題名:The Second Front: Inside Asia’s Most Dangerous Terrorist Network
著者:Ken Conboy
出版社:Equinox Publishing, Jakarta (2006年)


題名:Crescent Moon Rising
著者:Kerry B. Collison
出版社:Sid Harta Publishers, Australia (2005年)



2002年10月12日深夜にバリ島クタ地区で起きた爆弾テロ事件から8年がたちました。

今回はそのバリ爆弾テロ関連の本を2冊。

インドネシアを読む-Second Front

1冊目はインドネシア在住の米国人で東南アジア関係の専門家の手になるノンフィクション。

2002年10月のバリ爆弾テロで一気にその名を世界に知られるようになったジェマア・イスラミヤ。その前身ともいえるダルール・イスラムの誕生から2005年の二度目のバリ爆弾テロに至るまでのジェマア・イスラミヤの動きを克明に
追ったものです。

バリ爆弾テロやその前後のイスラーム過激派に関して欧米人が書いたノンフィクションでは、別の著者によるものを二冊ほど読んだことがありますが、そのいずれもが手記という形をとっていたこともあって、「われわれ対イスラーム世界」的な構図がどうも鼻についていただけませんでした。

その点、本書は徹底して事実(と思われるもの)を追い、ジェマア・イスラミヤの実態やアルカイダとの関係を洗い出していて、読み応えがあります。

一連のテロをめぐる事実に対する認識は、バリ爆弾テロの起きたインドネシアにおいても、あまり進んでいないように思えます。たとえば、2002年のテロの直後、サリ・クラブ前で爆発した爆弾は「マイクロ核爆弾」だったとインドネシアの複数の「専門家」が言い、そんな高度な爆発物はインドネシア国内での製造は不可能で、一般人が海外から入手することも不可能だ、すなわちCIAが影で糸を引いていたのだ、という臆説が軍関係者を含めた多くの人々の口にのぼったと言われています。イスラーム擁護の意識や反米感情も手伝って、今でもこの説を信じているインドネシア人がかなりいるのではないでしょうか。

CIAの関与を完全に否定できるとは言いませんが、少なくともこのときの爆発物が、塩酸カリ、硫黄、アルミニウム粉というインドネシア国内でも入手が困難ではない物質で作られていたことは事実だったようです。

米国の9.11テロを含めた一連のテロに関しては、憶測や感情に振り回されることなく、事実もしくはできる限りそれに近いと思われるものを認識することがいかに大切であるかを、あらためて思います。


インドネシアを読む-Crescent Moon

2冊目は、オーストラリア空軍の軍人としてインドネシアに駐在していた経歴を持つ作家による事実に基づいた
フィクション。

1995年のチェチェンから2002年のバリ爆弾テロ、そしてその後へ、東南アジアを中心とするイスラーム過激派の動きを淡々と追っていきます。マルク諸島での凄惨な宗教抗争、インドネシア国軍の暗躍、モルッカ独立運動組織
密かに武器を提供するオランダ秘密情報機関、CIAや豪秘密情報機関や各国政府のかけひきと策謀。

著者はオーストラリア人ですが、この小説は単なる「われわれ対イスラーム過激派」の構図に終始してはいません。それでもやはりこれは一側面から見た物語であり、別の側面からの別の物語がいくつも存在することを思わずにはいられません。たとえば、クタ地区のバーにたむろしていた多数の海軍兵を擁するアメリカの戦艦が、バリ爆破テロの直前に、前触れもなくバリ海域を引き払ったのはなぜか?などなど。

この小説には暗澹たる結末が用意されています。この最終章が完全なフィクションであることを願うばかりです。

この本をアマゾンで検索したところ、タイトルが The Bali Bombings に変わり、”Crescent Moon Rising”は副題になっていました。