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開け放った扉の前で踏み出した足が宙にとどまる。
部室の扉を開けるや否や、目に桃色の空間が飛び込む。
個人持ち込みの安めだが、部活としては高い2人掛けソファー。
そのソファーの左側に艶やかな黒髪のショート、活発でムードメーカーの空刹明音が、そして右側にはダークブラウンのロング、柔らかい眼差しが印象的な野坂奈桜が座っている。
その対照的な可愛さを持つ2人が、今、上体を軽く捻った状態で身を寄せ合い、そして.......唇を重ね合わせていた。
僅かな羞恥と興奮が頬を淡い朱に染め上げ、止まる時間が二人の間を包み込んでいる。
この状況を理解しようと凍りかけた思考ロジックの活動を再開する中、様々な情報が脳裏を過った。
そうだ、確かにこれまでの日々に兆候は存在していた。
2人とも何となくだが、確かに他の部員を避けていたし、最近は小声で話し合っていることが多かった。
俺が明音と話してた時だって、やけにそわそわして後ろを振り向いては互いに目を合わせていたのだ。
今まで気にしなかった俺の鈍感さに後悔を覚えつつも、結論が下される。
初めから2人は――――――
ふと、なにげなく体の位置を戻した明音がこちらを向いた。
俺と目が合うと、まるで何であるかが認識できないかのようにゆっくり首を傾げていく。
瞬間、明音の顔から表情が消えていった。
不審に思ったのだろう。
奈桜も体の位置を戻し、その目が俺の姿を捉えると同様に表情を抜け落ちさせる。
そして、口が小さく開くと、明音の「そ、その、恒、これは―――」という台詞と奈桜の「嘘.......」という呟きが重なった。
そして、もう一度互いに目を合わせて奈桜が視線で合図をすると明音が先の台詞を続けようとする。
しかし、明音が声を発する前に機先を制する形で俺が台詞を発していた。
「...........そういう関係だったんだな」
その言葉が諸刃になって心に傷をつけ、つけ合う感覚を感じつつも、口から出たのは嗚咽ではなく、乾いた笑え声のみ。
恐怖とも採れる表情を浮かべる2人に俺は更なる刃を突きつけた。
「あの話も全部、嘘だったんだな」
明音の肩がビクッと震え、瞳に涙を浮かべる中、その姿を遮るように俺は静かに扉を閉じた。