雨の多かった8月の終わり頃、今年1番の猛暑日に正樹は天神にいた。
地元の高校の同級生の健太と飲もうと約束していた。
待ち合わせ場所のPARCO前に行く途中何度もすれ違う人達とぶつかりそうになった。
鹿児島には屋外でこんなに人が混み合った場所はない。
福岡でこんなに田舎者を実感するなら東京なんかでは到底生きていけないな。
休日の天神に出向く度にそう感じる自分が少し可笑しかった。
健太とは1ヶ月に一度か、2週間に一回くらいのペースでよくサシ飲みをする。
特に何を話すとか決めてる訳ではないがとりあえず集まって適当に飲み屋に入って終電まで呑む。次の日予定がない時は健太の家に行って朝まで呑んで気づいたら寝てたりする。
友人と呑んでる時だけは悩みや不安などは吹き飛んで心から笑える。
自分は社長になって金持ちになるだの芸人になって売れるだの、健太が父の不動産屋を継いだら高校の同級生を雇って経費で毎晩飲むだの調子の良い夢を語っては呑み足りず二軒目三軒目まで行くのがいつもの流れだ。
お酒が進むにつれていつもは誰にも言えないようなことが口から漏れていることもある。
最近今の自分が怖いと感じるのだ。
6月に好きだった彼女と音信不通になってから急に出来てしまった穴を埋めるように悪質な女遊びを繰り返した。
もともと笑いを取ったり場を盛り上げる為に使っていた長けた話術を女の子を夢中にさせる為に使い1ヶ月で4人の女の子を弄び15万ほど貢がせたりもした。
愛されたいという渇望の赴くままに人の心を弄んだ。
道端で酔い潰れてる人を親切で助けるフリをして回復した時に口車に乗せて調子良くさせ友人の分も合わせて3万円以上奢らせたりした。
優しく人間味のあるように見せて、内心人の心が消えていってるような気がしてた。
中洲の占い師が言ってた。あなたは話すことに長けていていい方向に使えば大成功するが、悪い方向に使う可能性も秘めていると。
正に今悪い方向に使っている。心を弄んでお金をもらうなんて詐欺師の中でも悪質な方だ。
弄ばれた彼女はお金だけでなく恋心も失うことになる。
もうきっと人間に生まれ変わることはないんだろうな。地獄の観光マップでも今から探しとこうか。ボーっとそんな事を考えながらPARCO前に着いた。
僕は基本的に恋をしていたい人間だ。恋をしている間は自分にはまだ人を愛する心が残ってると思うと少し安心出来るのだ。
それでもいい感じだと思ってた相手の自分への気持ちが薄れていくのを感じるとその恋心も嘘のように冷めていってしまう。
一方的に相手の事が好きな自分を客観的に見て気持ち悪く感じてしまうのだ。
PARCO前で健太を待っていると、たくさんのカップルらしき2人が目の前を通る。
彼らは幸せそうに手や腕を組み歩いてる。
こんな暑い中くっついてよろしいですわね、なんて皮肉を思ったりする。
とはいえ別に嫉妬なんかはしない。
僕は基本的に自分も他人も比べたりはしない。常に自己ベストを更新出来ればいいと考えてるだけだし、人には必ず良いところも悪いところも同じ数あると思ってる。好きになるかならないかの差はたまたま良いところをたくさん見つけられて、相手の悪いところは自分的には全然許容出来た場合であると思う。
ただ自分が愛されていないと感じると許容出来ていた悪い面が全く許せなくなってくる。わがままな性格だなと自覚があるのがまた辛い。
飲みの楽しみと普段からの不安や不満の入り混じった感情で立っていると健太が来た。
髪は伸びて、黒と茶色が変に混じった髪になっていた。
他愛も無い会話をしながら飲み屋に入ると、2人とも一杯目は麦酒を頼んだ。
グッと流し込むと、今日の麦酒はやけに美味いと感じた。
弱った心に麦酒の苦味というのは妙にマッチする。むしろ少し甘さを感じるほどだ。
酒を流し込み、話をしながら楽しむが心のどこかには小さな穴が空いているようでその穴を埋めるものは何なのかが分からない。誰かからの無償の愛なのか。お酒では到底埋められないが、埋められないと分かっていながら酒で埋めようとしてまた流し込む。
ほろ苦い麦酒を飲み干して、整うような気持ちよさに包まれながら僕らはまたくだらないことを語り始めた。