― 石破政権の日米ディールは誰のための合意だったのか ―

2025年7月、石破政権が発表した日米間の「相互関税」および米国産農産物の輸入拡大に関する貿易合意は、一見すると日米関係の安定化や貿易摩擦回避の成果として評価されている。しかしその実態は、政権末期の“成果ありき”の焦りから、国家の産業基盤と食料安全保障を著しく損なう内容となっている。

■ 一方的に偏った“相互関税”

米国が日本製品(特に自動車)に15%の関税を課すのに対し、日本側の実質的な対応は限定的で、ほとんどの米国製品はすでに無関税かごく低率である。相互を謳いながら、実質的には日本の輸出産業が一方的に負担を背負わされる構図だ。さらに政府は、自動車メーカーに対して「米国で生産し、それを日本に逆輸入する」という異例の方針を勧告している。これでは、日本国内の部品製造・組立を担う中小製造業の雇用と収益は確実に奪われ、地方経済の空洞化は避けられない。

■ 農業・食料安全保障を無視した“政治的譲歩”

加えて、日本は米国産農産物の輸入拡大に事実上合意した。表向きは「WTO枠内での調整」と説明されているが、現実には米国産米や牛肉、トウモロコシなどが日本市場に一層流入することとなり、国内農業への圧迫は明白だ。日本の食料自給率はすでに先進国最低水準の38%にまで落ち込んでおり、これ以上の輸入依存は国家の存立に関わる問題である。

■ 国益を守る責任を果たしたのか

今回の合意は、確かに関税25%という「最悪の事態」は回避したのかもしれない。だがそれは、“目先の危機”を避けるために“中長期の国益”を犠牲にした取引だったと言わざるを得ない。石破政権は政権末期の焦りから外交的成果を急ぎ、結果として日本の自動車産業と農業という二大基盤産業に深刻なダメージを与える判断を下した。このような合意が「成果」と呼ばれるのであれば、それは誰のための成果なのか。

■ 私たちがいま問うべきこと

政権の延命や外交ポーズのために、産業・地域・食を支える現場が切り捨てられてよいはずがない。いま必要なのは、外交的妥協ではなく、戦略的に日本の主権と生活基盤を守る姿勢である。今回のディールを、単なる「一段落」と受け止めてはならない。これは“失われた交渉”であり、私たちが再び主権を取り戻すための問い直しの契機とすべきだ。