ブルックナーの交響曲第6番は、大曲である第5番と人気曲である第7番にはさまれて、彼の交響曲の中では人気のない曲の一つです。私も3番以降の曲を聴こうとすると、スルーしてしまう傾向がある曲の一つで、それほどじっくりと聴いたはありません。それでも、中期の傑作であると熱烈なコメントも多くあり、今回改めてじっくり聴いてみました。まず感じるのは、伸びやかな大自然の風景。夏季休暇で訪れたスイスで感銘を受けた、アルプスの山脈を感じ取れるような、大自然の美しさが表現されています。そして、ブルックナーらしからぬ跳躍的なリズム動機が全編を通して現れ、戦闘的な激しさもあり、ワーグナー的な官能美あふれる楽句と希望の動機が合わさったクライマックスが、ブルックナーとしてはコンパクトに終結します。この曲の初演は、第2&3楽章のみで、初演は評判が良かったものの、批評家からは冷遇され、全曲の初演は作曲者の死後5年後のことでした。同時期に作曲した「テ・デウム」と、その直後に作曲した交響曲第7番が成功したことも、改定の手を加えたりせず、第6番がそのまま埋もれてしまった事の理由となったようです。

全曲通して、ブルックナーらしい拡大されたソナタ形式で、第1楽章から登場する、例の跳躍的なリズム動機は結構私のお気に入り。第2楽章「アダージョ、きわめて荘厳に」は息の長いブルックナーらしい美しさがあふれ、後半の葬送行進曲風の響きが印象的です。第3楽章のスケルツォは、ほぼリズムだけで構成されている幻想的な曲。そして、第4楽章は、ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」の「愛と死」のモチーフが現れ、最後に第1楽章の主題がトロンボーンで回帰し、力強く終わります。

この曲は交響曲第5番と同様に改訂の手を加えていませんが、第6番の全曲(?)初演を行ったは、かのマーラー&ウィーン・フィルで、大幅カットとオーケストレーションの変更を加えたものでした。その理由は「長すぎるため聴衆の理解が難しいから」だとか。時代も違いますが、当時のブルックナーに対する演奏者と聴衆の理解はそんなものだったのかもしれません。尚、その2年後に完全な全曲初演が行われたそうです。

愛聴盤は、1995年のライブ録音である、ギュンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団のRCA盤。録音時83歳の、生涯にわたって演奏し続けたブルックナーの交響曲に対する愛とそれに呼応するオケの白熱の演奏だと思います。