題名:Dalam Mihrab Cinta (The Romance)(『愛の祈祷龕で』)
著者:Habiburrahman El Shirazy
出版社:Ihwah Publishing (2010年)

題名:Bumi Cinta(『愛の大地』)
著者:Habiburrahman El Shirazy
出版社:Author Publising (2010年)


$インドネシアを読む-mihrab


2004年に出版された “Ayat-ayat Cinta”(『愛の章』)が大ヒットし、映画化もされて、一躍イスラーム恋愛小説の
トップランナーとなったエル=シラジーの新作を二冊。

といっても “Dalam Mihrab Cinta”の方は2007年に別の出版社から初版が出ています。2010年12月に著者みずからがメガホンを取ってこれを映画化したものが公開されたので、それに伴う再版です。

今回の舞台はジャワとジャカルタですが、敬虔な主人公が濡れ衣を着せられて受難し、二人の美女に愛され、そのうちの一人が死ぬという構図は “Ayat-ayat Cinta”と同じ。

主人公シャムスルは高校卒業後、自分探しをしていましたが、なにを思ったか(ちゃんと理由は書いてあるんです
が、もうひとつよくわからない)プサントレン(イスラーム寄宿学校)に入る決意をします。そうして列車で目的地に向かう途中、隣り合わせた美女が置き引きに遭いそうになったのを未然に防ぎます。追い詰められた泥棒はその美女を人質にとって刃物を振り回しますが、シャムスルが手に傷を負いながらも美女を救助。その美女ジジは実はシャムスルが入ったプサントレンの主宰の妹でした。

プサントレンで猛勉強に励むシャムスルですが、同僚に罠にはめられ、盗みの疑いをかけられてプサントレンを
追われます。スマランへ出て職探しをするものの見つからず、食うに食われずスリを試みますが、失敗してブタ箱
行き。妹に保釈金を出して助けてもらい、そのままジャカルタに行って再び職探し。やっぱり見つからず、留置場で知り合ったプロのスリから伝授されたテクニックを駆使してスリとして生活していくことになってしまいました。

犠牲者のひとりの若い女性の財布の中にあった写真を見ると、なんとその女性と並んで写っているのはプサントレンでシャムスルを罠にはめた仇敵でした。その男には別に婚約者がいたことを知っていたシャムスルは、写真の美女を救うべく、こっそりその美女の家を訪ねようとします。

そこで人違いから、その美女シルヴィの隣家の女の子の宗教の家庭教師をすることになり、説教のうまさが口コミで広まって、あちこちのモスク等から説教をしてほしいという依頼がくるようになります。スリ稼業からは足を洗ってまっとうな信仰の道に戻ったシャムスルは、ついにTV出演までする人気説教師となったのでした。

仇敵の悪行が明るみに出て汚名も晴れ、シルヴィの危機も救ったシャムスルは、かつてスッた財布に元の金額+
5万ルピアを入れてシルヴィに返し、過去の悪事を告白します。シャムスルに想いを寄せていたシルヴィはショックを受けますが、その正直さと真摯さに打たれて想いをあらたにし、両親を通じてシャムスルに求婚します。

こんな自分が、敬虔で心やさしく美しく、しかも大金持ちの娘のシルヴィと結婚していいものかと3日間悩んだあげく、シャムスルは「シルヴィとの結婚を拒む理由はなにもないと思われます」といって結婚を承諾。

幸福の絶頂にいたったふたりですが、結婚式の一週間前、シルヴィはボゴールに住む親族に招待状を手ずから渡すべく、親の心配をよそに一人でベンツを運転してボゴールへ向かいます。この時点で、ああこれは死ぬな、と思ったら案の定。

幸せのあまりうきうきしてしまったシルヴィはついついスピードを出しすぎます。おまけにその気持ちをどうしても伝えたくて、運転しながらシャムスルに電話をかけます。

「ただ伝えたかっただけなの、あなたみたいなすばらしい夫を持てて、なんて幸運なんだろうって。これもみんな神様の御加護のおかげよね……きゃあああああ!」

突然飛び出してきたバイクをよけようとして、シルヴィの運転する純白のベンツは沿道の飯屋に激突、反転して大破し、シルヴィは神の名を一声叫んでこと切れてしまいます。運転中の携帯電話の使用は、危険ですからやめましょう…。

絶望の淵に沈み、実家に戻ったシャムスルはほとんど引きこもり状態で数カ月を過ごします。そこに登場してくるのは、もちろんもうひとりの美女ジジ。命を助けられたときからシャムスルが好きだったジジは、失意のシャムスルを励まし、シャムスルも次第に生きる意欲を取り戻していきます。

そしてついにジジがプサントレン主宰の兄とともに求婚のためにやってきます。シャムスルは今回も「結婚を拒む理由はなにもないと思われます」と言って承諾し、ふたりは結ばれてめでたしめでたし。

もう一作の“Bumi Cinta”の方もここで書こうかと思ったのですが、長くなってしまったので、次回あらためて。
エル=シラジーの小説の主人公はなぜこうもモテるのか?という考察(笑)も次回にまわすことにして、
最後にひとつ。

求婚されてそれを承諾するときの「結婚を拒む理由はなにもないと思われます」という返事は、一般的な常套句なのでしょうか? 求婚した側からいえば、ずいぶん失礼な返答のようにも思えるのですが。しかも二回とも同じ返答をしているし。きっとこれは、求婚を受け入れる際の形式的常套句なんでしょうね。