個人の妄想です
久しぶりにSさんsideです
彼が櫻湯に来るようになってもうすぐ半月だ
初めて来た日に風呂で溺れた彼を、上田と俺で介抱したんだっけ
酒を飲んで湯に入ったことを咎めたら半泣きになってしまい、逆に俺がじいちゃんに怒られた
自分でも、なぜあんなにムキになったのかわからない
よくよく聞いたら、自宅の風呂が壊れ困ってウチにきたらしい
そうと知っていたら怒鳴ったりしなかったのに
翌日、助けてくれたお礼だと言って大量のペットボトルの水を持ってきた
駅の向こうからさぞかし重かっただろう
若いのに、意外にちゃんとしてるんだなと見直した
いつも脱衣所の端っこで脱いだ服はきちんと畳んで籠に入れる
お湯はぬるめが好みらしく熱い湯には入らない
癖のようにしょっちゅう眼鏡のレンズを指で拭い
じいちゃんの顔を見ると必ず声をかけてくれる
気づいたら彼を目で追うようになっていた
名前さえ知らないのに
そんな彼がある日、トレードマークの眼鏡を外してきて思わず二度見した
コンタクトにしたの?
聞こうかとも思ったけれどなぜか聞けなかった
意識しだしたら急に話せなくなってしまったのだ
回数券も残り僅かなはず
風呂が直ったら、ウチには来なくなってしまうかもしれない
その前にゆっくり話がしたい
彼のことをもっと知りたい
俺は焦っていた