【169】からのつづき

長津田から乗り込んだ横浜線を町田で降りたＭ君と別れて八王子に着くと、中央線ホームに富士山・河口湖行きが12両編成で入ってくる。

東京から中央特快として下ってきて高尾から普通列車となり、大月で前４両が切り離されて富士急行線に乗り入れ、富士山・河口湖まで足を延ばすロングランE電（死語)で、大月までは中央快速線ですっかりお馴染みになったグリーン車を連結している。

昨年10月のお試しサービス（料金不要)開始以来、100回以上使わせてもらっている中央快速線のグリーン車だが、思い返すと高尾から先で利用したことがない。

今日は、「休日お出かけパス」を購入したものの、2720円也のモトを取れたかは微妙な状況なので、無料グリーン車でパスの西限である大月まで行くことにした。

八王子で大量下車があったおかげで、２階席も座席の半分以上が空いており、高尾を出ると10人ほどになった。

高尾駅構内のポイントをユラリユラリと渡り、すぐに待ち受ける上り勾配をスムーズに進む。

E233系12両編成は、グリーン車を２両つないだことでモーター付車両の割合が以前の６割から５割に落ちているものの、インバーターで滑らかに制御された最大出力140キロワットのMT75型モーターが生み出すパワーで20パーミル台の勾配が続く小仏峠を難なく登ってゆく。

もっとも、かつて週末を中心に運転されていた「ホリデー快速ビューやまなし」に使用された215系（既に全車廃車)は120キロワットのMT61型でモーター車比率４割だったから、かつての難所を平坦地向け電車で越えることは、1990年代にはすでにたやすくなっていたのだろう。

小仏トンネル内で下り勾配に転じて相模湖、藤野と停まるたびに客が降りていき、上野原を出ると５号車２階席の乗客は私を含めて３人まで減った。

中央線を２階建て車両で下るのは、前述の「ホリデー快速ビューやまなし」で何度も経験しているものの、215系のボックスシートはイマイチ快適性に欠け空調音もうるさく、何に由来したものか独特の匂いに辟易した記憶が残る。

そんなことを思い出しながら、空いたグリーン車に揺られて暗闇の中央線を下っていると、夜汽車の雰囲気が感じられ、このまま上諏訪あたりまで行ってほしいと思ってしまうが、八王子から47分で大月到着。

ここで前４両が切り離されて９分停車後に富士急行線に入ってゆき、ホームに残された８両は折り返し高尾行きになる。

せっかく大月まで来たので、跨線橋を渡り改札を出ると、以前はなかったモニュメントが出迎えてくれる。

「ようこそ“桃太郎伝説の街”大月へ！」の文字があり、全国にあまたあるとされる桃太郎伝説がこの地にも存在しているのだと初めて知った。

調べてみると、大きな桃がドンブラコしてきたのは、すぐ近くを流れる桂川（かつらがわ)との設定、じゃなかった言い伝えとのことで、そういえば大月駅のホームではかつて、桂川館（けいせんかん)という業者さんの駅弁売りの女性が、「がぁまめしぃ～に、べんとぉ～」とダミ声を轟かせながら、釜メシや幕の内弁当の立ち売りをしていたことを思い出す。

踵を返してホームに戻り、８両編成高尾行きとして発車を待つ、先ほど乗ってきた編成の同じくグリーン車２階席に収まる。

ホームには、インバウンド客の集団がキョロキョロウロウロしており、おそらく同じホームの60メートル以上西寄りから発車していった富士山・河口湖行きに乗るつもりだったのだろう。

編成を分割して違う行き先の列車を同じホームから出すと、インバウンド客に限らずこうした事態がしばしば発生する。

海外では列車の遅延が日常茶飯事なので、「TAKAO」の表示が出ている電車が発車した後に、遅れている富士山・河口湖行きが入ってくると思っているのかも知れない。

次の河口湖行きは40分後だから、寒いのに気の毒だなぁと思っているうちにドアが閉まり、少ない客を乗せた高尾行きは大月からの勾配を下って行った。

（おわり)

【170】無料グリーン車で大月まで