頰に触れる風の先端が棘のようにつんつんとする冬の日
「お父さん、今から出発するね」
と連絡をして車を走らせて行くと
父はアパートの正門の前まで出て私を待っていました
「お父さん、何をしに外に出ているの 寒いのに…」
そうしないでと言っても父は雨が降っても雪が降っても外に出て娘が無事に来るか待っていました

私がとても小さかった頃もそうだったし
学校に通ってた時も
そして今のように父が80代の高齢になって
私が50歳の中年になった今も父はいつも私のことを心配して待っていました

少し前から歩き方も遅くなって、だいたい90キロくらいの体重も20キロ以上減って
その大きな体格、元気だった父の後ろ姿が小さく感じられました
父は私が家に帰る時には何でも持たせたくて、あれこれ持って行きなさいと言ったし
何か小さいものが一つでもあれば、あげたがっていました
荷物を持ち出すと、持っていてあげると言って荷物を持って私の前を立って歩きました

幼い頃から私は本当に多くの愛を受けて育ちました
雪の日は雪だるまを一緒に作って
暑い夏には一緒に汗をだらだら流しながら蝉取り網を持って町中を走り回りました


自転車も上手に乗れなくて臆病だった私に一度やってごらんと言ってくれて
私がよろよろと自転車に乗って一周し、戻ってくる時も私が無事に到着するか見守っていて
私の娘!よくやった!と誉めてくださいました

 

 


寒い冬には私が餡子が入ったのが好きだと手を握ってお店に行き、温かいあんまんを買ってくれました
仕事帰りには毎日のように3兄弟にあげようとお菓子や果物など美味しいものを買って持って帰ってきました


ポケットにお金がないと弱気になるといつも私のポケットにお金を入れてくれ
大学生になった時には娘にあげたくて服と化粧品もたまに自分で買ってきてくれたりした
優しくて愛情深い方でした
父は私にとって日差しのように温かい存在でした

2022年3月9日の大統領選挙日の朝
弟から一本の電話がかかってきました
「うん、元気?朝からどうしたの?」
「お姉さん!お父さんが倒れた…」
「何 誰?」 「お父さん?うちのお父さんが?」
私は自分の耳を疑いました
私が聞き間違えたんじゃないかと…
目の前が真っ暗になって無我夢中でした
あたふた慌てて運転して父が119番に乗ってきた病院の救急室に到着しました

 

 



「保護者ですか」
「はい」 .......
父は意識がなく酸素呼吸器に繋がれて横になっていました

 

 


医師は脳の写真を見せながら今の状況を説明してくださり、急いで手術が始まりました
脳梗塞で小脳と他の部分が損傷していて手術がうまくいっても全身麻痺になる可能性が高いと…

足の力が抜けて椅子にガクッと座り込みました
マスクをした口の中がカラカラに乾き
周囲の人の言葉もざわざわとまともに聞こえませんでした
 

どうしてこんな事が.......
なぜこんな嘘のようなことが起こったのだろうか
昨日まで元気で明るくて温かった父が..

倒れた時に持っていた物を看護師が私に渡してくれました
父がいつも背負っていた古いかばん
そして今年の冬ずっと好んで着ていた
衣類など。。。非常事態だったせいか父の服ははさみで切られていました

父の持っていた物を受け取るうちに、私の胸もはさみでチョキチョキと切り取られるような気がしました
涙が心の奥底から流れ出しました

「お父さん……お父さん」
愛する私のお父さん。。。。。'


父といつも交わした会話
父の姿と声が私の頭をぐるぐる回りました

「無事に着いた?」 
「変わりなく元気にしてるか?」
「ありがとう」 「ごめんな、ずっと電話して」
「大丈夫だ」「来るな、忙しい人は来なくていい」
「お父さんのことは心配するな」

冬の間ずっと冷たい風の中でもあんなに頑張って歩いて
あなたが年をとり、体調が悪いと子供たちに迷惑をかけるといけないと健康に気をつけていましたが
その寒くて寂しい冬が過ぎる頃
私にとって一番大きい人だった父が倒れました

母が去って一年ほど経った後、またこのような日が突然前触れもなくやってきました
私は胸が痛み、世の中が静止したように何もする事ができませんでした

予期せぬことで父と平凡だった日々
幸せだったささやかなすべての日々が消えました
子供の時から今まですべての瞬間が走馬灯のようによぎりました

 

 



春が来て綺麗な花々が美しく咲くのに

父はまだ春が来たことを知らず意識がなく集中治療室で横になっています
もう一度父と目を合わせて話すことができるようになるのを切に祈っています
子供でできなかったことだけを思い出して胸が痛くなります

意識のない父に耳元で囁いています
「お父さん、私です..起きられるんですよね?うちのお父さんは強いから
お父さん本当に愛してる」

春の日差しがいっぱいの窓の外に涙のような桜の花びらが風に飛び散りました