題名:Nibiru dan Kesatria Atlantis(『ニビルとアトランティスの戦士』)
著者:Tasaro GK
出版社:Tiga Serangkai (2010年)


インドネシアを読む-Nibiru

“Muhammad” の著者による「インドネシア初アトランティス・アクション・ファンタジー」です。

まず冒頭、本文が始まる前に、奇妙な言葉で書かれた文章とそのインドネシア語訳が載せてあり、Dhaca Suliなる者がアトランティス沈没最後の日に記す、と書かれています。その下には、それがKedhalu語で書かれた石碑の文であり、インドネシアのキドゥル山南境の干上がった湖の底から発見されたものだという注記。

こういう始まり方は大好きです。こういった捏造文書なんかがいかにももっともらしく掲げてあると、それだけで嬉しくなる。つかみはOKといったところです。

時代設定は大胆にも紀元前13,359年。場所は大陸から遠からぬ小島ケダール。

この島の特に北部の住民はpugabhaと呼ばれる神通力というか超能力に優れ、島は不可視の魔法の幕に守られてほぼ鎖国状態にあり、平和な日々が続いています。文明が進んで豊かな北部に比べ、南部は未開の地が多く、住民も貧しくて超能力を持つ者は少なく、いたとしてもその能力は低いのが一般的。

主人公のダーチャ(Dhaca)は南部の生まれながら、同年齢の3人の仲間とともに例外的に北部の超能力開発学校に通っているワルガキです。南部の子にしては珍しく超能力を持っているためにその学校に入れたのですが、成績ははかばかしくなく、初級クラスで留年3年目。

さて、その昔、世界を支配する有力な11人の王の連合があり、そのうちのひとりがケダール王国を開いたのです
が、王連合のメンバーのひとりニビル王の裏切りにより、連合は瓦解しました。ニビルは当時最強の王に滅ぼされますが、5013年ごとに復活して世界を混乱に陥れると言われています。そのニビル復活のときが近づき、平和な島にも不穏な出来事が続発しはじめます。

島を守る魔法の幕の力が弱まり、隣国である大陸の大国の残忍にして最強の王が、復活が予想されるニビルを潰すべく、ケダール住民の超能力を利用して自国の軍事力を強化しようと、ケダールに攻め寄せてくるかもしれない…。そういった危惧とともに、島内でも、王国を開いた偉大なる王の跡は数百年前に絶え、その後は執政のほぼ独裁下にあったのですが、それに対する住民たちの不満が次第に高まり、島は内部・外部からの危機に直面することになります。

そんなとき、ダーチャは自分の思いがけない出生の秘密を知ることになり…。

といった冒険活劇ファンタジーです。これ1冊でも700ページ弱あるのですが、もちろんこれだけでは終わらず、
いったい何巻続くのか知らないけれど、すでに2巻の予告も打たれています。

インドネシア製ファンタジーということで、まあどうせハリー・ポッターのモノマネなんじゃないかと実はあまり期待していなかったのですが、これがなかなかおもしろく、一気に読めました。

伏線の張り方がもうひと工夫ほしかったと思うところや、肝心のところで誤植というか登場人物の名前を取り違えていて、編集者はなにしてたんだ!と言いたくなるところもありますが、楽しい読み物といっていいと思います。

意外な展開を意図したんだなあというのがよくわかり、何重ものどんでん返しが用意されていて、著者の意欲がひしひしと伝わってきます。

題名にしてからがそうですね。『ニビルと○○○○』のスタイルで全シリーズいくようですが、ニビルというのはハリー・ポッターのように主人公の名前じゃなくて、最大の脅威である敵の名前なわけで。なぜそれがタイトル名になっているのかは、この1巻の最後で明らかとなります。

ところで、冒頭の石碑文はじめ登場人物名や地名などの固有名詞がhや子音が多用されていて読みづらく、憶えづらい。きわめつけはSaclbhajthajadhax なんてのも。どうやって発音するんでしょう? まあ、これは大陸から来た人の姓で、島の人々にとってもわかりにくいものということになっていますけど。

こういった細工は、できるだけかけ離れた世界を造り上げるための著者の工夫かと思われ、このケダール語はインドネシア語をもとに著者が創作した言語だそうです。要するに綴り方を変えたってことですが。

このケダール語を解読した人がいまして、その人の解釈によるとdhはr、cはj 等となり、主人公の名前 Dhaca Suli は Raja Bumi と読みかえられ、超能力pugabha は kuwasa / kuasa、ダーチャの母の遺品六曲で六つの石のはめこまれた剣 pedhib は keris となるとのこと。

そういった工夫の凝らされたファンタジー。2巻以降の展開に期待しましょう。途中でいつのまにやら消えてしまったりしないよう、完結を祈りましょう!