■日中関係について
■「靖国神社参拝を棚上げしてもいい」

鳥越 そうすると小林さんとしては、これからの一番の問題は中国と台湾の問題?

小林 ものすごく大きいですね。

鳥越 北朝鮮問題より大きい?

小林 まあ北朝鮮は、どうかな……。北朝鮮はまた折れてくるのかなあ……。北朝鮮だって分からないですよ。ノドンは持ってるんだから。ノドンは何百発って日本を狙っているんだし。核を搭載できるかどうかだけの問題なんだから、あとは。

鳥越 でも、北朝鮮はやったとたんに消滅しますよ。

小林 だって、やらなくったって消滅するんだから。

鳥越 だから、やるときは消滅覚悟だろうね。

小林 今このまま黙ってたら、経済制裁の締め付けがあるから、どうしようもない状況になってる。軍部におみやげも何もやれない。だから、核実験ってなるわけでしょ。核実験やらなかったら崩壊するんだから。崩壊が嫌だから核実験やるんでしょ。だったら、次はミサイルをぶち込もうっていうのだって、自分のところが崩壊してもいいと思わない限り、金正日が自分は亡命してもいいと思わない限り、それはやるかもしれないですよ。だから、やるってことも可能性としては考えておかないと。パーセントとしては低いけど、考えておかないといけない。

 中国はもっと分からない。もっと恐ろしいと思う。いざっていうときに、何をやらかすかっていうのは。そのときのために、最低限ね、わしは靖国参拝止めても、一応棚上げしてもいいと言ったことがありましたよ。そしたら右翼の新聞みたいのから、たたかれたってこともありましたけど。

鳥越 それは、どういうつもりで言ったの?

小林 条件があると。つまり、条件は反日教育を止めろと。反日教育を止めて、ちゃんと交流しようと。いきなり共産党体制を民主主義体制にしろとも言わない。あれだけの民を治めていくためには、ある程度の強圧的な制度も必要だろうから、それもいいと。ただ、反日教育を止めろと。反日ってものを、国民国家を作るときの核にするのを止めろと。それで、こういうことを、わしが中国人の学者と話したときに……。

鳥越 今はもう止めてるんじゃないですか?

小林 いや、やってますよ。ぜんぜん止めてないですよ。ものすごい反日の映画も作ってるし。日本のアニメとかを排除して、反日アニメを今からやるって言ってるし。止めないでしょ。

鳥越 でも、戦後のアメリカの映画はぜんぶ反ドイツの映画だったじゃないですか。

小林 はあ。

鳥越 サンダース軍曹が出てくる「コンバット」とか。僕らが見ていた映画は、ドイツがぜんぶ悪でね。

小林 うんうん。

鳥越 ただ、もう60年経ってるからね。もうそろそろ止めてほしいんだけどね。そうしないと友好関係っていうのは国民同士の間でできないから。おっしゃる通り、止めてくれっていうのは、それはちゃんと言うべきだよね。

小林 それが条件ですよ。その条件でなら靖国棚上げだっていいと、わしは言ってるわけだから。でもね、中国人っていうのはやっぱり感覚が違うんですよ。中国の学者と話したって、平気で言いますもん。太平洋の日本列島から連なるインドネシアとか、洋上の諸島を日本にあげよう。それで大陸につながるところは中国のものだと。こういうふうにすればいいじゃないかって、言いますよ(笑)。

鳥越 ああそう(笑)。

小林 うん、わしとか編集者とかがいる前で。みんな青ざめたけどね。しらけちゃったけどね。

鳥越 学者なの、それ?

小林 学者。みんな凍りついたけどね。感覚違うわって。

鳥越 そりゃ、違うね。

小林 そんなこと、夢にも思ってない、こっちは。それを向こうは平気で言えるわけだから、やっぱり中華思想っていうの……。

鳥越 中華思想でもあるし、かつての帝国主義時代の考え方でもあるよね。つまり世界中を自分たちがどうやって分割しあうかという。

小林 でも、中華思想そのものが、どこまでも自分のところが“華”っていう。世界の中心で華であり、外側は蛮族であるから、どこまでも拡張するっていう思想に支えられている。だから、今、弾圧されているウイグルだって、チベットだって、手放す気なんかないじゃないですか。どこまでも拡張していくっていう感覚は刷り込まれたものですから。それが怖いっていうのがあるわけですよ。

鳥越 それは僕も分かります。文革のときにね、いかにひどいことが行われたかっていうの。僕がテヘランにいたときに、新華社の記者が文革の被害者で、下放されてひどい目に遭ったその人がその後ようやく復帰して、記者としてテヘランに来てたのよ。それから、東京でときどき行く、中華料理店をやっている兄弟のお父さんとお母さんは相当ひどい目にあってるわけね。そういう話はいっぱい聞いているから、文革がいかに中国国民にも被害をもたらしたかっていうこともよく分かっている。中国がやるときはは、日本のやるときとケタが違うなっていうね。何百万人という人が死んじゃうんですよね。

小林 それで、言論統制も今の方が強めてるでしょ、インターネットから何からね。強めないと、もうやれないんですもん。言論の間口を少しでも広げて自由にしてしまったら、共産党が今までやってきたこと、文革から何からの批判に向かうかもしれないんだから。だからどうしても、その批判は日本に向けておかなくては成り立たないんですよ。

鳥越 向こうがね、反日教育をやるのは困ったものなんだけど、それに呼応して日本の中で反中で盛り上がり、ナショナリズムになっていくのもね、これはまた不幸なことになるんじゃないかなという気がするんですけれどね。だから、そうならないような道を、やっぱり……。衝突するとよくないでしょ、お互いが反中、反日っていうことでね。そのために首脳同士がちゃんと話をしてね。小林さんがいったように、「靖国行かないから、(反日教育を)止めろよ」と言ったらいいんだよね。

小林 そこを言わないままだったら、まったく靖国を止めるだけの話で、向こうは反日教育を続けるわ、ODAはもらうわ、なんにもいいことなしですよね。北朝鮮に対するなんらかの圧力をかけるとか、金正日を亡命させて、北朝鮮の政権自体を倒すというということに、中国がどこまで同意するか。それも同意しないというんだったら、もうなんにもいいとこないじゃない。単にそれは、安倍政権が参議院選挙勝つためだけに訪問してるだけじゃなかいかという話になっちゃうでしょ。


■戦争論
■「だまされてやったわけじゃない」

小林 靖国を参拝するっていうのは基本的には、要するに国防に携わる人間に敬意を払うかどうかっていう話ですからね。国のために死んだとて、単なる悪政の犠牲者でしたということで同情はされるけど、褒めてももらえないし、国のトップの人間が敬意を払うこともないっていうのなら、もうバカバカしいと思うでしょ、国を守るために死のうという人間たちは。

鳥越 そこは、おそらく認識の違いになってくるんでね、あれが国を守るための戦争だったということには、僕は疑問に思うんで。明治維新から始まって、違うコースに乗っちゃって。僕は違うコースがあったと思ってるんですよ、日本の近代化のね。

小林 わしは絶対、違うコースはなかったと思ってるんです。

鳥越 現実はありえなかったけども。

小林 あれしかもうなかったと思ってる。

鳥越 要するに、日本も欧米の帝国主義列強と植民地ぶん取り合戦をやっただけ。

小林 うん、それをやらなかったら仕方がなかった。もうそれは運命だったと思ってますから。なおかつ、それを言うんだったら、もしね、今、共産党やら何やらが、A級戦犯が祀ってあるから行かないとなったら、そもそもの原因がすべて見失われる。つまり、なぜマスコミ、あるいは国民がやる気だったのかってこと。そこが見失われる。

鳥越 戦争を?

小林 戦争をね、望んだかっていうこと。だまされてやったんじゃないですよ。政治家にだまされたり、一部の軍部や支配者にだまされてやったんじゃなくて、みんながやりたかったから、やったんですもん。

鳥越 それは、そう思うけどね。

小林 全部自分たちが……。

鳥越 でもね、本当にやりたかったかどうかっていうのは分からなくて、戦争に行くのは嫌だって思っていた人たちもいっぱいいたはずですよ。

小林 そりゃそうですよ。

鳥越 でも、社会の空気がそれに反対したら、捕まって刑務所に入れられるから、しょうがないから。脱走することもできないからっていう……。

小林 そんなこと、わしは思ってないなあ。

鳥越 治安維持法もあったし。


小林 治安維持法は、あの時代に共産主義を唱(とな)える人間は革命思想ですから。天皇を殺そうと思ってたんだから。だから、そういうふうなのに対しては危険だと、その当時は考えただろうなと。国民国家になってからまだそれほど時間が経ってはいない時期に、そういう革命思想っていうのは危険だったろうし。

鳥越 元に戻るけど、現実にはありえなかったっていう話なんだけど、今後のことも考えると、やっぱり本当は明治維新のときにね、欧米の植民地ぶん取り合戦の中に日本は参入していったわけだよね。それで、満州とか東南アジアの国を資源獲得のために、特に満州だよね、満州を建国したと。これは明らかに侵略行為。よその国に行ってとってるわけですから。イラクにアメリカが行ったのと、基本的には同じですよね現実にありえないと前置きしながら、当時の社会情勢も歴史的制約もまったく省みないで現在の価値観から当時の日本の軍事行動を断罪するのは詭弁というものだよ。アメリカはイラクを侵略しなけれ自国が滅亡するような状況にない。戦前はブロック経済で現在のような自由経済というステムではなった。全世界は帝国主義の時代にあり侵略を悪と見なす価値観の中、ロシアの南下の脅威にさらされていた日本はその防波堤になる地域を確保する必要があった。

小林 まあ、そこは厳密に言うといろいろあるんですよ。満州建国からいけないといったらね、日露戦争からいけないってことになるんですよ。そもそも満鉄があるからなんだから。満鉄があって、そこに居留民を置くからなんですもん。要するに、今のイラクみたいなもんですよ。そこでテロがどんどん起こるわけですから。じゃあ、そこに満鉄もいけないってことになりますよ。そうしたら日露戦争がいけないってことになりますよ。それじゃ日露戦争を戦ってなかったら、どうなるだってことになるわけですよ。ロシアはどんどん南下しちゃいますよ。歴史っていうのは全部連続してるんですよ。だから、満州建国からいけないとか、張作霖爆殺からいけないとかいえないんですよ。じゃあ、あのとき満鉄を置くなってことになっちょうんですよ。

鳥越 いや、だからね、現実にはありえなかった話なんでね。そんなことはありえないと言われれば、それまでの話なんだけど、やっぱりよその国に軍隊をもって出かけてね、その国を占領するという行為をやった時点から原子爆弾が落ちる日までね、歴史の連続があったと思うわけ。現実にありえなかったんだけど、国内の民主主義を進めて、市場を大きくして、要するに貧富の格差を少なくして、国内の消費マーケットを大きくして、国内の資本資本蓄積を大きくすることによって、もちろん貿易はちゃんとやりますけれど、他国に土足で踏み込んで資源をとってくるということは欧米はやってもウチはやらんという考え方は、“考え方”としてはあったと思うんだよね。でも、実際にはできなかった。

小林 と言うかね、そういう国際法感覚っていうのは、現代の人間だから思えるんですよ。その当時に日本がそんなことを考えられたか、そこまでの余裕があったか。それこそ帝国主義である大国よりも、すでに先んじている大国よりも、もっと余裕のある国民じゃないといけないですよ。

鳥越 僕は、なぜそんなことを言うかというとね、今後の問題を考えるときにも、これは1つの教訓として出てくるんだろうと。歴史の、これはありえない話なんだけれど、本当はこうした方がよかったんじゃないかという考え方を持つことは、今後のことを考えるときに参考になるという意味で言ってる。

小林 うん、なるほど。今の国際法のルール感覚みたいなものでいけば、こういう感覚を当時の日本人がみんな持っていればね、当時そういうふうに考えることもできたでしょう。でも、そのときの日本人の感覚では、ひたひたと欧米諸国はどんどん戦争か何かで押し寄せてきているっていう切迫感しかなかったとわしは思うから、出て行くしかないっていう思いしか日本人にはなかった。

 孫文を一生懸命日本人がね、頭山満とかが助けようとしたけどね。それで、王道か覇道かって問われればね、王道を行きたいけど、結局は覇道しか生き延びる道がないというような世の中であったと思うわけですよ。今の法感覚でいえば、今の日本人だからそう考えるゆとりができている。だったら、今の中国人はどうだろう。まさに国民国家ができあがらんとしている国民にとってみたら、今まで欧米から日本から虐げられてきた中国がね、いよいよ今から世界のアメリカと渡り合って、世界の覇者になると。それは過去の日本の感覚ですよ。そういう感覚で、とるものはとる。台湾は何がなんでも、軍事力をもってしても獲る。これはもう公言していることですからね

鳥越 しかし、中国をね、どこかの国が侵略をするというような様子はないでしょ。

小林 いや、中国が。中国がそれをやる様子があるってことでしょ。

鳥越 でも、中国が攻められるっていう様子はないよね。

小林 中国はない。

鳥越 だから、中国はそんなに(とるものは獲ると)思わなくてもいいはずなんだよね。←それは鳥越の考えであって中国共産党の考えではない。

小林 でも、覇権主義というものは、やっぱり中国の……。

鳥越 軍事的な問題というよりもむしろ、経済的な問題の方が大きいって気がしますよね、石油とかね。

小林 もちろんそうだけど、その中に屈辱の感覚っていうものが国民意識の中にたまってないと、いざというときに戦おうと思わないから。そうなったときに(中国の)世論として沸騰するかですよ。「よしやろう」と思うかどうかですよ。そのときに、中国人国民のルール感覚が日本人に近くて、いくら経済のためでもそこまでは止めろ、と(中国の)世論がそうなればいいわけですから。だから、世論の力っていうのがすごく恐ろしくって。

 それは今の日本だって同じですよ。郵政民営化を参院で否決されたら、衆議院解散だって言って、議院内閣制もなにもヘッチャラかして、やろうっていったら、それをかっこいいってみんな言うから。

鳥越 その辺はマスコミも加担しているから、われわれもちょっと非常に……。

小林 それで「抵抗勢力だ」って言ったら、抵抗勢力のところに落下傘部隊が下りていったと、そこをどんどん取材して、お祭り騒ぎでやっていくと。それにみんな乗っかっちゃうわけですから。やっぱり世論、そしてその世論を作るマスコミ。その共犯関係っていうのが、実に恐ろしい。政府にしっかりと考える人がいて、「ストップ」って言う人がいればいいんだけど。「北朝鮮が怖いからといって、イラクを攻めるのはおかしい」と言ったところで、わし1人ではそんな世論を巻き起こすってことはできなかったんだから。そういう問題ですよ。

鳥越 その辺のところはよくわかりました。

(小林よしのり氏との鳥越インタビュー第3回は近日、掲載します)

http://www.ohmynews.co.jp/news/0/3155