【好きな表現】
「ひとしく流れつづけているはずの時間が、この家には流れそびれていたのか、いまになってすこし多めに時を流して、外との帳尻を合わせようとしているのかもしれなかった。」
「かつての幼い自分のことまでもが懐かしく胸にこみあがる。どこかでいっしょに空をながめているようにすら思えていた。星が落ちる。起きている人と眠っている人とのあいだに分け隔て無く夜がただ過ぎてゆく。ひたすら流星が落ちるのを目の前のこととしてただみあげていた。そのまま、体が宙に放たれてゆくような、同時に北太平洋の海面下約一万九二〇メートル下のマリアナ海溝まで落ちゆくような、浮かびまた沈む意識がふと途切れて、翌朝、百花の泣き声で起きたのだった。あれはどこからが夢だったのだろうか。」
「かつてみた夢に会いに来ているようだと永遠子は思った。」
「いまみている月をただ月としてみていればそれでよいのかもしれないと貴子は思った。」
きことわ (新潮文庫)/新潮社

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