それからしばらく
大学の試験があって
バイトに入れなかったから
彼と会うこともなかった。
それに
新規じゃなくなれば
新人のバイトの人も担当に入ったりするから
私は他のお客さんの担当に当たっていた。
結局彼には連絡もしてないから気まずいし
会わなくて反ってありがたかった。
でもある日のバイト後
「シセリさん?」
従業員出口を出て少し歩いた所で
誰かに名前を呼ばれた。
振り返ると、彼がいた。
「あ………」
私はビックリして
急に心臓がバクバクしていたけど
「今から予定ある?」
彼は至って普通な感じで話掛けて来たから
ちょっとだけホッとした。
「え………なんでですか」
「少し話聞いてくんねぇかな~と思って。
俺の事情とか……」
事情………
実は彼の謎めいている感じが
すごく気にはなっていた。
年齢に合わないくらいにガチガチな手。
友達がいない事情。
そして何故私なんかに
友達になってと言うのか………。
私は気づいたら
「……少しなら」
と彼の誘いに乗ってしまっていた。