【295】伊根町でええにょぼ | 酔いどれパパのブログ

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「お風呂」と「酒」と「路線バス」に関する駄文を書き連ねております。

【294】からのつづき


伊根町停留所から先ほどバスで通った道を戻り、3分ほどでこちらに到着。

「京の春」や「伊根満開」などを醸す向井酒造さん。

「海に1番近い酒蔵」と呼ばれている通り、上の写真にある酒造りを行っている建物の反対側は海で、道の向いには販売スペースを兼ねた主屋がある。
かつて行われていた試飲は取りやめているようなので、4合瓶を1本買い求めてから表に出て、もう1度陸側から向井酒造さんの建物を眺める。

買い求めたのは、私が伊根町を知るきっかけになった朝の連続テレビ小説の題名と同じ「ええにょぼ」。
向井酒造さんのメイン銘柄「京の春」の純米吟醸で、東京ではなかなか見かけない。

「ええにょぼ」とは、丹後弁で美人の意味だそうで、リュックに入れた720ミリの美人とともに、海側から舟屋を眺めることのできる場所を目指す。

ちなみに、「京の春」を初めていただいたのは約9年前、東京は四谷荒木町の「タキギヤ」さんで、菜の花のヌタで熱燗をやると朝ドラで主役を務めた戸田菜穂さんの笑顔が浮かんだ。

2日前まで丹後地方は雨の予報で、今日も隣の福井県は多めの雨量が見込まれていたが、伊根町は穏やかに晴れていて、ありがたいことこの上ない。
海に向かって建ち並ぶ舟屋群も初冬の陽光に照らされており、30年間眺めたいと願っていた光景が夢の中のように広がっている。

先ほど訪れた向井酒造さんも舟屋と軒を連ねており、できることなら海に面して設けられたスペースで一杯やってみたかったと思う。
ちょうど昼どきとあって、飲食店はさまざまな国籍の観光客でごった返しており、その渦に身を投じたら伊根の風情が吹き飛びそうなので、かつての舟屋を保存している施設に入る。

他に観光客の姿はなく、保存活動をされている男性と伊根町も選定されている重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)のあり方について熱い議論を交わした後、舟が出入りしていたスペースに案内していただく(許可を得て撮影)
ここから見る伊根の町並みは水面が近いアングルのせいか安らぎが伴い、いつまでも眺めていたい。
かつて用具置き場だったというスペースを改装した2階からの景色も味わいがあり、先ほど買った「ええにょぼ」の栓を開けたくなる。
そうこうしているうちに空が暗くなり、ザーッと雨が降り出す。
この地域で初冬に起きる「うらにし」と呼ばれる気候で、短い時間に晴れと雨が入れ替わることで生み出される湿度のバランスが、丹後縮緬独特の風合いを生み出すとされる。

「うらにしですね。雨の伊根もいいですねぇ」と呟くと、「雨を喜ぶ人は珍しいけど、うれしいわぁ」と保存会の男性がおっしゃる。

陽光に耀く海と、雨に佇む舟屋群、変化する空模様に表情を変える伊根の風景に出会うことができて、積年の想いが叶った。

保存会の男性に礼を述べ、リュックから取り出した折りたたみ傘をさしてバス停を目指した。
(つづく)