世界で最も有名な投資家の1人、ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイは、2025年2月、株主宛ての年次書簡を発表した。その中には、注目を集めるバークシャーの現金保有額問題のほか、2019年に投資した日本の5大商社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事)の株式保有に対する強気の姿勢などが語られている。最新の「株主への手紙」からバフェット氏の考えを解説しよう。

バークシャーの
「2024年決算」ポイントは?
バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット会長が2月22日、注目の年次株主書簡を発表した。巨大コングロマリットの指揮官として60年目を迎えたバフェット氏は、バークシャーの巨額の現金ため込みを懸念する投資家たちを安堵(あんど)させるとともに、同社が保有する日本株や2024年の保険事業の好業績に関する見識を示した。
この書簡には2024年決算が添えられており、営業利益が前年比27%増の474億ドルに達したことを示している。「同社の事業のうち半分以上が2024年減益を経験したにもかかわらず」とバフェット氏は語った。
バークシャーの保険部門の好調な収益は、全体の利益の大部分をけん引することになった。バフェット氏はさらに、米国財務省短期証券による投資収益が「予想通り大幅」に増加したことも挙げている。
バークシャーの株価は、2025年初来で5.6%、過去12カ月間では17.2%上昇している。「モーニングスター米国市場インデックス」は2025年年初来で2.31%、過去12カ月間では21.76%のリターンとなっている。バークシャーは2024年夏の終わり、時価総額が初めて1兆ドルを越えた。
以降は投資家にとっての重要ポイントをまとめたものである。
いまの現金保有額は「異常」なのか?
バフェット氏の回答
バークシャーの手元資金がここ数カ月、市場関係者の間で臆測を呼んでいる。第4四半期末時点で同社の現金保有高は3,340億ドルと目玉が飛び出るほどの額に達しており、アップルとバンクオブアメリカの持ち株売却と自社株買いの減速により、この額はさらに増加している。バークシャーはどんな機会を待っているのか? 掘り出し物はないのか? 投資家たちは答えを知りたくてうずうずしている。バフェット氏は、理由こそ明かさなかったものの、現金よりも株式を好む姿勢を崩さないことについて、次のような言葉で投資家を安心させている。
「いま、バークシャーの現金保有高を異常と言う評論家もいますが、皆さまの資金の大部分は株式に残っています。その優先順位が変わることはありません」
バフェット氏は、同社の株式保有額は2024年減少したものの、非公開株式の価値は上昇しており、「売買向きのポートフォリオの価値をはるかに上回る水準を維持しています」と指摘する。
バフェット氏はさらにこう述べている。
「バークシャーの株主さまはどうぞご安心ください。私たちは皆さまの資金の大部分を今後も引き続き株式に投資いたします。大半は米国株式ですが、その多くは重要事業を国際展開する企業です。バークシャーは、支配権であれ部分的所有権であれ、優れた企業を所有することを優先しており、現金同等資産を優先することは決してありません」
【次ページ】バフェット氏がバークシャーの「核」と呼ぶ事業
バフェット氏が
バークシャーの「核」と呼ぶ事業
バフェット氏は、損害保険事業をバークシャーのビジネスモデルの「核」と呼び、その成功を強調した。2024年のバークシャーの保険引き受けによる営業利益は前年比66%増の90億ドルに急増した。特に、バークシャー傘下のトッド・コムズCEO率いる米保険大手ガイコの業績を挙げ、2024年の同社の改善について、まだやるべきことは残っているとはいえ「目を見張るべき」と評した。
前払い金を受け取り、事業にかかる真のコストは数年後、あるいは数十年後に初めて確定するという、業界でもまれな財務モデルに最適な企業がバークシャーだとバフェット氏は主張する。
「バークシャーは極端な損害を財務的にも心理的にも平然と処理できます。また、再保険会社に依存していないため、実質的かつ持続的なコスト優位性があります。そして、(楽観主義者ではなく)優れた経営陣がおり、損害保険がもたらす多額の資金を投資に活用するうえで特に有利な立場にあります」
バフェット氏が「重要な例外」
として語った「日本の商社」
バフェット氏はまた、バークシャーの米国重視戦略に対する「小さくとも重要な例外」についても強調した。伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の5社の株式取得による日本への投資拡大である。これら5社はバークシャー・ハサウェイと似たコングロマリット(複合経営)であり、日本国内および海外で幅広い事業に投資している。
「私たちは5社の財務記録を調べ、その株価の安さに驚きました」とバフェット氏は記している。
バークシャーが2019年に5社への投資を開始して以来、「彼らに対する私たちの称賛は一貫して高まっています」とバフェット氏は続けて述べている。配当を増額し、適切なタイミングで自社株買い戻しを実施していること、また、役員報酬制度は米国の同業他社と比べて「はるかに控えめ」であることを、バフェット氏は指摘した。
バフェット氏は、「バークシャーはこの日本のポジションを今後何十年も保有し続けるだろう」と語った。バークシャーはかつて、各企業の株式保有率を10%以下に抑えていると認めていたが、その上限は引き上げられる可能性がある。
94歳のバフェット氏が「残すもの」とは
バフェット氏は、バークシャーの過去60年間の成功の指標として、バークシャーの納税額の増加を挙げている。バフェット氏が経営権を握った1965年、バークシャーは所得税を支払っていない。60年後、バークシャーは米国政府に総額268億ドルとなる4枚の税金の小切手を書いたが、これは2024年、米国企業全体が納めた税金の約5%に相当するとバフェット氏は述べている。これは、米国政府に支払われた所得税額として、「数兆ドルの市場価値を誇る米国のハイテク大手さえも支払ったことのない」過去最高額である。
バフェット氏によれば、同社がこれまでに財務省に納めた税金の額は1,010億ドルを超えたという。
おそらく、投資家に対するバフェット氏の名言と同じくらい注目に値するのは、彼が言及しなかったことである。同氏は今日の株式市場の状況については多くを語らなかったが、米国企業の収益力については長期的な楽観姿勢を示した。「私はこれまで米国企業の成功を頼りにしてきたし、これからもそうするつもりです」とバフェット氏は述べている。
同社での自身の役割を移行する計画について、バフェット氏は具体的な詳細を提示しなかったが、94歳という年齢から、バークシャー・ハサウェイの非保険事業部門の副会長であるグレッグ・アベル氏がCEOを引き継ぐのは「それほど先の話ではない」としている。
バフェット氏は、有望な投資案件を見極めるアベル氏の能力に改めて自信を示した。「魅力的なものが何も見当たらないのはよくあることで、自分がチャンスにどっぷりと浸かっていることに気づくのはごくまれです」とバフェット氏は書いた。
「そんなときにグレッグは、チャーリー(注1)がそうだったように、生き生きとした行動力を示してくれます」
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