ゲーテが生涯をかけて書き上げた戯曲『ファウスト』は、悪魔と契約して最後には魂を奪われ体を四散させたという伝説に基づいて書かれ、その怪奇趣味が好まれた同時代のロマン主義は、同時代の芸術家の霊感を大いに刺激しました。ドラクロアは『ファウスト』をテーマにしたリトグラフを贈り、ベルリオーズは「ファウストからの8つの情景」を作曲し、その楽譜に熱烈な手紙を添えて贈りました。ただ当時、前衛過ぎるベルリオーズの音楽に理解は得られず、ゲーテからの返事は待てど暮らせど、こなかったようです。
ベルリオーズは、その後「ファウストからの8つの情景」を改変し、劇的物語として
冒頭の舞台をドイツからハンガリーに変更し(ラコッツィ行進曲をどうしても入れたかったらしく)、「ファウストの劫罰」を完成させます。コンサート形式よりも、現在はオペラ形式の演奏の方が多く、私もメトのオペラ版を見て楽しんでいます。音楽だけとっても第1部「ラコッツィ行進曲」、第2部「妖精の踊り」、第3部「鬼火のメヌエット」と独立して演奏される曲も多くあり、全編ベルリオーズ節あふれる魅力的な音楽に満ちています。
第1部。ハンガリーの平原に一人佇むファウスト。農民たちの陽気な歌と踊り、遠くから兵隊の行進(ラコッツィ行進曲)が聞こえてくるが、ファウストの心は晴れない。
第2部。書斎で絶望の果てに自殺を決意するファウスト。そこに現れるメフィストフェレス。彼はファウストを酒場に誘い、ブランデルの「ネズミの歌」、メフィストフェレスの「蚤の歌」が登場。気の晴れないファウストを次にエルベ川の川岸へと誘い、妖精の踊りと歌の中で、ファウストはマルグリートの夢を見ます(その後の兵士たちの合唱と学生たちの合唱は、割愛)。
第3部。メフィストフェレスとファウストはマルグリートの部屋に侵入し、彼女を待つ。メフィストフェレスは「鬼火のメヌエット」で演出し、惹かれあう2人は愛の二重唱を歌うが、彼女の母親が帰って来るので、2人は退散する。
第4部。森と洞窟の場面。マルグリートはファウストに会いたいがため、母親を殺してしまう。彼女を救うため、メフィストフェレスはファウストに交換条件として魂の放棄を要求し、ファウストは承諾。馬に乗った2人は地獄へと向かう。奈落へ落ちた2人を(亡者の言語で)歌い踊る悪魔たちが出迎える。最後にマルグリートの魂は天国に迎え入れられる、ジ・エンド。
演奏盤のCDは、1994年録音エラート盤のケント・ナガノ指揮リヨン歌劇場管弦楽団&合唱団の演奏で満足しています。ソリストはテナーのトーマス・モーザー、バスのジョゼ・ファン・ダム、ソプラノのスーザン・グラハムと十全で、特に合唱の質が高く、ナガノの統率力が優れた演奏と思います。
