【2025年2月2日 5:00】
米中揺らす「DeepSeekショック」 データ窃取疑惑も - 日本経済新聞

・低コストだと主張するわけは?
・データや半導体の不正入手疑惑とは?
(1)DeepSeekってどんな会社?
ほぼ無名だった生成AIアプリ「ディープシーク」が1月下旬、米アップルが米国内で配信する無料アプリのランキングで米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」などを抜き、一時首位に立った。1月30日時点では日本でも首位になった。開発元はいったいどんな会社なのか。
ディープシークの梁文鋒最高経営責任者(CEO)はオープンAIのサム・アルトマンCEOと同じ1985年生まれ。AI研究で知られる浙江大学を卒業し、資産運用会社のHigh-Flyer(ハイフライヤー)を立ち上げた。同社は数学的な手法で機械的に投資するクオンツ運用に強みがあり、運用資産は約80億ドル(約1兆2000億円)と報じられている。
梁氏はハイフライヤーの子会社として2023年にディープシークを設立した。米調査会社CBインサイツによるとディープシークは外部から資金調達しておらず、AIの開発費は親会社から拠出されているとみられる。投資家の間であまり注目されず、突如としてAI開発レースの先頭集団に躍り出る「ダークホース」となったゆえんだ。
現地報道によるとディープシークの開発チームは20代が中心で、北京大学や清華大学といった中国国内のトップ校出身者や博士課程の学生が多い。ほぼ全員が海外経験を持たない本土人材で、数学オリンピックの入賞者も含まれるとされる。

ディープシークは外部の企業が開発済みのAIモデルを「先生役」として活用した。「生徒役」となる新たなAIモデルに質問を繰り返させ、先生役の答えを学習させることで短期間で高い性能を実現したと説明している。こうした手法は混合物から純度の高い成分を抽出する化学の用語になぞらえて「蒸留」と呼ばれる。
米国の輸出規制で最先端の半導体が手に入らず、AIの開発が遅れているとされてきた中国から有望な技術が登場したことは、米国のメンツを損なう事態だ。米有力ベンチャーキャピタル(VC)を率いるマーク・アンドリーセン氏はX(旧ツイッター)に「AI版の『スプートニク・モーメント』だ」と投稿し、人類初の人工衛星の打ち上げで旧ソ連に先行されたショックに例えた。
ディープシークは先生役となるAIモデルについて、米メタなどが開発している誰でも利用可能なオープンソースの製品を使ったと説明している。ハイテク分野における中国の台頭を防ごうとしてきた米国側にすれば「敵に塩を送る」かたちになった可能性がある。
(3)データや半導体の不正入手疑惑も?
一躍、世界のテクノロジー業界の注目銘柄になったディープシークだが、その主張には疑念も向けられ始めている。米国時間1月28日には外部に公開していないオープンAIのAIモデルからデータを窃取した疑惑が浮上した。同社は自社製品の利用規約の中でこうした行為を禁じており、米政府などとともに調査を進めていると表明した。
さらに1月30日にはディープシークが中国への輸出が禁じられている米エヌビディア製の最先端半導体を購入した疑いについて米当局が調べていることも明らかになった。米ブルームバーグ通信によると、米当局は第三国を経由して輸出規制を回避した可能性を調査している。
疑惑が噴出する「中華AI」の封じ込めに米国勢が一枚岩となっているわけではない。米マイクロソフトと米アマゾン・ドット・コムは1月末、それぞれのクラウドサービス上で、ディープシークが開発した大規模言語モデルの提供を始めた。

ウェブアクセスの傾向を調べるサービス「シミラーウェブ」によるとディープシークの平均日間利用者数(DAU)は足元で160万人を超え、米AI検索のパープレキシティなどを上回る。クラウド大手は疑惑にはいったん目をつぶり、利用者のニーズに応える考えのようだ。
(八木悠介)