【佐藤陽】 「在宅でみることを軽く考えていた。こんなに大変とは思わなかった」
末期の前立腺がんの川嶋登喜雄さん(享年71)を、約40日間にわたり、横須賀市の自宅で介護した妻の徳子さん(71)は、そう振り返る。
一番苦労したのが、登喜雄さんの頻繁な痛みの訴えだった。昼間は「痛いよ」と訴え、ベッドにある呼び出しブザーを鳴らし、夜中は大声を出して動き回る。
「右足のつけ根の痛みが、ひどいんです」。同居する次女の幸恵さん(33)は、症状が悪化すると千場純医師(64)に電話した。
徳子さんはほぼ毎日、介護の傍ら、地域の独居高齢者らに弁当を届けるなどのボランティア活動をしていた。夜は登喜雄さんの隣の部屋で寝るため、ほとんど眠れない。夫を介護したいという思いの一方で、自分の生活ペースを乱されてストレスを感じていた。
「何で眠れないの? 薬飲んだんでしょ」。夜中についイライラして、登喜雄さんに当たってしまうこともあった。
そんな母親を助けようと、幸恵さんは0歳の息子をおぶりながら登喜雄さんのそばにいた。曜日と時間ごとに整理された薬箱を作るなど、細かな気配りもした。
幸恵さんは昨年6月に結婚した後、両親と同居する。「若いころ、いろいろ心配をかけたので、何かしてあげたくて……」
在宅医療に入る前は、「痛いよ」という登喜雄さんに、「言ってもしょうがないでしょ」と、幸恵さんも厳しい言葉を浴びせたことがある。「父親を全部受け入れないと」と頭でわかっていても、弱い父親を認めたくない自分がいた。
だが9月上旬、在宅に移ると、自然とそういう言葉は減ってきた。残り少ないであろう父との時間を、大切に過ごしたかった。
●在宅医療移行前にチェック 横須賀市、病院に2種シート入院患者が退院する際にスムーズに在宅医療に移行できるように、横須賀市が2種類のチェックシートをつくり、市内の11病院に配布した。在宅医やケアマネジャー、患者本人、家族らに適切な情報を提供できるよう、各病院で試行を続けている。
在宅医や病院勤務医、介護関係者でつくる市の在宅療養連携会議が作成した。これまでは病院から十分に患者の情報が引き継がれないことがあり、例えば「家族が在宅介護に必要な知識や技術を習得する時間がなかった」「退院時に薬が処方されておらず、症状が出たときに困った」などの声が聞かれた。
一つは「退院前カンファレンスシート」。退院前に患者や家族、主治医や看護師、ケアマネや在宅医らが参加して開かれる会議(カンファレンス)の際に使う。「移動や排泄(はいせつ)にどの程度の介助が必要か」「食事の内容と食事介助の方法」「行っている医療処置」など確認すべき項目がリスト化されている。
もう一つは「退院調整チェックリスト」。医療・介護スタッフの時間が合わず退院前に会議が開けない場合、「医療器具や福祉機器の使い方は習得できているか」「介護方法は習得できているか」「患者や家族は緊急連絡先を知っているか」などの項目からなる。
今月末まで試行を続け、各病院に使い勝手などについてアンケートを実施し、改善していく予定だ。
市の65歳以上人口の割合は2010年時点で25・2%で、県全体の20・2%より5ポイント高い。75歳以上も11・4%で、県全体より2・6ポイント高く、今後のさらなる高齢化を見据え、市医師会などと協力して在宅医療の推進に力を入れている。
(朝日新聞 2013年11月27日掲載)
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