〇オフィス・廊下(夜)

    電気の消えているオフィス。社長室の灯りのみが漏れる廊下。

 

〇同・社長室

   ホワイトボードに何やら熱心に書き込んでいるIT部若手社員・滝沢雄二(29)。

   ボードには「パぴプぺポッポーはとぽっぽー体操、攻略法」という文字。

   ボードの前に立つ株式会社ルーサットジャパン代表・太田充(51)、営業部部長・陣内ジョン(42)が腕周りや足首をほぐしている。

太田「いいか。これは、現在2歳児に大流行中の体操だ!

陣内「子供のハートわしづかみっすね~」

太田「ああ、そう言っても過言ではない。これさえマスターすれば、言葉など不要だ」

滝沢「いいえ。会話が重要です。僕らはそこに苦しんでます」

   真顔の滝沢。

陣内「ノープロブレム!」

   おっさんたち男三人のシュールな絵面。

 

〇太田家・子供部屋(夜)

   美心の寝かしつけをする太田。なかなか寝ない美心。

美心「ママは~?」

太田「ママはお仕事だから、今日はパパと寝んねしましゅ」

美心「ママはおちごとれ~$#%$##お~$%&#の?」

  一生懸命話す美心。全く聞き取れない太田。

太田「ん?なんでしゅか?」

美心「ママ・・ぶ~んって#$%&#$んの?」

太田「ママが、なあに?」

美心「ママ$#%&$#たの~!」

   不機嫌になる美心。

太田「とりあえず、絵本よみま~しゅ!」

   美心にタジタジな太田、絵本を開いて誤魔化す。絵本に興味が変わる美心。

 

〇BAR(夜)

T「2015年」

BGMはジャズ。落ち着いた雰囲気。太田充(48)、一人カウンターで飲んでいる。

 太田の隣の席に座ってくる清楚で美しい女性・長嶋理央(29)。理央の話口調はとても柔らかく、癒し系。

理央「今日はお一人なんですね」

太田「ええ。何飲みますか?」

  太田が嬉しい動揺を隠し、背筋をピンと張る。

理央「(バーテンダーに向かって)同じものを」

店員「かしこまりました」

  理央の元にお酒が来る。

太田「私にご馳走させて下さい」

理央「お一人様な私達に」

理央がグラスを持ち、太田のグラスを立てて乾杯する。

太田「理央さんのような美人乗務員さんが居れば、みんな用がなくても海外に行きますね~!」

理央「相変わらずお上手ですね、太田さん」

太田「私と真剣にお付き合いしてみる気はありませんか?」

   急に真剣な表情になる太田。

理央「いいですよ。でも私、国際線なので、一度飛ぶと4、5日、日本に居ないこともしょっちゅうですよ」

太田「構いません」

理央「初デートのお誘い、楽しみにお待ちしてますね」

  理央に見えないようにガッツポーズをする太田。

 

〇太田の家・リビング

T「3年後」

   リビングには、①太田と理央のウェディング写真 ②愛娘・太田美心の写真たちが飾られている。

   子供用ベッドで昼寝している美心。テーブルの上に広げられた認可保育園入園決定通知書類。怒りを含んだ表情のまま、手を組んで通知書を見つめる 

   太田。強気な表情で向かい合って座る理央。

太田「何で相談もせずに保育園決めた?」

理央「探しもしないあなたに代わって探したんですけど」

太田「美心のこと考えたか?」

理央「美心は早生まれだからなかなか保育園に空きがでなかったの!やっと三歳児クラスから空きが出て預けられるのよ!」

   怒りを鎮め、冷静な口ぶりになる太田。

太田「そうじゃなくて・・。せめて美心が小学生になるまで家で観れなかったのか? 4月生まれに比べたらまだまだ赤ちゃんだぞ!?」

理央「それ、完全に美心への偏見!やっと私働けるのに、何で家で観なきゃいけないの?美心なら大丈夫。もう夜間保育と病児保育も申請出してるわ!」

  相変わらず喧嘩腰の理央。

太田「そうじゃなくて・・美・・」

理央「(食い気味に)もう優秀なベビーシッターも見つけた!私がフライトで三日以上留守にするとき、あなたが仕事なら頼めばいいわ」

  ついに太田が切れる。

太田「お前いい加減にしろよ!何でも勝手に決めるな!フライトも正気か?美心のことを一番に考えろよ!」

理央「じゃあ、あなたが仕事辞めれば?観てくれる人がちゃんといるじゃない!不満!?」

太田「・・・話にならない。お前がこんなに気の強いやつとは思わなかったよ」

理央「見抜けなったのあなたでしょ。嫌ならあなたが美心を優先して仕事すれば?」

太田「お前それでも母親か?」

理央「何その発言!?」

  強気な理央。怒りを抑えるのに必死な太田。

太田「よく考えろ」

部屋を出る太田。その様子を睨むように見ている理央。起きてくる美心。

美心「パパは~?」

理央「ん?おでかけ~」

  何事も無かったかのように笑顔で振る舞う理央。

 

 

つづく・・・