彼はいつもメガネをかけていて、わたしと彼は決まった場所で会う。


夫の仕事がおそくなるとき、車を持たない私はあしがなく、いつも夫の兄に送ってもらっている。


義兄は在宅で仕事している。

くわしくは知らないが、なにかあったらしく、家族はどこか腫れ物に扱うようにしている。


義兄は今までにあった人のなかでいちばん静かだ。

余計な話はしないし、笑ったりもしない、能面みたいな顔の人だ。

究極のポーカーフェイスというだけで、感情がないというわけではないのだ。


彼は別に、そういう扱いを受けて気にしてる様子はない。


勤め先の小さな店先に白の軽がとまり、わたしは乗り込んだ。


あじさいが雨に打たれて揺れている。


どうしてかあじさいには深い思い出がある。

むかし小学校の裏山にあじさいが咲いていて、迷路みたいになっていたんだ。


なんだか結婚してからというもの、毎日が夢の中みたいで、意識がぼんやりしている。

こんなわたしにちゃんと家族ができたということがいまだに信じられないし・・・

そうか、わたしは兄という存在を得たのだ。


一人っ子で、いつも家にひとりきりだった。

なんども夢に見るのは、年の離れた弟と兄ができて、家族6人で白くて新しいきれいな家に帰る夢だった。

弟はまだしも、年上のきょうだいは無理だ

夢から覚めると、いつも泣いていたんだ。


そうか、結婚すれば、兄もできるのか


義兄はなにもいわずわたしにチョコを渡してきた。


彼はわたしを幼い子供のように扱うことがある。


でもそれがなんか心地よくて、なんか夫とかもうどうでもよくて、このまま家に着かなければいいのにと思う。