「乙女の祈り」(1994) 監督/ピーター・ジャクソン

出演/メラニー・リンスキー、ケイト・ウォンスレット、サラ・パース 他

◆女子高に通うポウリーンとイギリスからの転校生・ジュリエットはお互いの鋭い感性に惹かれあい親友となる。
二人は空想の中で作り上げた「ボロヴィニア王国」という架空の国にのめり込み、他人には理解不能な強固な絆を築き上げる。
やがて、二人の関係を怪しんだジュリエットの父は、ポウリーンの母に薦め精神科医のカウンセリングを受けさせる。医師により「同性愛」と診断され、交際を禁じられたことでポウリーンは母への憎悪を募らせる。
ジュリエットが両親の離婚を機に南アフリカへ行くことが決定したとき、「母親さえいなければ、ジュリエットとともに南アフリカに行ける」と思いつめたポウリーンは母の殺害を決心、彼女は愛するジュリエットから手渡されたレンガを振りかざす。

オススメ度 ★★★★★★★★★9

憂鬱になる度 ★★★★★★★★★9

◆1954年にニュージーランドのクライストチャーチを震撼させた事件の映画化。

「バッド・テイスト」「ブレインデッド」に代表される血みどろ内臓ぐちゃぐちゃスプラッタコメディの天才、ピーター・ジャクソンだが、批評家連中からはメタクソにこき下ろされ、それにご立腹されたのか「ナメてんじゃねえぞ俺がちょっと本気を出せばテメエらのクズみてえな批評能力は1秒後にでも地獄にひれ伏すんだぜえ!」とは別に言わなかったが、まあおおむねそんな感じで、この「乙女の祈り」というなんとも繊細かつ狂気的な美しい物語を作って、いろんな賞を総なめにして本当に批評家連中をあざ笑いなすったという逸話(笑)。その精神はその後「ロード・オブ・ザ・リング」の監督を果たすにまで昇華…本当に全く違う方向に突っ走るベクトルの両方を理解し面白い作品を産み出すことのできる天才である。

で、この「乙女の祈り」はまあホラーというのとはちょっと違うが、なんかどうでもいいホラーなんかより全然精神的ダメージを受ける恐ろしい映画なのでこんなもんはもうホラーとして紹介してやるう! でもそれだけ観ていて苦しくなるというのはやはり作り手からすれば「してやったり」なので、これが完璧な映画だという証拠でしょう。
無論少女だった時代もあった病笑さん、そしてこの映画の少女達のようにどちらかというと自分の世界に閉じこもってそこで一人楽しんでいる暗い奴だったので、なんとなくシンパシーを覚える(笑)。
思い込みの激しさと思い込みの激しさが合体すると、もはや他人には踏み込めぬ鉄壁の要塞と化してしまう。そこを荒らそうと門を無理やり開けようものなら、瞬時に矢も鉄砲玉も飛んできて剥き出しの憎悪に頭の中も蹂躙されるだろう。かくも思春期というのは難しい、恐ろしい……。とにかく、何も解決するとは思えないのに母親さえいなければ……と思い込んで本当に何の罪もない母親を殺害してしまう、という狂いぶりと悲劇ぶりは観ていて痛々しい。(03/2/25)