【269】からのつづき

初めて降りた広電廿日市から海側にある目的地を目指して歩くと、地元のお祭りが開かれているようで、通りに屋台が並んでいる。

漂ってくるソースの香りに腹を鳴らしながら、地元道を抜けてこちらへ。

今年18蔵目の酒蔵訪問となるサクラオブルワリーアンドディスティラリー。

かつては、中国醸造という名前の日本酒蔵だったが、「桜尾」をはじめとするウイスキーやジンがヒットし、2021年に現社名に変更された。

もちろん現在でも日本酒「一代弥山(いちだいみせん)」(弥山)を醸しており、歴とした日本酒蔵である。

そういえば６年前にリーガロイヤルホテル広島で、中国醸造さんの方々による正調鏡割りの儀式を交えたレセプションでコース料理とともに弥山をいただいたが、それ以来口にする機会には恵れていない。

建物内に入ると、やはりウイスキーの存在感が際立っており、奥のスペースではウイスキーの試飲を楽しむ人々の姿が見える。

まずは冷蔵ケースに並ぶ数種類の弥山を眺めてから、ウイスキーコーナーをゆっくり歩く。

再び冷蔵ケースの前に立ち、弥山の四合瓶を２種類手に取ってカウンターに持っていき、宅配便で送ろうとすると購入金額5000円以上で送料が無料になるとのこと。

四合瓶２本の会計は3000円ほどで、ある日本酒蔵の社長が放った「他のアルコールに比べて日本酒は不当に安い」との言葉を思い出しながら、ウイスキー「戸河内」のシングルモルト蒸留所限定バージョンを加えたら、あっという間に１万円になった。

お店の方と少し話をさせていただくと、やはりウイスキー目当ての客が多いとのことで、「こちらでは日本酒も造られているんですか、と驚かれる方も少なくありません」と苦笑いされていたのが印象に残った。

支払いを済ませて、もう１度冷蔵ケースをのぞくと、桜尾の缶入りジントニックを発見したので購入し、店の外に出て小舟の舫う入り江を見ながらチビチビ。

広電に乗って日本酒蔵＆ウイスキー・ジン蒸留所を訪ね、入り江を見ながら１杯やることができた幸福感を味わっていると、急速に腹が減ってきた。

昼メシを喰わぬまま15時を過ぎているので、ジントニックを飲み干す前に腹に何か入れた方がよかろうと、先ほど来た道を戻り屋台の「はしまき」なる粉モンを食べてみる。

天かすを混ぜた小麦粉を鉄板で焼き割り箸で巻いた、片手で喰える具なしお好み焼きのようなもので、広島入りして最初に食べるのはどうかとも思ったが、ジントニックとの相性は悪くなかった。

とりあえず空腹が収まり、のんびりと小さな町の祭りの雰囲気を味わっていると、ポツポツと雨粒が落ちてきたので、小走りで広電廿日市を目指した。

(つづく)

【270】弥山と戸河内