沖田くん二十歳

恋をしたのに心が折れた
今季ナンバーワン
伊藤ちゃん

多少は沖田くんを意識している

この恋を終わりにしていいものか

会社の社長、沖田くんを高く評価してる。そろそろ他店に移動させるって

えっ…


待てよ待てよ

そしたら奴、○○ショッピングモールに寄れないなあ。
奴、車持ってねーし。


そろそろ決着だな…


沖田くん二十歳
いや、もう21歳だって。今年22歳だって。

そろそろ決着だな…
なんだか、俺までやりきれてない。

沖田くん、まだ想いは、伝えてないよな!

ラブだろ!ラブ!

しかし、彼の心は折れたまんまださ。


ここは、真打ちが行くしかねーよな!


真打ち俺様余計なお世話

その日オイラは決意した

なんならオイラが撃墜したるわい


2月初日、大きな転機


真打ち俺様余計なお世話

バッカだなって!

撃墜しますよ本気モードさてさて
どんな話でいこうかな

あのアンチャン、ホントはうちのアンチャンじゃないんだぁ
うちに来たいって言ってんだぁ
いい奴なんだぁ
あっちの番頭に可愛がられてんだぁ
一回話聞いてやってくれぇ


キャラ的に志村けん
何気に峰竜太

これで行こう


2月初日午後7時
◎◎に荷物を下ろし、
オイラの車は国道を下る
バイパスを越えたあたりからゾワゾワしてきた。

おろ?なるほどな…
オーラがここまで届いてらぁ!ハハハ
本日出勤かよ!


今季ナンバーワンの女
予想どうりにスタンバイ相変わらずオーラ全開

辺りは雪が舞い、
センチメンタルな風景を醸し出していた

今年最初の雪の華

いい!

絶好のチャンス

沖田くん…
まだチャンスはある…
俺が君のイメージを、ぶっ込んでくる
ガードの上から
ガシン、ガシンってさ

たこ焼き屋からでもケーキ屋はよく見える

今季ナンバーワンの女
珍しくカウンターから出て、ショウケースを磨いてる

突撃!
今季ナンバーワンの女
VS
ヘタレ沖田くん

再戦が始まった

沖田くん憑き物が取れたように機嫌良し

「マルジンさん、イイ感じだったんですよね?」

「いやぁ…」

ヘタレ沖田くん
同じ事を何度も聞いた


いつものように
いつものこと

戦場は○○ショッピングモール

今季ナンバーワンの女
いきなりオーラ全開
もはや魔女の域

凡人の男達は、一睨みで退散する

ヘタレ沖田くん二十歳

すがすがしく突撃

男:>> この間はありがとう!
女:>> はい?ああ、ケーキですね?どうでした?

男:>> ケーキ、喜んでもらえたよ

女:>> ああ~良かったぁ


沖田くん意気揚々と引き上げてきた

久しぶりに笑顔を見ましたよぉ!

「良かったな沖田くん。まだ戦えそうかい?」

もちろんです!

第2ラウンド
不在
第3ラウンド
不在

今季ナンバーワンの女
遅番が増えたのか?
もはや縁がないのか?

第4ラウンド
やっと巡り会う

しかし沖田くん、もはや苺タルトを買えなかった

あの女のオーラに近づくことが出来なかった。
沖田くんの目は、もう諦めていた

こんなもんなのか…
若い男の恋なんて
この程度なのか

行けよう沖田くん
あんな美人はそうはいない。真面目で素敵な人じゃないか。諦めちまうのかい?
幸せになれよう
疲れちまうのかい?

こんなもんなのか?
青春っつーのは

沖田くん二十歳

君は天才じゃない
手に届くものだけのほんの少しのおこぼれに満足してきたんだよ

違うんだ
もっと泣け
もがけ
バカにされろ

俺は間違っていたのか?俺はこれから年を取る
若い君に頼らなくちゃならない日がくるだろう
長い付き合いになるかも知れない
だからいい人と結婚しろよう
チマチマした女にチョッカイ出すなって


間違ってるのか
俺は間違ってるのか?


沖田くん!立ち上がれ
沖田くん二十歳

恋をしている

イケイケでヤンチャな若者

女を見るとちょっかいだす


どんな美人でも口説き落とせると豪語した。

しかし

今季ナンバーワンの女
伊藤ちゃん
ここ十年でトップクラス

柔らかそうでフワフワした髪
透き通りような肌
引き締まった表情
切れ長の目
優しそうな瞳

沖田くん二十歳を一撃でKO

沖田くん二十歳
出会った日から変わった

もじもじして

俯いたまま

苺タルト買うだけで精一杯


こまめに通うこと2ヶ月
すこしづつ打ち解けてきた

沖田くん気を引きたいのか

飴をあげたり
缶コーヒーあげたり

女からのリアクションを待つ


今季ナンバーワンの女
伊藤ちゃん

微動だにしない

焦る沖田くん

つい地が出てきた


「昨日休みだったでしょー!」

「だから?」


伊藤ちゃん冷たい態度


沖田くんの恋心をへし折った


美しい女の冷たい態度は強烈だ

しかも今季ナンバーワン

メガトン級

俺は遠目に眺めていたが
女の態度はなぜかしら微妙だ

俺は沖田くんを励まし続けた


そんじょそこらの女とは訳が違う

相手は百戦錬磨

簡単には口説けない

美しいだけじゃない

精神力が違う

その仕事ぶりから伺えるブレがない姿勢

まさに絶対王者

負けるな沖田くん

行くんだ沖田くん

自分の気持ちに素直になれ

曖昧にしてきた男は必ず後悔の人生を送る

曖昧な人生とは決別しろ

勝てる!

勝って人生を変えろ!
真打ち登場
さよう真打ち登場
真打ち登場
カッコいい響きだ

誰か俺を真打ちと呼んでくれ

カッコつけた割には僕はビビりまくりだった。

今季ナンバーワンの女
オーラが半端じゃない

女:>商品の確認を…
俺様:>>はぁ…

終始ビビりまくり俺様
いかん…

一手打たなくては!

「このケーキ、ウチのアンチャンが頼んだんだぁ。」

「ああ、はいはい、いつも買っていただいてる方です。最近、来ていないと、聞いておりますが…」

おお?

「あの…何かご迷惑おかけしてませんか…」

女はクスクス笑った

「いえ…その様なことは…全然……いつも買っていただいてる方ですし、」

今季ナンバーワンの女

かなり賢い

(ウチのアンチャン)で、話が通じる所に賢さを感じる

「領収書は書きましょうか?いつも書いておりますが?」

背後に客が並びだした

背後に立たれるのは苦手丁寧に断った

「どうもありがとう」

俺様はそれだけいって立ち去った


沖田くん、つなげたぞ …後は君次第だ…


最近来ていないと聞いておりますが、か…

一応意識はしてるんだな…

僕は沖田くんに電話をかけ、ことの顛末を話した

「おお~、ってことはイイ感じって事ですかねぇ!」

若者よ…少しは懲りたらどうだ。

「マルジンさん、これはですよ?たぶんですよ?○○ちゃん妬いてたんですよ。俺、あの女店長に軽くちょっかい出したじゃないですか!店長若いよなぁみたいな!それですよ!何?あなた、誰にでもちょっかい出すんでしょ?みたいな!いやいや、ちょっと待ってくださいよぉ!男ってバカですからぁ!これ勘違いって奴ですかぁ?なんだかねぇ!どんどん妄想に走る自分が怖いですよぉ!ヤバくなってる俺!みたいな!」

あくまでポジティブな沖田くんだけどだんだんヘタレな正体を現していった。
若き日は早く過ぎる
まさに実感の日々

沖田くん二十歳
今季ナンバーワンの女に敗れ去った

しかし
沖田くん諦めない
僕に行けという
ラストチャンスがある

ケーキを注文してあった誕生日ケーキさね

ついに真打ち登場だ

さよう、俺様さね

口説こうなんて考えちゃいませんが、様子を探るくらいは出来ます

その日がやって来た
1日の仕事を終え、○○ショッピングモールに行く。

なんだか憂鬱

なにビビってんの!
小娘相手に!

ビビる心を奮い立たせるが為、営業モードに切り替える。

営業モード
さよう僕は営業で生きる男

営業モードのスイッチは(恨)

過去の嫌な出来事を蒸し返し過去との決別を誓うのだ

チクショウ!小娘が!

おや…スイッチが入らない…そういや、あの女には何の恨みも無かったな…

よしナチュラル営業モードだ

営業の鉄則その1
雑念を捨てよ
走れ、走れば雑念は消える

俺は駐車場内を軽くランキングした

足が震える…

おお…この感覚…懐かしいぜ…

この時、既に俺はオーラを感じ取っていた。

今季ナンバーワンの女
既にスタンバイ

遠目に見えた女は相変わらず淡々と接客をしている。女性に有りがちな、他人に媚びたり、甘えたりする仕草が見られない。その仕事には、ブレがない。
可愛い顔してるが、
強い精神力の持ち主に違いあるまい。

まさにAランクの女


財布中の注文書を探す

無い……無いぞ…
いかん、動揺してきた…マズい…

あ…あった…

突撃開始

一歩一歩とケーキ屋に向かう

目が合った

今季ナンバーワンの女の瞳が何故かしらブルーに見える

俺様:>> 「あ…苺タルト…」

女:>> 「苺タルト?」

俺様:>> 「あ…ケーキだったかな…」
女:>> 「あ…五反田様?」

俺様:>> 「品川様です…」
女:>> 「失礼しました…。」

女は冷蔵庫を開けた

営業の鉄則その2
いかなる時もチェックは欠かすべからず


冷蔵庫のケーキの隣には飲みかけのジュースがあった。キャンディが3個

(なるほどな…仕事をすれば喉が渇く。そう、心も渇く!)

隙あり!

(淡々と作業しちゃいるが、たまに座ってチビチビやってるわけか…)

今季ナンバーワンの女
人呼んで怪物
通称、絶対王者

フン、同じ人間じゃないか…

沖田くん!勝てない相手じゃないぞ!


今季ナンバーワンの女
VS
自称ナンパ勝率100%男
そのビンチヒッター俺様

ついに、ゴング!
「ダメじゃないんですかこれ…」

俺はうなだれた

○○ショッピングモール絶対王者
伊藤ちゃん

その座を防衛

格下相手になびくそぶりを見せて

最後は心をへし折った

沖田くん混乱



バカやろーが



チャラチャラした態度 にウットリする訳
ねーだろよ



バカヤローが…


「沖田くん、終わったな…」


「いやいやいや!まだまだですよ!ケーキ注文しましたから!俺は取りにはいけませんよ!あんな冷たい態度されたらね!マルジンさん!取りに行ってくださいよ!」


ふざけんなって
惚れたのはお前だろ
なんで俺が…


「いやいやいや!俺を焚き付けたのはマルジンさんじゃないですか!ここに連れてきたのもマルジンさんだし!せめて彼氏いるかいないか聞いてきて下さいよ!」


ムチャを言うな
中年男にセクハラ
させるのか
俺みたいな男は
キモいんだ


しかし沖田くん諦めない

「わかった…やってみるよ…約束しよう…」


俺だって二十年前はイケメンだった

出来るはず…

ついに真打ち登場だ

さよう俺様は真打ち

やったるぜ!

沖田くん!仇はとる!
美しい女性は男を狂わせる

沖田くん

折り返して再度アプローチ

「弟の誕生日ケーキを注文したいんだけど」

伊藤ちゃん
うんざり顔

ばか…

「あのさぁ…この間休みだったでしょ?」

「だから?」


今季ナンバーワンの女
伊藤ちゃん

ついに拒絶オーラ炸裂

沖田くん戦意喪失

ショーケースを隔てただけの店員と客の関係どころじゃなくなった

沖田くん
うんざり顔で戻ってきた

「駄目なんじゃないですかこれ…」


男の顔は諦めていた
ハンナゾーワは持っていた杖を西方に向けた。

「ずうっと向こうだ。ローマ王国がある。その属国にヤダヨという国がある。ヤソ・ケレセトは、ヤダヨ人だ。ヤダヨ人はエホバという、一つの神しか祀らない。ひとりの男が革命を企てた。ヤソ・ケレセトだ。ヤダヨ神殿を占拠し、自分は神の子だと宣言した。彼は、エホバでなく、別の神を祀っている。エル、と言うエホバよりも古い神だ。フフフ…当然、反感を持たれた。そして彼は捕らえられた。ところがどうだ。彼は素直に、刑を受け入れたそうだ。それどころか、自分が磔の刑に処すられることを予知していたらしい。同罪を科されそうになった弟子達は知らぬ存ぜぬを決め込んだんだとさ。普通なら、それでお終いさ。ヤソ・ケレセトが死んで弟子がバラバラになってお終い。でもよ、弟子達がヤソ・ケレセトが磔られた、十字の枷を祀りだしてケレセト教がおおいに広まったらしい。人が死んで神になったってことさね。こんな事があるなんて、俺は…俺は自分を否定されたみたいで、無性に腹が立つ。君はどう思う??」


私にはわからなかった。私は首を傾げるしか無かった。ハンナゾーワは話を続けた


「ヤソ・ケレセトは、俺に対抗していたんじゃないかな…奴は俺を真似ていたんだ…俺のやり方を真似て最後は自分が神になった。弟子が祭祀をすると信じられたんだ。奴は、あの世で俺を嘲笑っているかも知れない。フフフ…なぁ?どう思う?」

ハンナゾーワはしゃべり続けた。


 「俺は僧侶だが、シャカ様の教えには従ってねぇんだ、シャカ様の考えじゃぁ、何も変えられねぇ。そうだろ?慈悲深い人生を送れば、死んで生まれ変わって、今度は豊かに生まれ変わるだなんて、とんでもねぇ。今が生き地獄になっちまわぁ。だから俺はな、古代の神、アスラを祀ることにしたのさ。力強い、炎の神さね。フフフ…簡単じゃなかった…」


「俺は、世界中旅した。キャラバンに混じって、遂に、キスタンについた。ゾロアスラって神官に、炎の儀式を伝授して貰った。アスラ神の力は強力だったよ…フフフ、俺はインドに帰ってきた。
ゾロアスラの娘、マナブを連れてな…」


私は、ハッ…とした。
日本武尊の側室のマナブと同じ名前だ…ハンナゾーワは続けた。


「戦乱の中、シャカの教えに従ってた連中はみんな不幸だった…俺は仲間を集めて言った。

今から神を降ろす!神を降ろすために犠牲が必要だ!炎の神と一つになって、力を手に入れたい奴は、前に出ろ!何かを変えたい奴は前に出ろ!何かを壊したい奴は前に出ろ!お前達の魂は神になり、未来永劫、祀られるだろう!祭祀は俺がしてやる! とね。」


「手を挙げて前に出たのは、俺の親友達さ。俺は木を井桁に組んで、火をつけた…炎の儀式の始まりだ。俺は激しく祈った。親友達を神に捧げた…。彼らの遺灰を使って、如来を作った。すると、どうだ。異教徒達や、富豪も貴族も震え上がったんだ。俺たちに対する態度を変え、その如来を拝するようになった。ククク、プッ、ククク…俺は悟った。悟ったんだよ。
戦乱を治め、平和をつくるものは、神への恐怖だと! アハハハ、」


神への恐怖…ハンナゾーワは人身献身をする炎の儀式で、それを表現したのです。

ハンナゾーワは笑うのを止めた。


「炎が天に届くほど立ち上ってなぁ、あれは、凄かった…あまりの美しさに感動すらした。周りで見ていた人々は恐怖で震え上がったんだ。恐怖は、信仰を生む。平和を作るんだ。」


私は、ハンナゾーワに言った。


「あなた様の話、少しばかりヤソ・ケレセトに似ています。でも違うところもあります。ハンナゾーワ様は弟子を、献身祭して祭祀をされている。 しかし、ヤソ・ケレセトは自分が献祭になって、弟子が祭祀している。」


「そこだよ!そこだよ!マヌケだと思わねぇかい?でもよ!弟子が祭祀してくれるなんて信じられるか?弟子に自分の魂を任せられるか?ありえねぇんだよ。奴ぁ、俺を真似てやがったんだ。最後の死に際だけ逆だよ。腹が立って仕方ねぇ!」


ハンナゾーワは寺院に向かって歩き出した。寺院の近くの開けた裏庭で、一人の僧侶が待っていた。ミムラだった。その後ろから女性がやってきた。スジャアタだった。相変わらず、うつむいていて元気がない。生き方も性格も、まるで違う、二人の僧侶が対峙した。


私の心に鉛玉のような嫌な予感が落ちてきた。
寺院での生活は豊かだった。食べ物には困らないし、子供達は学問を身につけていけた。戦乱の手は、寺院には及ばなかった。それには訳があった。周囲はハンナゾーワを恐れていた。剣や槍があるわけではない、魔人と呼ばれた彼には誰も手出しは出来ないのだ。ハンナゾーワは、僧侶でありながら、釈迦の教えを否定し、古代の神、アスラを祀っていた。ミムラが言うには邪神だそうだ。

昔、かなり遠い国で、恐ろしい儀式を使い、異教徒を退治したという噂を聞いた。だからなのか、野の草の会は平和だった。


ある日、ヒロシと市場に買い出しに行くと村人から話を聞いた。ハンナゾーワが帰って来るという。ミムラは色めき立った。


「あなたは、買い出しをしてて!スジャアタさんに知らせてくる!」


私が寺院に戻ると、ミムラは、やぐらに登り鐘を打ち鳴らしていた。


「ハンナゾーワ様が帰ってくるぞー。お出迎えだー。」


私もやぐらに登り、遠くに見える人影を探した。

「ミムラ、ほら、ラクダに跨った男ががいるよ。」


ミムラは、やぐらから降りると、その男を迎えに走った。恭しく頭を下げるミムラの態度から、その男がハンナゾーワだとすぐにわかった。想像していた顔と、だいぶ違う優しさと温かさに溢れた顔だった。あの人が魔人?人売り?私には戯言に思えた。


ハンナゾーワは僧侶や子供達を集め、遠くの国々の話を聞かせてくれた。戦乱は収まりつつある事、西国の彼方にヤソ・ケレセトと言う異教徒がいて磔の刑にされたこと、ギリシアという国に、デメテルという巫女がいて、太陽を消してしまったことなどを話してくれた。
ハンナゾーワの話は面白かった。私には到底、魔人には見えなかった。

しかし、ここだけ戦乱が及ばないとすれば、やはりハンナゾーワの力なんだろう。私はミムラに言った。


「いい人じゃん?魔人だなんて、とんでもない。」

「あなたは知らないのです。私がなぜ、こんな辛い思いをしてまで、ハンナゾーワ様について行くか知らないのです。異教徒も邪教徒もハンナゾーワ様を恐れているのです。ハンナゾーワ様の元が一番安全なのです。」


ミムラは、そう言うと私をハンナゾーワに紹介してくれた。


「ほぅ、君が男衆を集めてくれたのかい。ありがとうねぇ。」


ハンナゾーワは、そう言いつつも、私を観察していた。


「君と話がしたい。こっちへ来い。」


ハンナゾーワは、私に興味を持ったのか、しゃべり出した。


「君は、エジピトの王墓を見たことがあるか。山のように高いんだ。エジピトはすごい都市だったが、今じゃ草木が一本も生えていないそうだ。エベスト王、ラメンセブ三世は神と呼ばれていたんだぞ。神の墓を作るために山々から石を切り出して、草木が育たなくなってしまったらしい。」


ハンナゾーワの話を興味深く聞く、私に気をよくしたのか、ハンナゾーワの話は止まらなかった。

「君は、さっきヤソ・ケレセトの話を楽しんで聞いていたね。ヤソ・ケレセトに会ったことはあるのかい?」


私は知らないです、と答えた。


 「じゃあ、俺の噂は?」

 「噂だけなら…ええ…アスラ神を祀っていると…。噂ですが…」


ハンナゾーワの目が一瞬光り、ほぅ…とだけ言った。そして私を小高い丘に案内した。


「俺は君と会ったことがあるぞ。どこでだっけ?」

「いいえ、初めてです。あなた様の勘違いです。」


「そうか…」


ハンナゾーワは少し残念そうな顔をした。丘の上から眼下を見下ろすと、寺院まで小さく見えた。その遙か向こうに村や町が所々に見える。


「ヤソ・ケレセトの話を聞かせてやろう…。」


ハンナゾーワの顔が少し厳しくなった。
 「人売り?悪い人だねぇ。ハンナゾーワ様って、坊さんでしょ。」

ミムラの顔は怒りに燃えていた。

「孤児が増えすぎたんです。養いきれないほどに…食糧は、あっという間に無くなりました。ハンナゾーワ様は言いました、10人養うには、1人犠牲にするしかないと。取り分け優れた孤児を、選び出し、異教徒の富豪に養子に出して、金を受け取ったのです。」


私はミムラの話に疑問を持った。


「仕方ないんじゃないの?それは。」


ミムラは言った。


「私は納得出来ません。養子にでた先で酷い目にあってるかも知れない。異教徒に邪神を祀らされているかも知れない。わたしは、ハンナゾーワ様にいいました。もう、やめてくださいと。孤児は僧侶として育てましょうと。ハンナゾーワ様は私を無視して言いました。」

「あと一人だ。韓の果てに、倭国(古代日本の呼称)という国がある。金銀溢れる国らしい。巫女になれる女を、所望しているそうだ。あれがいい、スジャアタの姉、ヒミコに行かせよう。かなりの金になる。と。耳を疑いました。野の草の会はヒミコさんが主宰していたのです。更に嫌な噂を耳にしました。ハンナゾーワ様は昔、魔人と恐れられていたらしいのです。」



ミムラは、取り憑かれたように語り出した。あれは晴れ晴れとした青空の日でした。韓から使者が来たのです。ヒミコさんとスジャアタさんは別れを惜しみました。きっと会える日が来ると励ましあっていました。その時、韓の使者の一人が小声で言いました。ハンナがいる!邪神を祀る魔人がいる!といい、震え上がったのです。スジャアタさんには聞こえなかったようですが。私の知るハンナゾーワ様は聖人です。慈悲深い方です。ヒミコさんと別れたスジャアタさんは、それから変わってしまいました。姉妹揃って養女に行きたいという願いは、ハンナゾーワ様が却下しました。私にはわかりません。」


ミムラはそう言うと、スジャアタのそばに行き、励ましていた。

二人の話し声が聞こえてきた。

「もう一度、頼んでみます。あなたも、倭国王の養女になれるようにハンナゾーワ様に頼んでみます。だから、もう泣かないでください、お願いだからもう泣かないでください。」


ミムラは私が見ていることを気付かないのようだ。

帰って来たミムラに私は言ってやった。


「スジャアタがいなくなって、寂しくなるのは、あんただろ?一緒に倭国に逃げちまえばいいのに。」
ミムラは私を睨んだ。


「わたしは、僧侶ですから!孤児たちを養わなければいけませんから!
ミムラの目には涙が浮かんでいた。