【メカラウロコ】

 

 

 

●まえがき●
ココは都内にある小さなデザイン事務所。
その中で働いている2人は先輩と後輩の関係。

世間は5月のGW真っただなか。
2人は休日出勤で仕事に追われている・・・のだが、どうも後輩の様子がおかしい。

先輩はその原因と解決方法を見つけ出そうとする。

さてこの話、最後に「落ちた」のは一体・・・

■□■□■□■


    【明転】


後輩
「はぁ~~(ため息)」
先輩「ココの部分、修正しておいて」(原稿をわたす)
後輩「わかりました。はぁ~~(ため息)」
先輩「・・・お前さ、最近様子おかしいぞ」
後輩「そうですか?はぁ~~(ため息)」
先輩「ほらそのため息とか。全然こころここにあらずって感じで仕事になってないじゃん」

後輩「やっぱり先輩にはわかりますか?」

「当たり前だろ。ほぼ毎日お前の様子見てるわけだから。悩みあるならなんでも言ってみな」
後輩

「実は、ボク・・・」
先輩

「実は、どうした?」
後輩

「最近全然こころここにあらずって感じで仕事になってないんですよ」
先輩

「まんま言ったよね。それ」
後輩

「そうでしたっけ?はぁ~~(ため息)」
先輩

「ダメだおまえ重傷だわ。原因不明、心の病」

後輩

「どうしましょう?」

先輩

「仕事に集中して忘れるのが一番だよ仕事に。せっかくGW返上で仕事しているわけだからな」
後輩

「そうですよね!よし仕事仕事!」

プルルルルッ プルルルルッ(携帯が鳴る)

先輩

「ん?携帯鳴ってるぞ?」
後輩

「あ、すいません。LINEです」(内容を確認だけして携帯を閉じる)
先輩

「めずらしいな。おまえが携帯いじってる姿なんてあんまり見ないよな」
後輩

「3ヶ月くらい前から取引先の担当が変わったんですよ」

先輩

「それのやり取り?」

後輩「そうです。女性の担当者に変わったんですよ」

先輩

「女性なんだ。お前初めてじゃないか?担当が異性って」

後輩

「はい。しかも新卒の女の子なんですよ。だからわかんない事あったら気軽に聞いてって言ってLINE交換したんです」
先輩

「へー。女っ気ゼロのお前が自分からアドレスを交換するとはは意外だな」

後輩

「そこは仕事ですから」
先輩

「今の返信しなくていいのか?何」
後輩

「仕事の内容じゃなかったんで大丈夫です」

先輩

「仕事の内容じゃない?」

後輩

「相手は今日休みなんでプライベートな内容でした。だって世間はGWですよ」
先輩

「プライベートでもメールしてんだ。いいじゃん。返信しちゃえよ」
後輩

「だ、ダメですよ!」

先輩

「なんで?」

後輩

「今は仕事中ですよ!?集中しなきゃ集中!!(スマホにチラッと目をやる)」

先輩

「・・・あ・・・もしかして・・・」

後輩

「な、なんですか!?」

先輩

「わかりましたお前の心のやまい」
後輩

「わかったんですか?僕のやまいの原因」
先輩

「さっきも言ったろ。これだけ毎日一緒に仕事してるんだ。おまえの事なんておれが一番よくわかってるよ」
後輩

「教えてくださいよ」
先輩

「でもなぁ。こう言うのってなかなか本人は認めないからなぁ」
後輩

「いやいやいや、ちゃんと受け止めます」

先輩

「そう言っときながら、否定するんだよなぁ」

後輩

「そんなことありません!このままじゃ先輩とか色んな方にも迷惑かけるんで教えてください」
先輩

「わかった。んじゃズバリいうな。お前それね、恋だよ。恋。恋に落ちたんだよお前は」
後輩

「な、なに言ってるんですか。そんなわけないですよ!」
先輩

「ほら。否定した」

後輩

「すみません!いや、でも・・・ボクみたいなものが・・」

先輩

「こういうのはな、本人はなかなか自覚しないもんだ」
後輩

「自分にかぎってそんな事はないと思うんですが・・」
先輩

「そう言ってるヤツほどそうなんだって。恋は盲目って言うからな」
後輩

「目が見えなくなるんですか!?」
先輩

「そういう直接的な意味じゃなくて。恋に落ちると理性が失われて周りがみえない言動をしてしまうってこと。だからまずは自分で認めな」
後輩

「認める・・・んですか」
先輩

「そうだ。そうすることで次に進めるから」
後輩

「・・・わかりました。認めます」
先輩

「よし!よく言えた。それじゃまず自分で宣言しな。『私は、恋におちました』って」

後輩

「私は・・・私は・・・」

先輩

「言い切れって。随分とラクになるから」

 

(後輩、息を思い切り吸って)

 

後輩

「鯉に落ちましたっ!!!」
先輩

「いい思い切りだ!!お前にも人間らしいトコロあるんだな。恋に落ちるなんて!」
後輩

「人間だったのになぁ・・・まさか鯉に落ちるなんて!」
先輩

「ほら少しラクになっただろ?」
後輩

「凄い事をカミングアウトした感は多少ありますが、確かに少し楽になった気がします」
先輩

「がんばれ!恋を経験することで、オトナへとなるわけだからな!」
後輩

「え!?いちど鯉に落ちてもオトナへなれるチャンスがあるんですか!?」

 

後輩

「私は・・・私は・・・」

先輩

「言い切れって。随分とラクになるから」

 

(後輩、息を思い切り吸って)

 

後輩

「鯉に落ちましたっ!!!」
先輩

「いい思い切りだ!!お前にも人間らしいトコロあるんだな。恋に落ちるなんて!」

 

 

 

後輩

「人間だったのになぁ・・・まさか鯉に落ちるなんて!」
先輩

「ほら少しラクになっただろ?」
後輩

「凄い事をカミングアウトした感は多少ありますが、確かに少し楽になった気がします」
先輩

「がんばれ!恋を経験することで、オトナへとなるわけだからな」
後輩

「え!?いちど鯉に落ちてもオトナへなれるチャンスがあるんですか?」

先輩

「あたり前だろ。恋に落ちたとき、人間『真価』を問われるといっても過言ではない。それを経験することでみんなオトナになるんだ」
後輩

「鯉に落ちてからの人間への『進化』かぁ・・初めて知りました!」
先輩

「あれ?お前まさか初めて?」
後輩

「あたり前ですよ!」
先輩

「え!?初恋!?」
後輩

「ええ初鯉です!」
先輩

「おそっ!!おまえ今年27才だよね?27で初恋!?」
後輩

「いや初鯉の相場がそもそもわかんないんですが・・・先輩はいつだったんですか?」
先輩

「小学2年生のときかな」
後輩

「はやっ!!小2で鯉!?だ、大丈夫でした!?

先輩

「大丈夫ってなにが?」

後輩

「そう言うのって、イジメられませんでした!?」
先輩

「いやぁ、ああいう時期ってなんか照れてしまって逆にちょっかいとか出してたなぁ」
後輩

「えぇ!?小2で鯉に落ちてちょっかいを出すってどれだけメンタル強いんすか!?」
先輩

「結構フツーだと思うけどな」
後輩

「あの、ボク鯉に落ちたことってやっぱ実家の両親に知らせておいた方がいいんですかね?」
先輩

「いい年して大袈裟すぎるだろ」
後輩

「確かに親に会わせる顔がないですよね。人鯉しいとはこの事かぁ・・・」
先輩

「実家って確か四国だっけ?全然帰ってないって言ってたよな。東京で成功して故郷に錦を飾るんだろ?」
後輩

「はい。そのつもりだったのに錦を飾るどころか自分が錦になるなんて」
先輩

「明日からGWなんだし、帰省すれば?」
後輩

「いや、やっぱやめます。この時期に鯉に落ちた状態で帰ったら、ながーい棒の上の方で風になびく感じで吊るされてしまいますから」
先輩

「スゴい風習だなおまえの実家!」

後輩

「田舎じゃまだ当たり前な風景ですよ」

先輩

「と言うか、相手はどんな人なんだ?」
後輩

「・・・相手というと?」
先輩

「とぼけんなよ。おまえの恋泥棒はどんな人なの??画像とかないの??」
後輩

「こ、鯉泥棒!?」え!?拉致!?」
先輩

「犯罪じゃねぇかよそれじゃ。なんかこう比喩であるだろそう言う言葉」


プルルルルッ プルルルルッ(携帯が鳴る)
プルルルルッ プルルルルッ(携帯が鳴る)


後輩

「あ、また彼女から。今度は電話だ」
先輩「おい!でろよ!その娘なんだろ!?」
後輩「いやいいですよ。仕事中ですし」
先輩「でて告白しろ!」
後輩「告白!?え、カミングアウト!?急にですか!?」

先輩「このタイミングだよ」

後輩

「『ボク、鯉に落ちました』ってですか!?」
先輩

「言い方はまかせるけど今ぜったい告白した方がいいって!オレの直感だと相手もきっとそうだから!」
後輩

「えぇ!?相手も!?ブームすか!?鯉ブームなんすか!?」
先輩

「ああ!お互い恋に落ちた瞬間からある意味毎日が恋ブームかもな!ヒューヒュー!早く電話でろって!切れちゃうだろ!」

 

後輩「あ、も、もしもしあのさ、じ、実は大事な話があって・・・(口をパクパクさせる)」
先輩「(小声で)おい!・・・続き続き!」

(後輩、電話を切ってしまう)

先輩

「なんで切っちゃうんだよ!全然伝えてないじゃん!」
後輩

「・・・あれ、なんかおかしいな・・・大事な話をしようとすると、スゴく心臓がバクバクして・・・」

先輩

「いや口がパクパクしてただけだろ!早くかけなおせって!」
後輩

「あ、はい!(電話をかけなおす)・・・あ!もしもし!さっきはごめん!実は・・・」
先輩

「(小声で)よし!いけいけ!」

後輩

「あ、あの・・・・・・」

(後輩、電話を切ってしまう)
 

先輩

「おい!」

後輩

「だ、ダメだ!もはや相手の声を少し聞くだけでスゴく緊張して心臓が張り裂けそうだ!」

先輩

「何でスグ切っちゃうんだよ!?あ!しかも携帯の電池なくなってんじゃん!電話できねぇじゃん!」

(感情が高まって先輩の声が耳に入ってこない後輩)
(感情が高まって後輩が聞いてないことに気付かない先輩)

後輩

「緊張じゃないな・・・なんだろうこの感情は!!今までフツーに話せてたのに!!」
先輩

「おまえ口パクパクしてるだけで全然言葉でてねぇよ!メンタル弱すぎ!」
後輩

先輩「と言うかお前!現実でテンパって口パクパクさせるヤツなんて初めて見たわ!」

二人「!?」

後輩「そうか!そうだったのか!わかった!」

先輩「口をパクパクっておまえまるで・・・」
後輩「心のやまいの原因は・・・」

 

先輩「鯉じゃねぇか!」

後輩「恋だったんだ!」




     【暗転】


■□■

 

 

                    

                      【GW】



■□■□


三島
「そう言えばGWって何するの?」

野田
「特に予定はたってない。お前は?」

三島
「僕も全然」

野田
「あれ、そう言えばお前サービス業だから土日祝が休みとれないんだよな」

三島
「今まではそうだったんだけど、僕4月から転職したんだ」

野田
「あ、そうなんだ」

三島
「それで新しい仕事先が平日週5勤務でさ、休みも暦通りなの」

野田
「もう今までと生活スタイルが真逆だ」

三島
「そう。だからGWの過ごし方がイマイチピンと来なくて。実際周りの人達はどうやって過ごしてるんだっけな?って」

野田
「そうだなぁ・・ちなみにGWは何連休?」

三島
「5連休」

野田
「5連休あれば何でもできるぞ。海外旅行とかは?」

三島
「海外旅行か・・あれって逆に疲れそうじゃない?海外とかもう何年も行ってないし」

野田
「場所にもよるけど確かにそれはあるかもな。んじゃ国内は?温泉とか」

三島
「それはいいかもなぁ。手軽だし癒されるし」

野田
「ちょっとネットで調べてみようか?」

三島
「おぉ助かるよ!僕ネット関連あんまり得意じゃないから」

野田
「・・・あぁー・・ダメだ」

三島
「ダメ?」

野田
「もうこの時期だとどこもいっぱいだ」

三島
「GWは国内旅行でもそんな人気なんだ」

野田
「今はもう海外からの旅行客が凄いんだわ」

三島
「確かにここ数年海外から日本への観光客、相当増えてるよね。ニュースでもよくやってる」

野田
「まぁな。GWとなると特に何倍にも増えるからな」

三島
「そっか。・・・でも海外の人ってGWは関係ないんじゃないの?」

野田
「なんで?連休の方が日本に長く滞在できるわけだから来やすいでしょ」

三島
「そう言う意味じゃなくて、GWって日本の文化だから海外の人は普通に・・・」

野田
「お前マジで言ってんの?」

三島
「え?」

野田
「GWだぜ?ゴールデン・ウィーク」

三島
「うん」

野田
「ゴールデン・ウィークはあっち(海外)からこっち(日本)よ」

三島
「・・と言うと?もともとの発祥は海外ってこと?」

野田
「輸入品」

三島
「輸入品!?」

野田
「おうよ。GWを『黄金週間』とは言わないだろ?」

三島
「た、確かに。今までてっきり『子供の日とか『みどりの日』とかをくっつけて大型連休にしたのかと」

野田
「あんなの後付けだよ。『みどりの日』とかもう意味わかんないだろ」

三島
「でもまさか日本は輸入国だとは知ってたけど暦まで輸入しているとは・・・」

野田
「これも時代の流れよ」

三島
「時代の流れかぁ。そう言えばGWっていつぐらいに輸入されてきたの?自分が物心ついた時には
もうあったような・・・」

野田
「お前『オイルショック』って聞いたことある?」

三島
「なんか社会科で習った事ある気がする。具体的にはよくわからないけど・・・」

野田
「オイルショックが何かって簡単におさらいすると『オイルが輸入できなくなった』わけ」

三島
「オイル?」

野田
「そう。日本語で言う『油』。それでもう日本中が大騒ぎになって。『オイルがない!』『オイルがぁ!』って国民中が大きなショックを受けた、これが『オイルショック』な」

三島
「なんで輸入できなくなったの?」

野田
「オイル重いから」

三島
「意外と理由シンプル」

野田
「もう日本国民の士気はダダ下がりよ」

三島
「・・でも、日本国民中がショックになるほど困るのかな?オイルがなくなるだけで」

野田
「お前、『から揚げ、ラーメン、天ぷら、野菜炒め、チャーハン、とんかつ・・・etc』この中で好きな食べ物ある?」

三島
「そりゃ全部大好きだよ」

野田
「油がなかったら?」

三島
「!?」

野田
「そういう事」

三島
「なんてこった・・・」

野田
「ほら、そう落ち込むな。顔を上げろ。当時オイルショックだった人達はお前のその何倍もショックだったんだぜ」

三島
「立ち直れないなぁ・・」

野田
「そこでだ!日本政府も馬鹿じゃない。『油が重くて運べないなら一度に運ぶ人数を増やせばいい』と言う画期的な政策が練られた」

三島
「いよっ!待ってました!」

野田
「これを『引っ越しのお兄さん1人より2人来てくれた方が断然はかどるし』法案として可決し実行された」

三島
「さすが日本政府!解決手段に無駄がない!」

野田
「ただ、ここで1つこの法案で問題が発生した」

三島
「え!?ここに来て」

野田
「引越しのお兄さんの人数を集めるためにはまず求人をかけないといけない。求人をかけるには掲載料も確保しないといけない。つまり即解決とまでにはいかず、ある程度は時間がかかってしまう」

三島
「その間、国民の士気はどんどん下がって行きますね・・・労働意欲もなくして経済が悪化していく・・・やっぱダメか・・・」

野田
「そう誰もが思った矢先、またもや日本政府は超画期的な打開策を打ち出す」

三島
「政府、キレッキレ!どんな打開策!?」

野田
「『油が重いならこちらが人員を確保し、運び出す。その交換条件として『あるもの』を輸入させてくれ』と。この交渉が見事成立」

三島
「その『あるもの』とは・・?」

野田
「気になるか?」

三島
「そりゃ気になるとも。輸入するものが増えたらまた人員が必要じゃないか!」

野田
「フフフッ」

三島
「何がおかしい!だってそうだろ!?」

野田
「お前、今、目の前にあるペットボトルあるよな?持ってみ」

三島
「急に話をそらさないでくれ!」

野田
「いいから持って!」

三島
「(ペットボトルを持つ)」

野田
「どうだ?重さを感じるか?」

三島
「未開封なんで多少は」

野田
「今日は何曜日だ?」

三島
「また急にどういうことだ!?話が全く見えない!」

野田
「いいから。今日は何曜日だ?」

三島
「・・・今日は、日曜日」

野田
「持ってみ」

三島
「は?」

野田
「日曜日を持ってみ」

三島
「え?日曜日を持つって・・」

野田
「いいから両手を広げて上に持ち上げてみ!」

三島
「こうか?(両手を上にあげる)」

野田
「重さは感じるか?」

三島
「いや全然。だって曜日には物体がないですから・・・!?・・・」

野田
「やっと気付いたか」

三島
「ま、まさかオイルを運ぶための繋ぎとして輸入された『あるもの』というのが」

野田
「『暦』ってわけだ」

三島
「まさかその・・・」


野田「暦の名は・・・」
三島「暦の名は・・・」



二人「ゴールデン・ウィーク」


野田
「このゴールデン・ウィークによって日本国民はストレスから解放され、オイルショックから立ち直ることができた。やがてオイルの供給も安定し、オイルショックは終息に向かう」

三島
「そこで日本はゴールデン・ウィークをその名残りとして残したわけですね」

野田
「デメリットはないからな」

三島
「いやぁ、勉強になりました。今までGWは仕事が当たり前だったんで、起源なんて考えてもみなかったです」

野田
「意外と知らない人多いみたいだな」

三島
「他の人に教えたくなっちゃいますね」

野田
「あ、そう言えば結局今年のGWどうすんだよお前。話はもともとそこだろ?」

三島
「確かにそうでした!・・・んー今年はもう手軽にBBQとかして後はゴロゴロしようかなぁ」

野田
「BBQかぁ・・いいじゃん!時期的にもちょうどいいよ。BBQはどのスタイル?」

三島
「・・どのスタイルかというと?」

野田
「L.A式BBQとかアフリカン式、カスピ海式、ローマ、マヤ、色々あるけど・・?」

三島
「え!?ってことは、BBQももしかして輸入品」

野田
「いや、逆」

三島
「逆輸入」

野田
「逆輸入!?」

三島
「そう。日本で発祥して1回向こう(海外)に行ってまた戻ってきた」

野田
「BBQが!?てっきりアメリカとかの文化かと・・一体どういう経路で・・」

三島
「BBQの発祥ってことか?」

野田
「うん」

三島
「そうだなぁ・・時は戦国時代の真っ只中。1467年に応仁の乱という大きな戦が・・・」



■□■□
 

 

 

 



                                                <終>

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

                   【全部言うヤツ】



□■□



ティーーーン


・41階
エレベーターが開き乗り込む黒田


・40階

・39階

ティーーーン


・38階  
エレベーターが開き乗り込む白谷


黒田
「おう白谷。今日は定時上がり?お前の部署にしては珍しくないか?」
白谷
「久しぶりだな。今日ウチのフロア水曜日だからノー残業デーなんだよ」
黒田
「なるほどね」

・37階

・36階

白谷
「そう言う黒田の部署も定時に帰れるような時期じゃないだろ?」
黒田
「・・・んー、ちょっと早く帰りたい気分でさ。あれ?お前なんなのその大量の荷物」
白谷
「コレ?いやいや、ほら俺移動になったじゃん。福岡支店に。今日が東京本社最後の出勤日だからその荷物。これで全部」
黒田
「あ、今日が最後だっけ?また同期が減ると寂しくなるな。福岡でもがんばれよ」
白谷
「おう。ありがと。お前もな」

・34階

・33階

・32階

白谷
「え?あれ?今日来るんだよね?」
黒田
「・・なにが?」
白谷
「送別会」
黒田
「誰の?」
白谷
「俺の送別会だよ!同じ部署の人達とあとお前を含めた同期も誘ってたじゃん!」
黒田
「あー。なんか確かに同期の福本から連絡あったけど強制?その送別会って」
白谷
「え、言わせる?そう言うの。大体わかるでしょ?」
黒田
「わかるって?」
白谷
「いや強制ってわけじゃないけど参加しなきゃ、みたいな。しかも同期だぞ!一番参加すべきだろむしろ」

・31階

・30階

黒田
「怒ってるの?」
白谷
「怒ってねぇーよ!!なんなの?嫌い?俺のこと嫌いだった?もうこの際だからハッキリ言って」
黒田
「いや、白谷の事は嫌いではないよ」
白谷
「んじゃ来いよ!送別会」
黒田
「好きでもない。つまり、無」
白谷
「ム?・・まさか無関心ってこと?」
黒田
「無関心というかなんかこう、同期の連中の中で唯一会話が合わないと言うか変な気を使っちゃうし、お前の私服見た時も全然好きじゃないタイプだったし、でも先輩から可愛がられて後輩からもいい感じでイジられ役として立ち回ってて偉いなというか羨ましいと思うよ。ただ夏場とか特に酸っぱいニオイするのと、あと口が臭い。だからこう、好きな部分と嫌いな部分が相殺されゼロ。つまり、無」
白谷
「・・・久しぶりだったから忘れてたよ。お前相変わらずだな。全部言うんだな」
黒田
「そう?あと髪のツヤが無駄に良いのが意味わかんない」
白谷
「髪のツヤまで全部言う!?・・そんなに口臭い?」
黒田
「排泄物は口から出す人種かな?ぐらいかな」
白谷
「・・・妖怪の類いだろソレ」

・29階

・28階

・27階

黒田
「あ、そうだそう言えば福本から送別会の連絡が来たときに『白谷には絶対に言わないで』って言われたんだけど実は・・・」
白谷
「え、言うの!?『絶対に言わないで』じゃないの!?」
黒田
「お前、今日誕生日だろ?」
白谷
「・・黒田・・・なんだかんだ憶えててくれてたんだ!」
黒田
「いや、福本がそう言ってたから。俺は『無』だから」
白谷
「そこは『憶えてた』でいいだろうよ!」
黒田
「それで、サプライズあるから」
白谷
「サプライズ?」
黒田
「そう。簡単に流れ言うと、送別会で盛り上がり、締めで部署や同期からひとりひとり餞別の言葉があります。その後、みんなからの寄せ書きのプレゼント」
白谷
「言う!?サプライズの流れ全部言う」
黒田
「本当のサプライズはここからで、送別会の締めくくりとしてお前に最後挨拶してもらった直後、貸し切りの部屋が真っ暗になるから。そこからしばらくしてハッピーバースデーの音楽とともにケーキ登場。お誕生日会となって笑顔でお前を送別するってわけ。素敵だろ?」
白谷
「うれしいけど!!え、でも言う!?演出的なところまで今全部言う!?」
黒田
「演出的な的ところだと、暗くなったタイミングでみんなパーティーグッズ用意するから。福本が持ってくるシルバーのキャリーバッグの中にはクラッカーやら鼻メガネやら入ってるけど、チラチラ見たり気にしたりするなよ」
白谷
「絶対に意識しちゃうだろ!そこまで言われたら!」

・26階

・25階

黒田
「たぶん福本の事だから真っ暗闇にしたと思ってるけど部屋の間接照明は消し忘れてうっすらみんなの動きが見えてるから。お前は暗闇の体(テイ)をなすために目を閉じてて」
白谷
「セルフ!?暗闇セルフ!?」
黒田
「お前はその暗闇の間に、デッカイ蝶ネクタイと三角帽子と『本日の主役』って書かれたタスキがかけられるから、気付かない体(テイ)はキープで」
白谷
「言う!?それも今俺に言っちゃうの!?その3大パーティーセット取りつけられてるのに気付かないのムリだろ!」
黒田
「そこで部屋が明るくなってみんなのクラッカーがパーーン!!みんなからの『お誕生日おめでとーーー!!』そこでお前は今日イチのリアクションどうぞ」
白谷
「ムリムリムリ!!そこまで知っちゃってたらムリ!リアクションより恥ずかしさが勝つ!」
黒田
「そうか?知ってた方がいいかなぁって」

・24階

白谷
「・・と言うかやって貰う身としてはおこがましいんだけど、その誕生日サプライズ結構・・雑じゃない?」
黒田
「人柄じゃない?」
白谷
「言うなそういう事!」
黒田
「福本もパーティーグッズ揃えるのに『東急ハンズ?当日ドンキ行きゃなんとかなるっしょ』っていってたし」
白谷
「・・・人柄かな・・・」

・23階

・22階

・21階


ゴトッ


白谷
「んで、お前は来るんだろ?ここまで全部言ったんだからせめて誕生日会のときには顔を出せよ」
黒田
「んー。俺は・・・・」
白谷
「いや、ここまできたらもう強制だよ!絶対来いよ!」
黒田
「んー・・・・・」

・20階

・19階

ゴトッ


白谷
「なんか音がした?」
黒谷
「んー・・・・やっぱ俺は今日はちょっとどうしても」
白谷
「え、なにそれじゃお前は俺を『がんばれよ』の送別の言葉も『お誕生日おめでとう』の言葉もなくサッと去るわけ?」
黒田
「白谷、お誕生日おめでとう。そして福岡でも、がんばれよ。いい仲間だった」
白谷
「それは言っちゃうのかよ・・・それ言っちゃったら本当に来ないパターンじゃん・・・」
黒田
「本当に行けないからさ、今全部言っただけだよ」


バコッ


白谷
「ん?また?と言うか定時の時間ってこんなにも利用しないもんなんだな。他のみんな」
黒田
「できないんだよ」
白谷
「できない?」
黒田
「さっきの音で3つ目」
白谷
「・・なんの話だ?」
黒田
「現状」
白谷
「は?このエレベーターとさっきの音に関係があるってこと?」
黒田
「1つ目の音でメインの安全装置に支障が出て緊急停止するハズだった」

・18階

・17階

・16階

白谷
「・・実際には動いてるじゃねぇか」
黒田
「安全装置ってのはもしものために3重にも4重にもできてる。それの3本がイカれたってことだから外部から止められない」
白谷
「お前なぁ、縁起でもねえこと言うなよ!大体このご時世に最新の超高層高速エレベーターが落ちるなんて日本じゃ考えられねぇよ!」
黒田
「そうだよな。毎日乗ってる通勤電車がまさか脱線するとは思わないもんな」

・15階

白谷
「・・・そ、それに、2人しか乗ってない!最悪1つでも作動すれば止まるだろ!?」
黒田
「現実的には2人の体重+1トン近くの15人乗りエレベーターを1本で支えてる。それ×想像を絶せる重力」
白谷
「た、例えばだぞ!?例えば4つ目の安全装置が壊れたら・・?」
黒田
「落下」
白谷
「らっ・・落下ってどういう事だよ!」
黒田
「『落下』って言うのはニュートンと言う学者がリンゴの木から実が落ちるのを見て発見したと言われた万有引力の・・」
白谷
「落下の説明はいいよ!知ってるよ!と言うかなんでお前はそんなに冷静なんだよ!なんか言えよ!全部言えよ!そういうヤツだろ!」
黒田
「やっぱりダメか。『運は変えられる 運命には逆らえない』どうやっても」
白谷
「・・・何を言って・・・」

・14階

ミシミシミシミシ


白谷
「・・お、おい!もしかしてこの音、4つ目の安全装置が・・・」
黒田
「俺はどうやら後者の方だったみたいだ」
白谷
「さっきから何言ってる!全部言え!」
黒田
「全部言ってるよ。それと、お前は俺の事ずっと『全部言うヤツ』って思ってるけど違うよ。『全部知っちゃうヤツ』なだけだ」


ミシミシミシミシ

白谷
「お、おい!揺れてる!!どうなるんだよ!このまま俺たち死んじゃうのかよ!」
黒田
「安心しろ。お前は前者。運命をも凌駕する超強運の持ち主」
白谷
「え?」
黒田
「だから、奇跡的にほぼ無傷で助かる」
白谷
「・・本当かよ!!俺たち助かるんだな!?信じていいんだな!?」
黒田
「ああ」
白谷
「・・ちょっと待て『お前は』って、黒田お前自身は・・」
黒田
「何回繰り返しても、俺はどうやら逆らえないみたいだ。運命には」
白谷
「お、おい冗談よせよ」


バキッッ


黒田
「4つ目。自由落下中」
白谷
「エ、エレベーターの階数表示が!?うおぉ!重力が・・立てな・・」


・14階
・13階
・12階
・11階
・10階

白谷
「おい!お前も俺も大丈夫なんだろ!?俺だけ助かってお前は助からないとかないよな!?言えよ!全部言えよ!」

・9階
・8階
・7階
・6階

黒田
「全部言ったじゃねぇかよ。お前は助かるって。そして言いたいこともさっき全部言ったよ」

・5階
・4階
・3階

白谷
「・・俺はきいてないからな・・生きろ」

・2階
・1階








■□■




さっき全部いったじゃねぇか
「白谷、お誕生日おめでとう。そして福岡でも、がんばれよ。いい仲間だった」






                      <終>

 

 

                 No.2【小橋輝彦(45)のレポート】

 

 

 

部下

「今日から配属になりました新人の外村です」

上司

「私が君の直属の上司にあたる和山だ。宜しく」

部下

「こちらこそ宜しくお願いします」

上司

「配属初日で申し訳ないのだが・・・」

部下

「ええ」

上司

「取引先と打ち合わせのアポが入っていて今から外出しなければならない」

部下

「わかりました」

上司

「仕事を与えておくから、私が帰ってくるまで処理しておいてくれないか」

部下

「はい。戻りはいつぐらいになりますか?」

上司

「少し遅くなる。もうすぐ3歳になる娘の誕生日も近いからついでにプレゼントでも買ってこようかと。問題ないかな?」

部下

「もちろん大丈夫です。お子さん思いなんですね」

上司

「助かるよ」

部下

「どのような仕事内容でしょうか」

上司

「簡単だ。春の人事異動に伴い私も部署を移動するらしい。だから私が公私共にお世話になった方々へTELしておいてくれないか」

部下

「え?わたしで問題ないのでしょうか…?」

上司

「ああ。後ほど改めて私から連絡させてもらう。近況だけ把握しておきたいからTELだけ頼む」

部下

「わかりました」

上司

「この紙が先方の連絡先と確認しておきたい内容だ。上から順にTELしてくれ」

部下

「了解です。この内容で、TERUですね」

上司

「ああ。TELだ」

部下

「TERU。了解しました」

上司

「できるよな?TEL」

部下

「できますよ。TERUができない部下なんて使い物にならないでしょう(笑)」

上司

「たしかに(笑)これは失礼だったな。じゃ、まかした」




■□■□




上司

「お疲れさん」

 

部下

「お帰りなさい。お疲れ様です」

 

上司

「いやー外は寒いな。雪がちらついてたよ」

部下

「まだ春は遠そうですね」

上司

「今日はどうだった?仕事の報告を頼む」

部下

「はい。クライアントの方々の近況報告をします」

上司

「うむ」


部下

「まず、A社の久保営業部長」

上司

「久保部長。彼も転勤になるそうだが、どこに転勤になるって?」

部下

「はい。『ここではないどこかへ』だそうです」

上司

「ん?ん?まだ決定してないってことかな?」

部下

『無邪気な 季節を過ぎ』

上司

「無邪気?え?今年60才だよね?」

部下

『今誰もが 戦士達』

上司

「え?戦士?誰もが?戦争のときの話かな?」

部下

「久保部長の近況は以上です」

上司

「え?以上?」


部下

「続いてC社の大貫専務」

上司

「大貫専務。確か今東北でがんばってらっしゃるとのことだが・・・」

部下

『寒い夜は 未だ胸の奥 鐘の音が聞こえる・・・』

上司

「おぉ…なんか深い・・・鐘の音・・・除夜かな?」




部下

「続いてG社、石田課長」

上司

「あ!石田課長。つい先日結婚されたようだが・・・披露宴に顔を出せなかったんだよ。結婚生活は上手く言ってるのかな?」

部下

『生きてく強さを 重ね合わせ』

上司

「重ね?合わせる?ミルフィーユ的な?」

部下

『愛に生きる』

上司

「仕事人間だった石田課長が!」

部下

「WOW WOW」

上司

「うぉ・・え?うぉう?」


部下

「続いて福岡支店の津田さん」

上司

「津田くん!私の元部下だ。彼は失恋してその傷が癒えてないとのことだが・・・」

部下

『故意に恋焦がれ恋に泣く』

上司

「おおぉ!なんか空回りしている様子がわかる・・・」

部下

『心から ah 愛しい』

上司

「え?アーって?」

部下

『oh Teenage Memories』

上司

「え?え?え?オーティネゼメィーモリ?なに?急になに?急に、なに?」


部下

「続いて総務部の野田さん」

上司

「野田さん・・・明るい彼女だけど、仕事面でもプライベートでも不運が重なってるらしいな。最近大丈夫かな・・」

部下

『ちょっとぐらいの絶望も 長い目でみりゃ極上の スパイスを味わえる』

上司

「ポ、ポジティブすぎる!逆境を『極上のスパイス』とか!私も見習わないと!」

部下

『oh yes』

上司

「なにが?」


部下

「そういえばつい先ほど福岡支店の津田さんから連絡があって、彼女とヨリを戻したそうです!」

上司

「失恋王の津田か!よかった!一体どうやってヨリを戻したんだ?」

部下

『君はドレスに 裸足のままで』

上司

「ドレスに裸足?ドレスに裸足?シンデレラの話かな?」

部下

『奇跡の海を 華麗に泳ぐから…』

上司

「この時期に!?玄界灘で!?華麗に泳ぐための裸足!?『泳ぐから・・・』のあとは!?救急車呼んだ!?」
 

 

部下

『抱き寄せた』
上司

「バカかな?」


部下

「最後は、昨春退社された土屋さんです」

上司

「土屋!彼は私の右腕だった。それが急に会社を辞めてしまってそれから音信普通だったんだ・・・で、彼は今どうなっている?なにをやっている?」

部下

『新しい日々の始まり 春の風に吹かれていた』

上司

「ちょうど辞めた春の話か・・・」

部下

『俺はずいぶんと こうして 夢の続きを 独りで見ていた』

上司

「そうだ。彼は仕事一筋の人間だった」

部下

『そんなある日の午後に・・・』

上司

「おおぉ・・・ある日の午後に一体なにが・・・」

部下

「軽い出会いは 突然 運命めいた ものになる」

上司

「完全にドラマチックフラグが立っている!」

部下

『前から 知っている様な これから全てを 供にする様な 予感を感じていた』

上司

「素敵な恋人と出逢えたのか!?はたまた天職と思える仕事に出逢えたのか!?」

部下

『言葉は 今 必要さをなくしてる』

上司

「え?ここにきて?散々匂わせといて?」

部下

『高なる この鼓動が聴こえるか?』

上司

「急に上からなに?血圧高くなった?内科検診で聴診器当ててる医者に言ってるのかな?」

部下

『ふいに心を奪った瞬間の あのトキメキよりも眩しいほどに いつか出逢う 雪の中 Wow...心のままに 待ち焦がれていた あなたをこうして』

上司

「ま、でもなんか幸せそうなら充分だな。彼には色々とお世話になったから、これからは彼が目指す道をしっかりとサポートしてあげたい。たった一度の人生だ。自分の納得のいくように、悔いが残らないように。人生においてどの選択肢が正しいかなんてわからない。大事なのは正しいと信じて、自分を信じて前に突き進むこと。自分に関わっている全ての人がこのような気持ちで幸せになってもらいたい。外村くん。今日はありがとう。新人で初日にも関わらず大変なお願いをしてしまって。なんか私も初心に返った気がするよ」

部下

『 uh.... 』

上司「それなに?ンーってなに?どのンー?さっきの続いてたの?続いてたにしても、いる?今の流れのなかで今のンー、いる?」


部下

「今日はお疲れ様でした」

上司

「うむ。ま、今日は初日にしてはいい働きだったよ」

 

部下

「ありがとうございます。明日からも宜しくお願いします。あ、そういえば・・・」

上司

「どうした?」

部下

「娘さんのプレゼント、いいの見つかりました?」

上司

「それがなかなか見つからなくてなぁ…」

部下

「そんなことだろうと思いまして私、休憩時間にいいの見つけましたよ」

上司

「君、気が利くなぁ!どんなのを見つけてきたんだ?」

部下

「素敵な絵本。コレです」

上司

「絵本・・・たしかにウチの娘にぴったりだ。どれどれ・・・これは」

部下

「世界的にも有名な、お菓子のおウチのお話。夢があるでしょう」

上司「素晴らしい!!確かに夢があるなぁ。幕張メッセで20万人ライブするくらい夢がある」

 

部下

「そうでしょう。この絵本。『ヘンゼルと・・・』」

部下・上司『GLAY・TERU』





                        <終>