今日も ベジサンドかい? 好きだな? そうサムはカウンターの向こうでフフと口元だけで笑っていた。
笑顔が下手なサムだった。20代後半か。この産業がすたれきり老人だらけで、葬儀所だけがやけに手入れが行き届いている町にいるのだから無理もない。私が朝ごはんに立ち寄るサブウエィにサムはいた。
石炭の露天掘り、それをあてにした鉄鋼会社があったこの町はウエストバージニアのフォランスビーという。普通の地図では載っていない。小さい町なのだ。
20年前にもここにいたことがあるけど、既に凋落は始まっていた。当時ホテルのレストランで毎日会うおばあさんがいた。やせ細っていた。毎日見かけるから話すようになってしばらくしてから尋ねた。
「仕事は何?」
「ふふふ、とこのメインストリートの角にある店よ」
・・・え?そこストリップショーのクラブだけど・・少しばかり恥ずかしそうな目つきをするおばあさんを見てしばし黙ってしまった。
そんな町が20年過ぎてさらに過疎化。まともなレストランはないが、ハンバーガー屋はある。マクドナルトにバーガーキング。どちらも老人の集会所と化していた。従業員までほとんど老人。
そういう町で20代のサムは毎日何を思っていたのだろう。どうしてここにいるのだろう。静かな刺激がない生活はできるが、ここにはロックバンドも新しい映画も来ない。年に1度町を挙げて祭りがある。人口3000人でみんな顔見知りで和気あいあい・・・。
20代の彼には、新しい出会いもありそうに見えるはずもない。
私がその町を出る2週間前、そろそろここを出るのだと言おうと思っていた朝、店にサムはいなかった。耳やら鼻やらピアスだらけで体中刺青だらけで知性もかけらもなさそうな若い男がふらふらと立っていた。
サムは?
ー サムは、故郷に帰った。
故郷?どこだい、故郷って?
ー サウスキャロライナ。で何を食べる?
見かけによらず仕事に忠実な彼だった。
ベジさ。ベジライト。
サウスキャロライナか。アメリカは広大でどこも田舎町風で片隅に中華料理屋があって大抵甘いたれがかかった春巻きを売っている。行ったことがある、と言っても広い州の一部だけどね、サウスキャロライナもそんな中華料理店だけが印象的だった。
そこで、サムは何を見られると思って戻ったのだろうか?
スターのロックコンサートか? 出会いを求める女性が集まるバーか?
俺もあんな風にライトを浴びるときがいつか来るのかなぁ なんて思うこともなくなった私とはサムは違うだろう。自分の横を照らして過ぎてしまうスポットライトを見ながら、次は自分を照らすかもしれない、照らさせてみせる、そう思いながらサムはさまよっているのかもしれない。
それは若さによる思い上がりだ。いいんだ、思い上がれば。上を見ないで上がれる人はいない。 この私だって、他人にはもう言えないけど、チラッチラッとこっそり上をいまだにみているんだから。