Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol. 54
Distillati&Liquori di Gualtiero Marchesi
Bottega-Alexander Grappa Platinum
今回はマルケージのワゴンからグラッパをご紹介です。ミラノフォーシーズンズで存在を知ってから『自分のグラッパ』と勝手に決め、それ以降、マルケージを含む自分が勤める店では常備する様になった一本です。
2011年、日本における厚生労働省通達は、インポーターと我々飲食業界に大きな影響を及ぼしました。いわゆる『グラッパ輸入禁止通達』です。人間にとって猛毒となるメチル(100%メチルの場合、10mlで失明、30~100mlで致死)が、基準値(飲用グラッパは1,000ppm未満)以上含まれた仏産アプリコット・ブランデーが発見され(最高6g/㎏だったとか)、慌てた政府が通達を出したのでしたね。結果、製菓用と書かれたバックラベルを貼り、且つ高額な検査料をグラッパ代金に上乗せしてまでも輸入を続けるか、或いはきっぱり輸入を諦めるか、の選択を迫られた訳です。結果、皆さんご存知の通り、多くのインポーターがグラッパの輸入を諦めました。
穀物由来の蒸留酒より果実由来の蒸留酒は、製法上の都合でメチルの含有量(残留量)が多くなります。その場合には初留がメチル含有部分の大半を占めますので、その部分を破棄すれば残留基準をクリアする事になりますが、実際には初留が一番美味く、それを捨てた後の液体は何とも味気ない代物になります。上記の通達前にはグラッパ独特の、ある種曖昧な蒸留法の恩恵を得て、数多くのニュアンスに富んだ作品が比較的安価に入手出来たのですが、残留量の多さに気付いてしまった厚労省は、さすがにそれ以降目をつぶれなくなったという事ですね。
Alexanderは蒸留法を変え、メチルを減らしつつもニュアンスに富んだGrappaを生産するという難題の解決に成功します。まずヴィナッチャの酸化防止を徹底(真空状態での管理保存)し、ヴィナッチャ時のメチル生成を抑止します。次に(メチル&エチルの共沸混合物を)連→ポットスチル→連と3回の減圧蒸留を行い、組成を壊さずメチルを取り除きます。更に液体をINOX内で6ヵ月休め、アロマを回復させます。時間・手間・経費が掛かるこの方法を可能にしたのが、Grappa Alexanderの他にも金・銀・ピンクゴールド等の煌びやかなボトルデザインProseccoを生産し大注目されているBottega社ならではの豊富な資金力でした。
Bottega社:創業1635年、地ワイン造りに端を発し、現在はグラッパとProseccoで人気を集めていますが、生産開始年はGrappa Alexander(1987~)、Prosecco 'Il Vino dei Poeti'(1992~)と、Grappa造りが最初です。高品質Grappaに拘り、それらをヴェネツィアングラスボトルに詰めて販売し始めたところ、これが大成功。その時のブランディング力をProseccoにも応用し、特徴的なボトルデザインを施して販売したところ、現在はProseccoが会社全体の売上の80%を占めるまでのヒット商品になります。豊富な資金を基にGrappaの研究・改良と改善を進める他、現在は自前のヴェネツィアングラス工房も所持し、Grappa用に様々なジャイアントボトルを造り、Grappaを詰めて販売する様になります。私が勤めていたミラノフォーシーズンズは彼らのブランド力・品質が、フォーシーズンズクオリティに相応しいとハウスグラッパに採用されました。私もヴェネツィアングラスボトルを担いで注ぎまくります。以降、その高品質が気に入った私は、マルケージでも同グラッパとジャイアントボトルの導入を試みたのですが、ボトルの破損を恐れたマルケージの反対に合い(事実、ボトル下部のガラス製支え部分は良く割れました)このPlatinum(Grappa di Amarone)ならばOKと採用したのでした。以降、私が勤める各店舗でオンリストされる様になります。
2008年頃からは、この全身銀色Grappaは、その様から私に『ゆってぃ』と名づけられ、一頃はサービスする度に『ワカチコ』と叫びつつ注がれていましたとさ。
でも、美味しいですよね。
因みに『ワカチコ』は『若さ・力・根性』の事だそうで。
この項 了。
プラチナムのボトルです。秀逸。
工房でのボトル製作中写真。
こんなボトルにグラッパが入ります。
蒸留機。
ご存知、ゆってぃですね。