「こんにちは~」「こんにちは~」

 

「おやおや。姉弟揃って相変わらず元気だこと。」

年の割には整った顔立ちで上品な笑顔のお婆さんが私達を出迎えてくれた。

 

『おばあちゃん!久しぶり!!』

姉弟揃って元気いっぱいに挨拶。

 

「久しぶりだね。よくここまで2人で来れたね。立派。立派。」

弟の頭を撫でながら

私たちのちょっとした旅路を労ってくれた。

 

弟は嬉しそうにニヤニヤしながら

おばあちゃんに抱きつく。

 

「どうって事ないよ!私ももう中学生だもの。」

 

私はおばあちゃんに

『もう子供じゃないよ』アピールをした。

 

「そうかい。そうかい。大きくなったね。」

おばあちゃんも私の気持ちを察してくれたのか

素直に合わせてくれた。

 

おばあちゃんの

私たちの事をしっかりと尊重してくれるところが

私は

とっても大好き。

 

「今日から1週間よろしくお願いします。」

私の言葉に弟が続く。

「よろしくお願いします!」

 

おばあちゃんは

ニコッと笑顔で応えてくれた。

 

今は夏休み。

 

その期間を利用して

姉弟2人で

母方のおばあちゃん家に1週間ほどお世話になることになった。

 

家は両親が同じ会社に勤めていて

丁度今日から1週間、両親揃って出張となった為

私たち子供だけでは不安だと

おばあちゃんの家に両親が帰ってくるまでの間

『是非、家に。』と

おばあちゃんが私たちを歓迎してくれた。

 

 

「あれ❔そういえば、おじいちゃん居ないみたいだけど、どこかに出掛けてるの❔」

家の中を見渡すが

おじいちゃんらしき姿が見当たらない。

 

「そうなんだよ。最近出掛けてはどこかで泊まってきたり

帰って来ても夜中とか。

何してるんだか聞いてもしっかり答えやしない。

困ったもんだよ。」

 

若干呆れたような、でも少し微笑みながら話すおばあちゃん。

 

(正直おじいちゃんの行動には物心ついた頃から驚かされる事ばかりだったな。

もし私がおばあちゃんの立場なら

堪忍袋なんていくつあっても足りないよ。

よくおばあちゃんは我慢できるな。

やっぱりスゴイや。)

私は

おばあちゃんの寛大さに、心から感心する。

 

「あんた達もここまで来るのに疲れただろうから少しは休みなさいな。」

 

「うん、、、でも後でおばあちゃんとお出掛けしたいところがあるんだ。

、、、いいかな❔」

 

「そうかい。おばあちゃんは大丈夫だよ。」

優しい笑顔で承諾してくれるおばあちゃん。

 

「やったね!お姉ちゃん!作戦成功!!」

はしゃぐ弟。

 

弟の言葉を聞いておばあちゃんが反応する。

 

「作戦、、、?」

 

「ばか!余計な事言わないの!」

 

「何だい❔作戦って❔」

 

「いやそれは、おばあちゃん家に来たら何とか一緒に行ってみたいところがあったんだよね。

それを元々話してたんだ。」

 

「そうかい。そうかい。早速みんなでお出掛けとは楽しみだね。」

私の説明におばあちゃんも納得してくれたようだ。

 

(危ない危ない。この計画は絶対にバレちゃいけないんだから。)

私は内心ヒヤヒヤして、うっすら変な汗が出て来た。

 

そして

小休止もとり、早速三人で出掛ける。

 

「なかなかあんた達と一緒に出掛けられる機会なんて無いんだから、おじいさんも一緒に来れれば良かったのに。」

 

「そうだね。きっと後で後悔するだろうね。」

 

そして

私達が目指した場所は、、、、海。

 

「わあああ。流石にこの時期となると人がいっぱいだけど海がほんと綺麗だね~」

私は久々の、この目の前に広がる海に感動した。

 

「♪♪♪」

一方の弟はテンションが上がり過ぎて言葉も出ないくらい。

 

「そうだね。ここには私も若い頃から何度も来てるけど、昔と変わらず良いところだね~。」

 

「そうなんだ!?もしかしておじいちゃんともよく来てたの❔」

さりげなく尋ねる。

 

おばあちゃんは一瞬目を丸くしたような表情だったが、すぐいつもの柔らかい表情に戻った。

「そうだね~。でも2人で来ていたのは大分前かな。若い頃はしょっちゅう来てたかな。

そういえば、おじいさんと出会ったのもこの場所だったね~。」

 

「えっ❔そうなの、どんな感じだったのか聞かせてよ。」

私はすかさずその話題に喰らい付く。

 

「大分前の事だからね~。ほとんど覚えていないよ。」

 

「そうなんだ~、でも少しくらいは覚えているでしょ。」

決して引き下がらない私。

 

おばあちゃんも私の攻めに諦めたようで

「まあね~。少しくらいなら覚えているかな。」

 

「そうあれはまだ私が女学生の時だから50年くらい前だったね。」

 

「元々私はこの近所に住んでてよく1人でこの場所に来ていたんだよ。」

「そんなある時だね。あの人に初めて会ったのは、、、、」

 

そう呟いたおばあちゃんの表情は何だか少し気恥ずかしそうだった。

 

すると

私の携帯電話が鳴る。

着信の相手は噂をすればのあの人だ。

 

 

 

ザザァーーー、ザザァーーーーーー

 

「ふぅー」

溜め息を吐きながら砂浜に座り込む。

 

(面白く無い訳じゃないんだけど、何だか退屈だな)

 

今日は男、女友達数人と海に来た。

 

この海は近所という事もあってよく1人でも来ることが多かった。

 

その目的というのは、最近よく目にするあの女の子。

 

今日も1人海岸を眺めている。

その表情は遠目からでも何だか寂しそうだなといつも感じていた。

と言っても

彼女は俺の事は気にも留めていないだろう。

 

すると

ビーチボールで遊んでいた連れの思い切ったアタックが大ホームラン。

 

彼女の目の前にビーチボールが転がっていった。

 

『すいませーん。とってもらっても良いですかーーー』

 

 

距離としては結構な距離。

内心「いやいや。どう考えてもこの距離は到底届かないだろ」と思ったが

次の瞬間。

 

彼女は思い切った振りかぶりから綺麗な放物線を描き

連れのところまでまさかのノーバウンド。

 

『おおぉーーーーー』

 

想定外の彼女の強肩ぶりに友人数人から声を揃えて驚きの声が上がる。

 

その声が届いたのか

彼女の表情は初めて見る笑顔だった。

 

丁度

僕の手には

これから開けるところだったジュース缶に手を掛けていた。

初めて見る彼女の笑顔に気を取られながら開けてしまったからか

吹き出す炭酸を思いっ切り浴びてしまった。

 

その僕の光景が彼女の目に入ったのか、僕の方を見て最初は呆気にとられていたが

その表情がまた笑顔に変わった。

 

それがきっかけで彼女も僕たちに加わって

よく遊ぶようになった。

僕は近所という事もあり

その海岸の海の家でバイトをしていた。

そのバイトも彼女は手伝ってくれて

彼女と過ごす時間が何よりかけがえのない時間と感じた。

 

今まで友人達と過ごして来た夏とは全く違う。

彼女のおかげか

彼女と遊んでいる時は自分でも恥ずかしくなるくらい満面の笑顔だったかもしれない。

 

一緒に遊んでいた友人の後日談だと

「あの子といる時のお前ときたら

太陽も負けるんじゃないと思うくらいキラキラした少年みたいな笑顔だったよ。」と言われた。

 

こんなに楽しい夏を過ごさせてくれた彼女。

意を決して

夏の終わりに告白した。

 

結果は

見事勝利!!

 

僕たちの時間がこれから始まる。

 

それから彼女と多くの時間を過ごし

彼女から奥さんになってくれた。

 

きっと僕たちは幸せになれる。

僕たちには追い風が吹いている。

 

その追い風を受けて

これからも彼女と一緒に前に進んでいくんだ。

 

そして

結婚したばかりの時

彼女と出会った海岸にやって来た。

 

「久しぶりだね。」

 

「そうだね。」

彼女はやさしい口調で答えた。

 

そんな彼女に向けて僕は宣言する。

「これからもずっと一緒に生きていこう。

そして家族が増えて、2人がおじいさんおばあさんになっても

こうして一緒に

またこの場所にあの頃の僕たちに会いにこよう。」

 

「、、、はい。」

彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えたが

表情は優しい笑顔こちらに微笑んでくれた。

 

その後

2人の子供が出来、家族の為にと必死で働いて来た。

そんな時が流れていく中で

少しずつ2人で過ごす時間は少なくなっていってしまった。

 

正直

あの海に誓った言葉も忘れてしまっていた。

僕は変わってしまったのかもしれない。

 

そして

ときは過ぎていき

60歳半ばを迎え、長く勤めてきた会社もとうとう定年退職となった。

 

その途端に肩の荷が降りたような、今後の老後について考えるようになった。

今まで仕事仕事で彼女と2人で過ごす時間も

ほとんど取る事が無くなってしまった事が

今になって

後悔を感じている自分がいる。

 

(これからは人生が終わるその時まで彼女との時間を大切にしよう。)

そう決心した事がきっかけになったのか

記憶の片隅に眠ってしまっていた

あの時の誓いを思い出す。

 

『今年の夏こそ、あの約束を果たす時だ。』

 

そう決心したタイミングで

ある連絡が入る。

 

孫達が娘夫婦の仕事の関係で少しの間

我が家で過ごす事になったと。

 

(、、、そうか!これはチャンスだ!)

 

そして

今年の夏、あの時の約束を果たす為の計画が始まった。

 

「ふぅーーー、やっと終わった! よしこれで準備万端!」

最近弱くなってしまった腰に手を掛け一息つく。

 

そして善は急げで孫娘に電話を掛ける。

 

「なかなか出ないな。予定通りこっちに向かっているのか❔」

不安な気持ちになりながら孫娘の電話を鳴らす。

 

「もしもし」

 

(やっと出た!)

 

「もしもしじゃあない。出るの遅いじゃないか!心配したぞ。

もうこっちに着いたのか❔」

 

「うん。予定の時間よりちょっと早くなっちゃったけど、着いたよ。」

 

「よし。でかした!すぐ向かいに行くから、ちょっと待っとってくれ。」

 

「うん。分かった。」

 

逸る気持ちを必死に抑え、孫娘がいる場所まで早足で向かう。

ただでさえ歩きづらい砂浜の上を普段よりも何割り増しくらいかの速度で歩いていく。

 

そして

とうとう目に映るところまで来た。

 

「おーい!」

 

大声で呼びかける。

 

「あっ!おじいちゃん!」

 

孫娘がさり気なくこちらに手を振ってくれた。

 

(なかなか自然な演技じゃないか。)

 

すると孫息子も合わせて大きな声で呼んでくれた。

 

「おじいちゃーーーーん!」

 

孫息子もさり気ない感じがよく出ている。

 

(2人ともなかなかの役者じやないか。)

 

「まさかと思ったが、ここに来ていたのか❔儂も知り合いと待ち合わせて丁度来ておったんだ。

すると遠目でもお前達の姿を見かけて

まさかと思ったが。」

 

『うん!!』

 

孫娘と孫息子の止めの演技。

 

「ほんと、奇遇だねえ。」

 

若干驚いた表情を見せるがすぐいつもの優しい表情に戻る婆さん。

 

「いやはや。ほんと見事な偶然じゃなあ」

 

そして

皆で少し談笑しながら過ごす。

 

それから話のネタが無くなってきた頃合いで皆に呼び掛ける。

 

「そろそろお腹も空いてきた頃だろう。近くの海の家で少しだけでもお腹に入れようとするか❔」

 

『うん!!』

気持ちいいくらいの返事をくれる孫達。

婆さんは

表情で賛成とばかりに

またまた優しい笑顔で一言。

「いいね~」

と答えてくれた。

 

そして

遂に目的地に到着した。

 

内装はカラフルな花が至る場所に飾っているハワイアンテイストな感じ。

 

「素敵なところだね。でも店員さんは誰もいないのかね。」

 

婆さんが不安そうに呟く。

 

「そうじゃの~、ちょっと奥まで見てみるかの~」

その言葉を残し奥にある扉をあけて

その中に入っていく。

 

後ろから婆さんの声が聞こえたがここで引き返したら先に進まない。

 

それから数分後、儂はある物を手にして婆さんのところへ向かう。

 

「待たせたの~。」

 

儂の声に気付き婆さんがなかなかの反応速度でこちらに顔を向ける。

 

「随分、遅かったじゃないか。大丈夫だったかい❔」

 

「大丈夫。大丈夫。」

儂は何事もなかったように答える。

 

そして

次の瞬間、婆さんへある物を手渡した。

 

それは、、、、、

袋の中に入ったエプロン。

 

「、、、、、❔」

婆さんは流石にまだ真意を掴めないと言った表情。

 

「そらそら。婆さんはこれに着替えてくれないと。

これから下ごしらえがあるんだからな~。」

 

「、、、!?」

婆さんは口を開く。

 

「まさかココは爺さんのお店なのかい❔」

 

「さすが婆さん!大正解だよ♪」

 

そして

このまま婆さんへ賛辞を送る。

 

「まさか、、、、」

 

婆さんも気付いてくれたよう。

 

「その通り!ココは儂と婆さんの海の家だよ。あの頃の約束を今果たしたんだよ!!」

 

「なんだ。そうかい、そうかい。全く、、、これはしてやられたよ。」

婆さんは半分呆れたように、ただ表情は儂が言うのも何だが

とてもつなく綺麗な表情だった。

 

「さあさあ。メニューも食材も準備万端だから

そろそろ準備に取り掛かろうじゃないか!」

 

その掛け声に婆さんも張り切ったように身体にエプロンを掛ける。

 

「お爺さん。覚えててくれてありがとう。」

婆さんは気恥ずかしそうに言う。

 

流石に儂も恥ずかしい。

 

「こちらこそ今までありがとう。儂らの第二の青春が今日ここから始まるんだよ。

これからもよろしく。」

 

「、、、はい。」

小さい声だが満面の笑みで答えてくれた婆さん。

 

そして

儂は孫達にGooサインを向ける。

 

(今回は孫達にも助けてもらったわい。婆さんのおかげいい家族にも恵まれて

ほんと幸せじゃ。)

 

すると一筋の風が流れてくる。

 

そして

ここから始まる新たな青春。