$It's always a good time.

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【第2話】

・・・・・・警視庁柔道大会当日。

主審「合わせて1本!それまで!」

審判の手が高く上がったのを確認すると、私は背筋と襟元を正した。

(よし!)

今のところ、苦戦するような相手とは当たっていないので、
幸運にも3戦目を勝ち上がることができた。

(・・・・・・そういえば、そろそろ野村さんが・・・・・・)

そう考えた瞬間、会場の女性陣が色めきたった。

女性陣が注目する方を辿ると、野村さんが、
愛想笑いを浮かべてヒラヒラと手を振りながら入ってくるところだった。

「野村さ~ん!」「カッコイイー!」「がんばって~!」「こっち向いて~」などと、
その場のノリなのか本気なのか分からない声援を送る女性陣。

野村「アハハ。みんなありがと~」

○○「・・・・・・」

天王寺「いやー。野村さん、今日も清々しいくらい軽いわ」

八千草「アハハ。野村さんですもんね~」

浅野「・・・・・・通常運転」

京橋「いいではありませんか。軽くない野村さんなど、おしとやかな△△さんくらい不自然です」

花井「言えてるな」

○○「・・・・・・投げ飛ばしますよ!」

怒りながらも、ついつい野村さんの軽い笑みを追ってしまう。

婦警「野村さーん、合コンしよー」

野村「はは、今度ね~」

あれは野村さんの対外的なキャラだ。

・・・・・・そう理解してるのに・・・・・・

なんだろう。

面白くない。

すごく、面白くない。

野村さんはヘラヘラと軽い笑みを浮かべたまま試合場に立った。

裏から手を回したのか、それとも過去の優勝経験ゆえか・・・・・・

野村さんはシードのため、これが初戦となる。

やがて「はじめ」の言葉と共に試合が始まって・・・・・・

(・・・・・・あれ・・・・・・?)

野村さんは相変わらず余裕の表情で、相手の出方を窺っていた。

そして・・・・・・

主審「一本!それまで!」

サラッと・・・・・・本当にサラッと小内刈りを決めて、勝ってしまった。

婦警はキャアキャア騒ぎ、野村さんは軽い笑みを浮かべて観客に手を振る。

(・・・・・・やっぱり。本当に、真剣に勝負しないの・・・・・・?)

勝負をするなら、真剣に挑まないと、相手に失礼だ。

例え相手が明らかに自分よりも力量が下だと分かりきっていても。

本気の相手には自分も本気で返すのが礼儀だし、
それが試合相手に尊敬と誠意を示す、一番フェアでシンプルな手段だ。

少なくとも私はそう信じていて・・・・・・

野村さんもそう思っているはずだと、勝手に思っていた。

なのに・・・・・・

(野村さん・・・・・・どうして・・・・・・)

裏切られたような気分で、次の試合を注視する。

主審「はじめ!」

花井「試合の時まで軽いなんて、ある意味尊敬に値するな」

天王寺「ブレへんなぁ、野村さん」

浅野「でも強い」

八千草「すごいなぁ、野村さん」

○○「・・・・・・」

やっぱり真剣とは程遠い表情で、野村さんは・・・・・・

○○「・・・・・・。・・・・・・あれ?」

身を乗り出して、よく見る。

野村「・・・・・・」

さっきは、あまりにも一瞬で気付かなかったけれど・・・・・・

野村さんの余裕の笑みの、その目だけが・・・・・・本気だった。

対戦相手の顔が、こわばっていた。

強い者が放つ独特な威圧感に気圧されている。

肌の表面がザワつくような・・・・・・私にも経験のある感覚だった。

(・・・・・・やっぱり、軽いのはポーズだけだったんだ・・・・・・)

嬉しくなって、私はいつの間にかほほ笑んでいた。

(ていうか、あの威圧感を笑顔で出されたら、真顔よりもずっと怖いかも)

そんなことを思っている間に、野村さんはいとも簡単に体落としをかけて。

主審「一本!それまで」

またしても、会場が盛大に湧いた。

天王寺「強っ」

浅野「すごい・・・・・・」

八千草「・・・・・・あれ。○○ちゃん」

○○「ん?」

八千草「次・・・・・・野村さんと当たるよ」

○○「・・・・・・へっ!!」

(そうだった!その辺チェックしておくの忘れてた!!)

そういえば・・・・・・男女混合無差別級なのだから、いつかは当たるのが当然なのだった。

京橋「野村さんであれば、△△さんが谷間のひとつも見せて色仕掛けで迫れば手加減・・・・・・。
・・・・・・無理そうですね」

○○「ちょっと!!セクハラーー!!」

花井「・・・・・・終わったな、△△」

○○「で、ですよね・・・・・・」

勝てる気がしない。

実力だけじゃない・・・・・・背も、体格も、体重も。

すべてにおいて不利だ。

○○「まぁ、とにかく真剣勝負するだけです!」

野村「やっほ~。見てくれたー?俺の勇姿~」

○○「・・・・・・見ました」

京橋「次は△△さんと当たるようですよ」

野村「そうなんだよねー。○○ちゃんと組んず解れつなんて、役得~」

天王寺「本当に得かどうかは微妙やと思いますけどね」

○○「はい?」

花井「まあ、野郎と組むよりはマシだと言えなくもないだろ」

○○「はい?」

二人を笑顔で睨む。

野村「ま、気にしない気にしない!いやー、楽しみだなぁ」

○○「・・・・・・野村さん」

野村「んー?」

○○「・・・・・・真剣勝負、しましょうね」

野村「えー?俺は本気出さないもーん」


【選択肢】

A:出してください
B:はいはい


→A:出してください



○○「出してください!」

野村「えー。俺のスマートで涼しげなキャラが台無しになっちゃうし~」

○○「もー・・・・・・またそんなこと言って・・・・・・」

野村「ハハ」

野村さんは冗談めかして笑うと、

野村「ま、頑張ろうね?」

○○「はいっ!」





主審「はじめ!」

野村「・・・・・・」

○○「・・・・・・」

(・・・・・・うわ。本当すごい威圧感・・・・・・)

野村さんは相変わらず余裕の表情だ。

だけど、こうして対峙してみると・・・・・・よく分かる。

隙のなさと、落ち着きと、余裕。

けれど決して手を抜いているわけではなくて。

殺気や気迫のようなもののない「本気」だった。

さっき遠目から感じた威圧感が、ピリピリと肌を刺す。

(どうしよう。やっぱり、強い・・・・・・)

探り探り、有効ばかりで、技ありのひとつも取れないまま、刻々と時間だけが過ぎていく。

(全然、隙がない・・・・・・)

そう思った瞬間。

対処する暇もなく、襟足を掴まれ、足をかけられる。

○○「!!」

(・・・・・・負けた!)

野村さんの右襟を掴んだまま、咄嗟にそう思う。

(・・・・・・あれっ?)

ほんの一瞬、野村さんの力が緩んだ。

その隙をついて、私は無我夢中で右手を握り替えると、
野村さんの右袖を掴んで釣り込む。

間髪入れずに右足を払い上げて・・・・・・
どうっと大きな体が足元で受身を取る。

主審「一本!それまで!」

○○「・・・・・・へっ」

なんだか、何が起こったのか自分でもよく分からないままに足元を見下ろすと、
野村さんが笑っていた。

野村「・・・・・・ハハ、負けちゃった~」

○○「え・・・・・・」

わけもわからず、私はその場に立ち尽くしていた。






○○「・・・・・・」

大会が終わって、静まり返った道場で、私はため息をついた。

結局、決勝まで行ったものの、負けて2位に終わってしまったのだけれど・・・・・・

悔しさはあるものの、同時に清々しさをも感じている。

決勝の相手は、明らかに私よりも強かったから。

体格差・実力差の割には、私は健闘した方だと思う。

それよりも・・・・・・

野村「○○ちゃん?」

○○「・・・・・・野村さん・・・・・・」

野村「準優勝おめでと!」

○○「・・・・・・野村さん」

野村「んー?」

○○「どうして、手を抜いたんですか」

野村「・・・・・・最初から言ってたじゃん、本気出さないって~」

○○「でも・・・・・・他の人との対戦の時は、軽い振りしてちゃんと真剣に取り組んでたじゃないですか!」

野村「!」

○○「そ、そりゃあ私じゃ相手にならないかもしれないけど、
でも・・・・・・だからって、手加減なんてしないでほしかったです」

野村「・・・・・・それは無理だね」

○○「どうして?・・・・・・他の人には、誠意を持って本気で対峙してたのに・・・・・・
どうして私の時だけ手を抜いたんですか」

野村「・・・・・・分かんない?」

○○「分かりませんよ!私は、手を抜かれて勝つより、お互いに本気でぶつかって負けたかった。
野村さんだって、逆の立場だったら?手を抜かれて勝って嬉しいんですか?」

野村「・・・・・・いいや。屈辱的だよね~、そんなの」

○○「・・・・・・分かってるのに・・・・・・手加減したんですか」

野村「・・・・・・そうだよ。ごめんね」

○○「・・・・・・私が女だからですか?」

野村「んー、惜しい!」

野村さんはとぼけるように笑った。

○○「なん・・・・・・女でも、真剣に試合に臨んでる対戦相手なんですよ!」

野村「・・・・・・正解は・・・・・・“俺の”、女だからだよ」

○○「・・・・・・え?」

野村「俺には、○○ちゃんを本気で倒しに行けなかった・・・・・・俺が○○ちゃんを女性として愛してるから」

○○「!!」

野村「もちろん、○○ちゃんの気持ちは分かるし、俺も逆の立場だったら○○ちゃんみたいに感じてたとは思うけど。
どうしても・・・・・・できない。
どう頑張って切り替えても、ほんの何分かの間でも、○○ちゃんを倒すべき対戦相手として見れない。
俺にとって○○ちゃんは・・・・・・俺がこの手で守りたい唯一の女性だから」

○○「・・・・・・。・・・・・・野村さん・・・・・・」

野村「だから・・・・・・最初から誰にも本気を見せなければ、
○○ちゃんの柔道選手としてのプライドを傷付けずに済むかなと思ったんだけど。
・・・・・・どうも上手くいかなかったね」

○○「・・・・・・」

(どうしよう・・・・・・。・・・・・・嬉しい)

嬉しさと切なさに、胸が締め付けられる気がした。

競技は競技。

そんな甘っちょろい言い分は通用しない。

・・・・・・そう思うのに。

喜んでしまうあたり、私もまだまだ甘いのだろう。

○○「・・・・・・野村さん」

野村「・・・・・・ん・・・・・・?」

○○「もう一本、勝負しましょう」

野村「・・・・・・○○ちゃ・・・・・・」

○○「私を倒そうなんて思わなくてもいいから。
ちょっとだけ。ちょっとだけ、本当の野村さんの『本気』を、見てみたいんです」

野村「・・・・・・俺が本気出したら、あっという間に終わっちゃうよ?」

野村さんはおどけたように笑ってそう言った。

○○「望むところです!」

頷いて・・・・・・位置に立って、礼をしあう。

○○「はじめ!」

主審の代わりに始まりを告げると・・・・・・

○○「・・・・・・わっ!」

見たこともないような素早さで、野村さんが私の襟元を掴んで、投げの体勢に入った。

(は、速い!)

あっという間に世界が回る。

・・・・・・だけど、受身を取る必要はなかった。

受身を取ろうと身構える前に、ふと野村さんの力が緩んで、抱き留められて・・・・・・

○○「・・・・・・」

野村「・・・・・・」

気付けば、私は床に押し倒されたような格好で、野村さんを見上げていた。

○○「・・・・・・強いなぁ、野村さん」

本当に・・・・・・今日試合をした誰よりも、速くて、強い。

○○「あーあ、惜しいったらもう・・・・・・あの時躊躇わなかったら、野村さん優勝できたのに・・・・・・」

野村「別に、○○ちゃんを倒して優勝してもイマイチ嬉しくないよ」

○○「野村さん・・・・・・」

野村「できれば、これから先、この強さは○○ちゃんを倒すためじゃなく、守るために使いたいんだけど」

○○「・・・・・・」

野村「・・・・・・そうさせてくれる?」

○○「・・・・・・はい」

野村「約束?」

○○「うーん・・・・・・やっぱりたまには組手の相手とかしてほしいかも」

野村「ベッドで寝技なら付き合うけど」

○○「・・・・・・京橋さん発言やめてください」

野村「ハハ」

○○「野村さん」

野村「ん・・・・・・?」

○○「責めちゃってごめんなさい」

野村「・・・・・・いや。正論は、○○ちゃんの方だしね」

○○「ううん、いいんです。正論じゃなくても・・・・・・さっき言ってくれたこと、すごく嬉しかったから・・・・・・」

野村「・・・・・・」

○○「・・・・・・」

見つめ合ううちに、距離が近付いていく。

野村さんは私を、私は野村さんの頬を引き寄せて、キスをした。

野村「・・・・・・やっぱり、○○ちゃんは俺を煽るのが上手だね」

ほんの少し唇を離してそう呟くと、野村さんは答えを許さないかのように、もう一度私の唇を深く奪う。

言葉もなく、夢中で熱く口づけを交わすには、柔道着に試合場はイマイチムードがないけれど。

私達は少しの背徳感と、溢れるような愛おしさに溺れながら、飽きることなく唇を重ねていた。


RESOLUTION

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【Mail】

Sub:・・・・・・


おっと、まずい。ここ、まだ警視庁だった。

あんまり俺を煽らないでよ。

我慢が足りない大きな子供みたいじゃない。

これ、最近の俺のささやかな悩みのひとつなんだからね?

分かってる?


俺の柔道の本気は○○ちゃんに見せることはないけど、
○○ちゃんを想う気持ちはどんどん投げていくからね。

かわされたら困るな~。それでも勝ちにいくけど。

もちろん、本気でね。


忠信

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