こうした店は都会じゃないと成立しないと書いたんだが、それはね、
人が歩いてないとか(笑)、そもそも人がいないとか(爆笑)、そ
んなことより決定的な違いがあるからなんですよ。
俺も単身上京だったんだ。知り合いいない、友だちいない、しばら
くはそうだった。そのうち学校でできるんだが卒業すればバラバラ
でしょ。ごくごくわずかな友だち、もしくは知り合いしか残らない。
向こうも引っ越し、俺も引っ越す。結局、独りだ。
若いから孤独とまでは言えないけれど、独りっきりでは煮詰まっち
ゃうことがある。で、こーいう店にハマルわけだね。俺の場合はジ
ャズ喫茶。夕方前に店が開き、つまりは夜の店だから飲み屋と化す
わけですよ。しかしそこは焼き鳥屋ではない。ジャズという基軸が
あるから、かすかに異質な人間ばかりが集まってくる。
売れないミュージシャンが多かった気がするが、カメラマンもどき、
画家の先生、うーん、雑誌記者、大部屋俳優もいたっけ? とまあ、
わけわからん連中と知り合える。
知的空間と言ってもですよ、知識をひけらかすような面倒な話はし
たくない。その頃の俺は若造であり無知もいいところ。下手に首を
つっこむと墓穴を掘る(笑)
えー、でね、半可通がよってたかって、あーだ、こーだと、それな
りマジで話してる。その話を、俺は横にいて、そ知らぬ顔して聞い
ている。やれマイルスとモンクがどうだったとかジャズ談義が多い
んだが、中には「マラドーナがサッカーを変えたよなぁ」なんて言
うオッサンも。バカぬかせ、サッカーを変えたのはオランダのファ
ンバステンだよ! なんて内心ムカつきながらも俺は黙って聞いて
いる。横目で鼻で笑いながら。(性格悪いね俺)
わかりますかね、そのへんの間合いというのか、立ち位置というの
か。そいでまあ、元気をもらって帰ってくる。部屋にこもれば独り
きりだ。そうなんですよ『独りきり』 ここが重要なんですね。田
舎を出る意味がここにある。俺の時代は若い頃は金がない。よって
ますます独りでいる時間が増える。
独りの時間を有意義な孤独にするために、そのとき何にチャレンジ
するか。楽器でもやってみっか。絵でも描いてみっか。小説でも書
いてみっか。そのほかもろもろ、やってみっかと入れ込むわけで。
チコちゃんに叱られる、みたいにやってたやつは、いずれポシャる。
で、カァーッと集中すると息抜きがしたくなり、それでまたジャズ
喫茶に顔を出す。そうした生き方というのか、人生の一時期の過ご
し方こそ、都会に生きたキャリアであって、いずれ決定的な差とな
るモノになるわけで。
だから、こんな店がやりたいわけだよ。あの頃の俺みたいな若造の
ハナシを聞いてみたくてサ。うんうん。