【274】からのつづき

大正時代に建てられた別荘を改装したという「みはらし亭」さんは、その名の通りカフェの客席からも尾道の海と町を一望できる。

レモンスカッシュを飲みながら窓の外に目をやると、尾道水道を行き交う船や、弧を描きながら山の向こうに消えてゆく貨物列車が模型のように見えている。

心と体に潤いをもらった「みはらし亭」さんをあとに、再び階段と坂道を上り千光寺さんに到着。

手を合わせ、尾道を訪れることができたことへの感謝を深めてから、鐘楼の脇に立つ。

奉納された数々の風鈴が奏でる音を聴きながら、絵に描いたような坂のまちの風景に見とれる。

尾道には翌日の午前に訪れる予定だったが、朝から快晴の予報となっていたので、曇り空の今日の方が坂道を上り下りするにはよかったと思う。

10分ほど佇んでから千光寺さんをあとに、帰りはルートを変えようとロープウェイ乗り場を目指す。

上がってきた宅急便のトラックは電気自動車で、坂のまちではバッテリーの減りも早かろうと思うが、蓄電能力の向上や回生ブレーキでの電力吸収性能改善などで尾道での運用も問題なくこなしているのだろう。

ロープウェイ乗り場に着くと下り便が出たばかりで、しばし待機かと思っていると、係の方が「３分で到着しますのでホームでお待ち下さい」とおっしゃるので、列の先頭で待つ。

説明通り３分でロープウェイが上がってきて満載の客を吐き出し、空っぽになった箱の中に案内される。

尾道のおすすめ観光ルートを検索すると、尾道駅から昭和レトロの商店街を歩いて麓のロープウェイ駅に向かい、空中散歩を楽しんでから千光寺参詣ののち、坂を下りながらまちの風景を楽しむーーというようなプランが多く出てくる。

それが合理的なルートで体への負担も少ないということは分かっているが、最初に尾道の坂を体感しながら時折振り返っては景色を眺め、乱れた息を整えてからお参りするという道程がこのまちの歩き方に相応しいと思った。

従って下りロープウェイを使う人は少なく、私が目の前で乗り逃した先ほどの便は乗客ゼロだった。

この便も客は私だけかなぁ、と思っていると出発間際に男性４人組が乗り込んできて、案内係の女性と合わせた６人を乗せて麓へと降りてゆく。

途中で客を満載した上り便とすれ違い、約3分で山麓駅に着くとすでに次の上り便を待つ客で溢れている。

６月の函館以来となったロープウェイを楽しんで、尾道「山の部」を終了。

朝メシを喰わずに坂道を歩いたので腹が減ってきた。

まだ10時前なので開いてる飲食店は喫茶店ぐらいだろうと思いながら、昭和レトロでブームになっているアーケード商店街を目指した。

(つづく)

【275】尾道で潤う