で追うあなたの横顔をずっと見ていたくて


変わらぬ落陽に染められたある日
どんなに待ってもあなたは来なかった
夕暮れに狐の嫁入りが僕を濡らした
まるで全てが幻想だった様に
煙の如く白く消えた日々


けど会いたくて
まだ会いたくて
種を埋められない




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