殴り書きのように携帯の番号が書かれてる



「ごめん、もし時間あったら今晩電話して」



手を合わせてスマンスマンといわんばかりにお辞儀して



駆けて行った彼



取り残された感じの私と由愛・・・



由愛がボソッと



「嵐みたい」と呟く



「で、電話するの?」由愛に聞かれる



「うーん、どうしたらいいんだろう… 全然話したことないし、今さらなに話したらいいか分かんないし」



「でも今晩って言ってたよ。ちなみに暇でしょ?!」



由愛はいつものごとくチクリチクリと言ってくる



「うん・・・」そういいながら名刺を見る



初めて彼のフルネームを知った








再会の盛り上がりはなく



私は彼に「あっちゃん」と呼ばれた違和感だけが残っていた



だって彼に「あっちゃん」だなんて呼ばれたことないから



そう呼ぶのは雇ってくれた知人だけ



そう思いながらも「マサさん・・・?」と尋ねると



あの時のようにニカーっておひさまみたいに笑って



「覚えててくれてよかったーー、人違いだったら俺ちょっとしたナンパ師になるとこだった」



って(笑)



由愛が「誰?説明求む」みたいな顔をしてたのでサックリ紹介



スーツ姿の彼に「もうバンドはおしまいですか?」と尋ねたら



「さすがにね、 30過ぎには現実見なきゃね」と失笑気味に答えた



続けて「今は外回り中、営業なんだよね仕事」さっと近況を述べる彼



「あっちゃんは今何してるの? 今日は休み?」



たたみかけるような彼の質問に返答しようとしていると



ピピッと電子音が鳴り、マサさんが時計に目をやる



「やべ、もう仕事戻らなきゃ。」



ポケットをガサゴソさせ、小さなケースのから一枚の紙きれを私に渡した



看護師という職種には縁遠い「名刺」だった。



大抵は自分が関わった患者の顔は覚えている



それは何年看護師をやっていても変わらない



でもその顔だけは思い出せなかった



健康体そのものでちょっと焼けた肌に



ピシッとスーツを着て、長身の男性



「患者の家族の類?」と自分の記憶をたどっていると



それを察したかのように



「あっちちゃん…だよね、ケータリングのバイトしてたよね?」



その言葉に私の脳はフラッシュバックみたいについ先日思い出したお昼のシーンが



再現VTRみたいに頭をよぎった