ラグビーしよる理由、もう1個あったわ。木崎先輩よ。おれが高校1年の時の2年、1個上の。おれがビビるくらい「やんちゃな」先輩やったわ。けど、何故かおれには優しかった。

たまーに、遊びに行ったりしとった。先輩んちに。おれんちはおとんがやんちゃやったからね、友だち呼ぶとか、そんな感じやなかったんよ。爺ちゃんちに避難せなあかんくらいやったから。

もちろん、高校になった頃はおとんもそんな「怖い」存在ではなくなっとったからね、その頃から、よう話すようにもなっとった。おとんもちょっとは変わったんかもしれん。

でもまあ、先輩が、なんしかいろいろ面倒みてくれよってん。練習行くんが楽しかった。せやからラグビーやめずに続けとったんやと思う。全国いくとか、優勝するとか、そういうことも理由にはなっとったかもしれんけど、先輩の存在よりは下やったような気がするな。

おれに足りんかったのは「勝ちたい」という気持ちやと先輩に指摘された時は、ほんまその通りやと思った。

その頃のおれは、何故か、上手いと言われることや、レギュラーになることが大事やった。そこが、少々違っとって、先輩の目にはちゃんと映っとったんやね。

1回先輩んちに呼ばれて、その日は泊まることになってん。で、寝るときに、先輩と並んで寝よったら、

「おれは勝ちたいんや」

と先輩がボソッと言った。

はい。

おれが言うたのはそれ。「はい」ってなんやねん。

「勝って卒業したい。力、貸してくれ」

あの怖い先輩が、「力貸してくれ」って、おれに言うてくれたんよ。それでわかったわ。おれに足りんかったもんが「勝ちたい」気持ちやったってこと。

怒鳴るんでも叱るんでもなく、「頼む」と言って教えてくれたんよ。