夕食後
食器を片付けていると
彼が私の近くに来て
「せっかく来たのに
仕事ばっかでごめんな」
と謝ってきた。
私は全然気にしてなかったので
「全然いいよ。
でもうちだとやりにくくないの?」
と聞いてみた。
「さっきすげぇはかどったんだよ。
不思議なことに」
「そう……。でも機材とか………」
必要でしょって言おうと思ったのに
後ろから軽い衝撃があって
言葉が途切れた。
気づくと
私は彼から抱きしめられていた。
急に私の心臓の音は大きくなって
彼に聞こえているかもしれないと
思う程だった。
「お前の近くは
俺にとって居心地がいいのかもな…」
彼の低い声が耳元で聞こえてきて
ゾクゾクッとした。
「普通は人がいると気が散って
作業もはかどんねぇんだけど…
さっきはすごい集中できた。
曲出来ねぇとかイライラしてたのが
嘘みてぇだった。
ありがとな……」
彼に何故か感謝されてしまって
調子が狂う。
「や……たまたまじゃない?
私が静かにしてたから」
こういう時
もっと可愛いこと言えたらいいのに……
私は可愛くない自分を恨んだ。